作品タイトル不明
415.働き者の少年
『シーラがそう言うんならそうなんだろうな』
「まったく、自分のことにはとことん無頓着ですのね。神竜様の苦労がしのばれますわ」
呆れ笑いしてから、シーラは真顔できいてくる。
「お聞きしますが、何一つ変哲のない、というものならすぐに作れまして?」
『ああ……たぶん、小一時間もあれば』
「ではそれを今つくって下さいまし」
『わかった』
シーラの依頼を受けて、俺は頭の中で構想を纏めながら、体では魔力を練りだした。
魔剣が魔力を行使した、その光景についてきた村長がビクッとなった。
そんな村長にシーラが語りかける。
「お話、よろしくて?」
「は、はい! なんでしょうか?」
「村長ということは、村人のことはおおよそ把握しているという認識でよろしくて?」
「はい! 村のことなら何でも!」
村長はハキハキとシーラに返事をしていたが、合間合間にちょこちょこと、ちらちらと俺の方を気にしていた。
シーラはその反応をも無視して、更にきく。
「では一人、推挙なさってください」
「すいきょ……?」
「この村で一番の働き者を、わたくしの前に連れて来なさい」
「は、はい! ただいま!」
村長は慌てて、一直線にどこかに駆け去って行った。
シーラの命令だからか、よほど慌てていたようで、途中で足をもつれさせて、転げそうになっていた。
シーラは悠然としたたたずまいのまま、俺を見守っていた。
見守っているが話しかけては来ない。今はまず、俺が それ(、、) を作り出すのが一番大事なことだと理解して、製作を急いだ。
しばらくして、村長が一人の少年を連れて戻ってきた。
二人は同じように、転がるやら滑り込むやらって感じで、シーラの前にやってきて、地面にひれ伏した。
「お待たせしました!!」
「ご苦労。その彼がそうですの?」
「は、はい! おい!」
「お、おら、おらは――あの、えと……」
「こら! ちゃんとしないか!」
村長以上に緊張している様子の少年。
緊張しすぎてまともに話せない様子。
わかるなあ……それなりに渉外経験のある村長ならいざ知らず、下手したら村から出ることなく一生を終えるようなこともあるのが、農村で生まれそだった者だ。
そんな若者がシーラのような、村長さえもひれ伏すような大人物を前にしてまともに話せないのも無理からぬことだ。
その振る舞いがシーラを不快にさせてしまわないかと、村長は怯えていて、それで若者を叱責した。
叱責はますます若者を萎縮させる事になった――のだが。
「よろしくてよ」
と、シーラは穏やかな声色で話しかける。
「え?」
「あなたのお名前は?」
「な、なな、なまえ?」
「ええ、名前は?」
「そのあの……い、いち……」
「いち?」
シーラはキョトン、と小首を傾げた。
「いちという名前ですの?」
「そそ、それはそのあの……あの――」
『たまにそういうことがあるんだ』
見かねて、俺が助け船をだした。
「どういうことですの?」
『農村とかでたまにあることなんだけど、名前に無頓着で、最初の子供だから 一(いち) 、次の子供が 二(に) 、そのつぎが 三(さん) って感じで』
「そういえば、そのような話を聞いたことがありますわね。実際にあるやり方なんですのね」
『ごくたまにな』
「そうでしたの。村長?」
「は、はい!」
「その子が村で一番の働き者でよろしくて?」
「は、はい! 世間知らずですが、働きものなのは村の皆が認める所です」
「そう」
シーラは穏やかに微笑んだ。
そのまま、若者にいろいろ話しかけた。
俺が作るのに時間掛かるということもあって、シーラは若者にかなり時間をかけた。
問いかけをして、若者が焦って。
一分くらいまって、それで落ち着きはしないがどうにか答えて。
それでまた次の質問をして、また若者が焦って。
分単位でまって、またどうにか答えて。
その間、村長が慌てて叱責したり、代わりに答えようとするのだが。
「わたくしは彼と話しているのですわ」
と、穏やかだが有無を言わさない口調で村長をとめた。
それを数回繰り返すと、若者もシーラに少し慣れて、ちょっとずつ普通に話せるようになりはじめた。
「では、妻を迎えるのが目標ですのね?」
「うん……でもおら、お金無いし。ちょっと前に隣村の未亡人がいたけど、その時もまとまったお金が作れなくて他の人に持ってかれたし」
「未亡人がお好きなんですの?」
「え? 好きっていうか……未亡人だとちゃんと子供産んでくれるじゃないですか」
「ああ……労働力は大事ですものね」
「はいです」
次第に若者との会話が弾んでいくシーラ。
農村のことは詳しくはないが、基礎知識があるから知らない事もすぐに理解できるシーラ。
さすがだなと思った。
このあたり、魔法しか取り柄のない俺とは違うなと感心した。
そうこうしているうちに――。
『よし』
「あら。できましたの?」
シーラは俺に聞いてきた。
俺の存在をそもそも理解もしていなさそうな若者がキョトンとなった。
『ああ、できた』
「すごいですわね、この一瞬で」
『出来る事を組み合わせただけだからな』
「……そうですわね」
シーラはふっと笑った。
「では見せて下さいまし」
『ああ』
シーラの言葉に応じて、魔法陣を広げる。
作った異次元空間を、最後に【アイテムボックス】から取り出した紙に依り代として宿す。
できたのはドアの紋様を描いた壁紙――ポスターの様なものだった。