軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

419.シーラの気持ち

「…………また、日を改めて」

ローニンは長い苦悩のすえ、どうにかこうにか、って感じで言葉を搾り出した。

それに対して、シーラはいたっていつもの調子で、上品な空気を纏ったまま微笑んでいた。

「ええ、結構ですわ。大司教猊下には相応の礼儀をもってお応えするつもりですわ」

「……」

ローニンはまた顔がすこし強ばってしまった。

俺にでもわかった。

ローニンには相応の礼儀を――ローニン「には」。

ローニンは別にシーラを裏切っていない、その上教会の要人だ。

だからローニンにはちゃんと礼儀をもって接する。

ただし裏切ったら――という、声には出していないシーラの言葉の裏がはっきりと聞こえたような気がした。

辞去するローニンをちゃんと見送ったあと、廊下を一人で歩いて、部屋に戻るシーラ。

『この後どうなるんだ?』

「そうですわね……まず、ジャミール王国の首脳は激怒するとおもいますわ」

『激怒?』

「ああ、あの女何様のつもりか、と」

『ああ……』

なるほど、と思った。

自分の発想からは出てこない推測だけど、いわれてみれば納得する類のものだった。

「小娘がつけあがりおって――とかもいってそうですわね」

『そこまでいうか』

「わたくしはもとキスタドールの王族ではありますが、継承権は下位も下位、泡沫もいいところですわ。国の首脳から見ればそのようなものですわね」

『なるほど』

なんとなくだけど、シーラも大変なんだな、と少しだけおもった。

『シーラは本気で「やる」つもりなんだよな』

「皆殺しのこと?」

『ああ』

「ええ、そのつもりでしてよ」

『だよな』

剣の姿だが、俺は感覚的に納得して頷いたような気分になった。

『で……それはローニンにしっかり伝わったんだよな』

「おそらくは。あれほどの地位で多くの人間を見てきたものですわ、本気かどうかはさすがに見抜けるとは思いますわ」

『それはジャミールの上の人に伝えるか?』

「伝えないと話がはじまらないでしょう。ここはあなたに感謝ですわね」

『俺に?』

なんのことか、と訝しんだ。

ローニンとの交渉では俺は何もしていない。

それで俺に感謝といわれてもはてなんの事かと不思議に思ってしまう。

『ヒューマンスレイヤー……という名でしたわよね』

「え? ああ……パルタ、前のパルタの時のことか」

【ヒューマンスレイヤー】

シーラの前のパルタ公国、トリスタンを相手にするときに俺が改造した魔法。

ラードーン、デュポーン、ピュトーンの三人にかけられた【ドラゴンスレイヤー】を改造して、人間に特効のある魔法にしたのが【ヒューマンスレイヤー】だ。

「あれのことを当然、ジャミールもキスタドールも把握していましてよ」

『まあ……純粋な人間じゃない、何かのハーフでかからなかった人から情報が広まっていったのはしってるが』

「魔王というものは、その気になれば一刻で皆殺しにできる力をもっているし、実際に使いもした、という実績がそこでできました。それがあるから、わたくしが宣言した『皆殺し』が現実的なものになったのですわ」

『なるほど』

現実的なもの、か。

たしかに、【ヒューマンスレイヤー】のあれがなかったら、一国の人間を残らず皆殺しにするなんて非現実的な与太話に聞こえただろうが――実際に前例があればまったく話が変わってくる。

『シーラがパルタ大公というのも影響してくるか』

「そうですわね」

『なるほど』

話している間に,シーラはリビングにやってきた。

リビングに入って、ソファーに座った。

その間、俺は俺なりに状況を纏めて、色々と考えた。

『それなら……ジャミールは降参してくるか』

「どうでしょうね」

『え?』

俺はびっくりした。

シーラが本気で「皆殺し」にするというのが伝わればさすがに降参するだろうと思ったのだが、シーラはやんわりとそれを否定した。

『続けるっていうのか?』

「ええ。その可能性はありますわ」

『民が皆殺しにされるかもしれないのに?』

「権力を持った人間はそう簡単にそれを手放すことはできなくてよ。大抵は最後までしがみついて、何か方法はないかとしぶとく食い下がってくるものですわ」

『そういうものなのか』

「そういうものですわ」

シーラはにこりと微笑んだ。

いつもの彼女らしい微笑みだが、どことなく冷笑的で、あざ笑っているような感じがした。

『……シーラはどっちがいいと思ってる?』

「何がですの?」

『降伏するのと、しないのと』

「そうですわね……」

俺の質問をうけ、シーラは思案顔になる。

いかにも真剣な顔つきでかんがえこんだ。

まあそんなに簡単に答えがでるようなもんじゃないよな……と思った次の瞬間。

シーラは俺を見て、にこり――いや、にやりと笑った。

にやり? と、なぜそんな表情になるのかと不思議がっていると。

「降伏しない方がいいですわね」

『そっちか、なんでだ?』

「いろいろとシミュレートしてみました、降伏をしなかった場合の方がおそらくは障害や課題が多くなりそうでしたわ」

『難しいってことか? だったらなんでそっちに?』

「そちらのほうが――」

シーラはまた、にやりとわらった。

さっきのよりもはっきりとした、それでいて屈託とか悪意とかそういったものがない「にやり」だ。

「――あなたの魔法を多くみられそうですわ」