軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282.説得

「……分かった兄さん、少し待っててくれ」

「何かお手伝い出来ることはありませんか」

「大丈夫だ」

当然の流れでブルーノが手伝いを申し出てきたが、俺はやんわりと断った。

「アメリアさんに聞いてくるだけだから」

「アメリア……様に?」

ブルーノは不思議そうに眉をひそめ、微かに首をかしげた。

なんでそんな事を、と言わんばかりの表情だったが、俺からすればなんで聞かないんだ? と聞き返したくなる。

「アメリアさんの演奏を広める訳だから、許可は取らないと」

「それは陛下の一存――いえ、さすが陛下、素晴らしいご配慮だと思います」

「当たり前のことだろ」

俺は微苦笑した。

この程度の事で「素晴らしい」って言われてしまった。

今まででもいろんな場面で「素晴らしい」とか「さすが」とか「すごい」とか、そういう風に褒められる事はよくあったけど、それは大抵の場合魔法がらみの場面だった。

それは褒められて恥ずかしい事も多いけど、その一方で納得出来る事も多い。

憧れの魔法、奇跡を起こす力、魔法の力。

魔法を成功させて「素晴らしい」って言われるのは気恥ずかしいけど納得できる。

それに比べるとこんなことで「素晴らしい」って言われても、恥ずかしい上になにがなんだかって気分になってしまう。

わからないし恥ずかしいしで、そのことは半ば聞かなかったことにして、ひとまずブルーノと別れを告げてアメリアの所に向かうことにした。

迎賓館の中、過ごしやすさと豪華さを両立させた造りのサロンの中。

訪ねてきた俺はアメリアと二人っきりで向かい合っていた。

いきなり訪ねてきた俺にアメリアは少し驚きつつも快く迎え入れてくれたので、俺はそれに甘えて開口一番切り出した。

「アメリアさんの写真と音声を売りたい」

「しゃしん……ですか?」

「あっ、そうだった。すみません、まずは写真の説明をします」

「はい」

「【リアムネット】という魔法があります」

「リアムネット……たしか、お手紙を届ける魔法でしたでしょうか」

「そうです。手紙以外も届けられます」

「そうなのですか?」

アメリアは少し驚いたようすだった。

この街に来て、この迎賓館に泊まってしばらく経つ。

【リアムネット】は今やこの魔法都市と深く結びついている魔法だから、アメリアにもある程度の説明をした上で使えるようにしている。

とはいえ普段の生活とは縁が遠すぎる魔法のせいか、アメリアがそれを活用している様子はない。

「例えば……こんな感じです」

俺は【リアムネット】をつかって、自分の写真をアメリアとの間の空間に映し出すことにした。

ちょっと前にメイドエルフの子が撮って全国に拡散した俺の写真だ。

俺の写真だしみんな一度は見ているものだから遠慮無く使わせてもらう事にした。

「これは……リアム陛下の肖像画? ものすごく似ていらっしゃる……」

「これが写真です。『真実を写し出す』という意味で、写真。雑に言えばみたそのままの光景をこういう風に保存しておく魔法です」

「すごい魔法なのですね……聞いた事もありません」

「動く写真もあります」

「動く写真ですか?」

「はい」

俺は頷き、別の写真を映しだした。

俺とアメリアの間に映し出されたのは俺の寝室、そして寝ている俺。

「むにゃむにゃ……ぜんりょく、ぜんかーい……いっ……けー」

ベッドの上で寝ている俺は、なんだか恥ずかしい寝言を言っていた。

「こ、これは?」

「俺の寝相です。動く写真の魔法を作ったときに、そういえば自分の寝相って知らないなあ、って何となくおもって、じゃあ寝てる時の姿を写真にしようって思ったんです」

「そうだったのですね。ふふっ、たしかに、自分の寝相や寝言がどうなのかはきになりますね」

「はい」

アメリアと見つめ合った。

どちらからともなく、噴き出すように笑い合った。

不思議な気持ちになった。

ものすごく憧れている人で、今でも目の前にいると緊張がとまらないほど憧れの人で。

そんな人と、「自分の寝相は気になる」という事で共感しあえるなんて思いもしなかった。

「やはり……リアム陛下はすごいお方ですね。魔法でこんな事ができるなんて知りませんでした」

「そうですね、俺が作った魔法なので、この国の人間以外は初耳になるのでしょう」

「作られたのですか? ますますすごいです」

「えっと……あ、はい」

俺はめちゃくちゃ恥ずかしくなった。

魔法の事で「すごい」と言われる。

それは納得が出来るが、恥ずかしくもある。

普段でもちょっとはずかしい事が、憧れの人に言われたもんだから恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

同時に、嬉しくも思った。

「魔法がすごい」というのは俺自身おもっている事でもある。

だから、アメリアの「すごい」は何倍も嬉しかった。

とは言え、嬉しすぎてこのままじゃどうにかなりそうだったから、話を逸らして――本題に戻すことにした。

「そ、それでですね。これを売りたいんです」

「あぁ……そうでしたね」

そういう話だったな、という顔をするアメリア。

「アメリアさんの演奏を写真にして、この魔法を魔導具という形で作って。どこでも誰でもアメリアさんの演奏が聴ける様にしたいんです」

「……」

アメリアは目を見開いて、絶句しているように見えた。

やっぱり失礼だったか? と思った。

でもアメリアのすばらしさをもっともっと広めたいと思っている俺は、更に説得を試みようとした。

「もちろん、アメリアさんには――」

「……」

俺は口をつぐんでしまった。

アメリアが無言で立ち上がり、見下ろす形で俺に視線を向けてくる。

まずい! これは不快にさせてしまったか?

そう思って、俺は慌てて謝ろうとした――が、次の瞬間。

なんと、アメリアは。

深々と、腰を直角に折るほど頭を深々とさげてきたのだった。