軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

335.見返りはいらない

「ご主人様」

「うん?」

俺と契約シーラの話が一段落したところで、レイナが話しかけてきた。

視線を向けると、レイナとスカーレットが同時に俺の方を向いていた。

「どうしたんだ?」

「主の裁可を頂きたく」

「裁可?」

「当面の間バンシィが駆け込んでくる事がつづく可能性が高い、故にギガースと人狼達を国境近くに張り付かせておくのがよいかと思います。

「なるほど。それは当然だな、任せた」

「かしこまりました」

「その際ですが、どこまで手をだしていいのか、国境を越えてもいいのか。それらもご主人様のご意見を」

「そうだな……。逃げてきたバンシィが目に入ったら何が何でも助けたい」

そうなったときのことを想像してみた。

逃げてきた者達が目の前でやられる光景だけはなにがあってもみたくないものだ。

それは俺だけじゃなく、国境近くに行かされる、実際に助ける任務を負うギガースと人狼――ガイとクリスたちもきっとそうだ。

遠く離れたまだ見ぬバンシィ達ならいざ知らず、目の前まで来られてそれで助けられなかった事態になんて絶対になっちゃいけないと思う。

「見えたら何がなんでも助ける事。国境を越えてもいいし、人間達と真っ向からやりあってもいい」

目に見える所まで逃げてきた魔物達は何をしてても助ける。

その方針が決まったところでひとまず会議をおえて、スカーレットは国の方針の伝達を、レイナはガイとクリスに指示をとそれから動き出していった。

一人会議室に残った俺は、バンシィの件に「魔法」で出来ることは無いかと考えた。

「……だめか」

『何がだめなのだ?』

一人っきりになった事で、俺の独り言にラードーンが遠慮無く反応してきた。

「なにか魔法で出来る事は無いかって思ったけど、そもそもその『なにか』がなんなのかも分からないから考えようがないな、って」

『ふむ、状況に応じた魔法の対処はいくらでも思いつくが、状況そのものは魔法ではないから、というわけだな』

「すごいなラードーン、ちょっと聞いただけで問題点をズバッと言い当ててくるんだな」

『まあ深く考えずともよい、いや、お前の場合むしろ深く考えない方がよいかもしれんな、くく』

「どういうことだ? それに……いつもと違う笑い方だけど」

『他の誰か――そうだな、シーラ嬢にでも聞いていれば我の意地悪さか身勝手さを指摘してきただろうな、とおもってな』

「意地悪さに身勝手さ?」

『お前の場合何かがおきてから考えれば良い。魔法に限って言えばそれでどうにかなるだろうし、常に負荷を掛ける状態であれば思いつきと対処も鍛えられる』

「なるほど」

『それを我は見ていて楽しい、が、ことが起きるのを待ってからというのは、予防はしない、常に犠牲がでてから動くということでもある』

「あ……それで意地が悪い……」

『ふふっ、そういうことだ』

なるほどと思った。

言われてみれば、たしかにそれは意地悪いとか身勝手とかって言われても不思議じゃないのが分かる。

俺は少し考えて、何も言わないことにした。

何が起きるのかを予想するのはたぶんどうやっても無理で、ならラードーンの言う「起きたから対処する」力をとことん鍛えるしかないとおもった。

そう納得したところで、ドアがコンコンコンコン、とノックされた。

「だれだ?」

「失礼致します」

応じると、エルフメイドが部屋に入ってきた。

部屋に入ってきたエルフメイドはまず手を揃えて深々と一礼した。

「ご主人様、グレースさん……? がご主人様に会いたいとの事です」

「グレース? もう大丈夫なのか?」

初めて他人の口から聞く名前だが、今は「誰?」とはならない名前。

最初に逃げ込んできたバンシィ、【ファミリア】の魔法で使い魔になって、グレースと名前をつけたダークエルフのことだ。

「ご主人様にお礼をしたいと」

「わかった、通してくれ」

応じると、エルフメイドはもう一度頭を下げてから部屋をでていって、入れ替わりにグレースが入ってきた。

バンシィからダークエルフになったグレース。

逃げ込んできた時は全身をすっぽり覆うようなボロいローブだったのが、今は黒を基調にしたドレスを纏っている。

ブルーノとの取引で街に入ってきた貴婦人が着るようなドレスだが、ダークエルフが着ると貴婦人というよりも物語にでてくるような魔女のようにみえた。

そんなグレースにこっちから話しかけた。

「もういいのか?」

「もう大丈夫だ……助けてくれて感謝する」

「大丈夫ならいい。その格好がよかったのか?」

「え? あ、ああ……」

グレースはすこしたじろぎながら、自分の格好と俺の顔を交互に見比べた。

「たくさん服がある場所につれて行かれて、なんでもいいと言われたけど、なにがいいのかわからないから全部同じ色なのをえらんでみた」

「なるほど」

「まずかっただろうか」

「いや? まずいことは何もない。とりあえずその格好でもいいしずっとその格好でもいい。ほかに気に入った服が見つかればそれでもいいしほしいけどないものだったら言ってくれればブルーノに仕入れてもらうから」

「い、いいのか?」

「ああ」

「……」

グレースは驚いたような、信じられずに俺の真意を探ってくるような、そんな目で見つめてきた。

「とりあえずこの国にいる間は他の魔物と一緒だ。みんながやってる事はグレース達も同じようにしていい」

「その……」

「ん?」

「代わりに……何かをしたほうがいいのか? その……」

「ん?」

「人間は、その……」

グレースはもじもじしだして、何かを言いたげだが言いにくそうにしていた。

「こ、こういうとき、人間は見返りを要求するのだが」

「……?」

『ふふふ、なるほどな』

「わかるのかラードーン」

ラードーンに聞き返した。

俺がラードーンに話しかけるのを初めてみるグレースは目を見開き驚いてしまう。

それをひとまず置いといて、ラードーンの方に意識を集中した。

ラードーンが楽しげな口調のまま説明をする。

『バンシィは人間の家に住み着いていたといっていたな』

「言ってたな」

『ということは人間のやってきた事をつぶさに見てきたわけだ。助けてやる代わりに体を差し出せ――がよくあるパターンだな』

「はあ……」

そういうものなのか、とおもった。

当然そのつもりはまったくない俺はきっぱりとグレースに告げることにした。

「そういう見返りはいいから」

いうと、グレースはものすごく驚き、信じられないものを見てしまったような顔になるのだった。