軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

402.魔王の城

惨劇は唐突に幕を開けた。

サーサラ平野を整然と進軍するジャミール軍の頭上に、唐突な黒い影が覆った。

最初は誰もが気にしていない、なんとなく意識にはいったものであっても雲がよぎった程度のものだと思った。

その影が次第に大きくなり、爆発とともにシーラが軍の中央に降り立った。

衝撃波とともに兵が吹き飛ばされ、半径十メートルのクレーターができた。

そのクレーターの中心で、純白のバトルドレスを纏うシーラが悠然とたたずんでいた。

「な、なんだ!?」

「あの姿、まさかパルタ公!?」

「馬鹿な! 一人やってきただと」

さすがシーラというべきか、「現われただけ」で敵軍、ジャミール軍に動揺を走らせた。

シーラは穏やかな、それでいて不敵な笑みを浮かべながら、緩やかに手をあげた。

それを合図に俺――魔剣リアムが上空での待機をやめて、前もって言われた速度でゆっくりと下降し、シーラの目の前に降りた。

「ま、魔王の剣!」

俺の出現で動揺が一際大きくなった。

シーラは俺の柄を握って、いつものように姿を変え、変身する。

純白のバトルドレスに、漆黒になびく長髪。

彼女の名を高めた「魔王のしもべ」そのものの姿だった。

「『魔王の城』、展開」

右手で俺を持ち、左手の五本指を開いて前方に突き出す。

瞬間、結界に似た魔法の領域が、シーラを中心に円の形で広がる。

それは二重丸――上空から見れば「◎」のような魔法の領域だった。

シーラを中心に最初の丸は半径十メートルの、ほぼクレーターを収めた領域。

そしてその外側に、更に広げた領域がジャミール軍をとりかこんでいた。

「一人目、ですわ」

不敵にそうつぶやくシーラ、すると、磁石かなにか見えない力に吸い寄せられるかのように、一人の兵が外側の円から内側の円に吸い込まれた。

いきなりのことで兵はバランスをくずした、が。

シーラは構わず、魔剣リアムで兵を斬った。

袈裟懸けに斬った兵は断末魔の叫びを上げ、血しぶきの中沈んだ。

「つぎ」

静かに話すシーラ。

二人目の兵が同じように、磁石のように吸い込まれる。

一人目の姿をみているからか、今度はバランスを崩すことなくすぐにシーラに向かってきたが、所詮は雑兵と言うべきか同じようにシーラによって一刀の下に斬り伏せられた。

そうして三人目、四人目と、シーラは一人ずつ、外側の円から内側の円に入れて、それを斬り伏せていく。

そして五人目。

「ひ、ひいいいい!!」

前の四人が斬り倒されているのを目撃している若い兵は、一対一では到底シーラにはかなわないと悟ったのか、「中」に入れられた瞬間背中を向けて逃げ出した。

最初の円の際まで行ったが、出られなかった。

「◎」の中の境目、まるで色つきのガラスのような結界が、一人の兵と軍を隔てた。

兵はそのガラスのような結界をどんどんと叩いた、向こうにいる軍も兵を助けようとする。

が、内から外からいくらやっても結界が壊れる気配はない。

その間、シーラは悠然と、まるでパーティーの広間を歩くような悠然とした足取りで兵にむかっていき、背後から斬った。

背中を斬られた若い兵は結界の壁に血手形を残して、地面に崩れ落ちた。

シーラは更に斬った、一人また一人呼び込んで斬っていった。

呼ばれなくて、外側に隔離された他の兵はシーラを口々に呪ったが、シーラは婉然な微笑みを返すだけで、意にも介していなかった。

一方で、二重丸の外側を叩く兵がで始めた。

中に入れられる、このままだと一人ずつ呼び込まれて斬られてしまう。

そうなれば気の弱いものから逃げ出すのが当然の成り行きだが――出られない。

上空から見える「◎」はそのまま二重の結界だ。

間の領域に閉じ込められたジャミール軍は中心には入れず、外にも逃げられない。

二重結界。

シーラが命名した「魔王の城」という名前は、ジャミール軍に恐怖をあたえていた。

その「魔王の城」で、たっぷりと数時間かけて。

シーラは絶望と恐怖をじっくりすり込んだ上で、一人ずつ呼び込んで斬っていった。

全員斬った後、俺は二重結界を解いた。

「ご協力感謝いたしますわ。わたくしの力では全員を完全に閉じ込めることができませんでしたから」

『よくこんなのを考えたな』

「貴族の悪趣味を転用しただけですわ」

『貴族の悪趣味?』

「あなたは興味がないのでしょうけれど、逃げ場のない闘技場とは名ばかりの檻の中で、奴隷をなぶり殺しにする見世物がありますの」

『そういうのがあるのか』

なるほど。

たしかにシーラが今し方やったことは「逃げ場のないリングでなぶり殺しにする」ものだった。

『前例があったというわけか』

「ええ」

『恐怖と……絶望をたっぷりすり込むことができたな』

「あなたのおかげですわ。絶対にげられない結界と、どうきっても絶対致命傷『以上』にはならない魔法」

シーラのいうとおりだった。

この光景を一言で例えるのなら「死屍累々」という言葉が真っ先にでるだろうが、実の所今ここに死体は一つもない。

全員が重傷を負っているだけだ。

『これでまた恐怖をもって帰ってもらえるな』

「ええ、本当に感謝しますわ。これだけやれば、そろそろ次の効果も出ることですわ」

『次の効果?』

「ええ」

シーラはにこりと笑う。

彼女が何を仕組んで、どういう結果が出るのか。

協力している分、その事が気になって、たのしみになった。