軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243.救世主

「……よし」

しばらくじっと見つめていたが、【アナザーディメンション】を閉じてても、魔晶石の大きさが維持されるようになった。

「やっぱりみんなが戻ってきたか」

『ほう、わかるのか』

「なんとなく。魔力の……なんていうんだろう、雑味? が増えたから」

『そうか、ならばもう大丈夫というわけだな』

「ああ、ここから先は通常運転に戻れるはずだ」

俺はそういいながら、大きさが維持される魔晶石と、その魔晶石の中に封じ込めた「命綱」こと【アナザーディメンション】を目視で確認した。

魔晶石もあって、【アナザーディメンション】もある。

これで当面は街のインフラは大丈夫だろう。

『で、どうするのだ? このまま続けるのか?』

「いや、今日はもういいだろう」

『よいのか?』

「ああ。命綱をもうひとつはつけておきたいけど、それはもうちょっと本格的な何かを考えたい」

『本格的?』

「見て分かるように、これはその場凌ぎというか、応急処置だから」

俺は魔晶石の中に封じ込めた【アナザーディメンション】を指さしながらそういった。

魔法が発動した瞬間止めておく、魔晶石という見た目もあって――。

「食材を腐らせないように凍らせとくのと同じシンプルなヤツだ」

『同じシンプルではいざという時に共倒れの可能性もある、だから次は複雑な物にしたい、と』

「そういうことだ」

『……ははっ』

ラードーンは笑った。

「え?」

俺は不思議におもった。

ラードーンのそれは会話の流れにあるちょっとした笑い方じゃなくて、何かもっと大きく「ウケた」感じの笑い方だった。

「なにか変な事いったか?」

『うむ、本人が気づいていないのが輪にかけておかしいな』

「……魔法の事だから、そんなに変な事はいってないつもりだけど」

今自分が言ったこと、やったこと。

それを振り返ってみたけど、やっぱり変な事を言ったつもりはない。

だけどラードーンも何もなくてそんな反応をする様な人じゃない。

何かあるのは間違いない所。

それが何なのか――予想外の反応だったもんでちょっと不安になってきた。

「教えてくれ、何が変なのか」

俺は真面目に、自分の中にいるラードーンに教えを乞うた。

『ふふっ』

ラードーンはもう一度、本当に楽しげな笑みをこぼして――本当に楽しくて仕方がないからこぼれた、そんな感じに笑ってから、いった。

『次元魔法を、時間魔法と組み合わせて、希少結晶の中に封じ込めた』

「ああ」

ラードーンは端的に状況を表すように、俺がやったことを数え上げるようにいった。それは俺がやったことを一番シンプルまで切り詰めたもので、俺はそれをきいて頷いた。

『どこがシンプルだというのだ、ん?』

「……む」

『どれ一つをとっても、人間の域では人生の到達点にすらなるような代物だ。それを「シンプル」といいきり、我が指摘するまで気づきもしないのがたまらなく面白くてな』

「いや、それはなんというか、やり方の話で」

『慌てるな、そして照れるな。我はほめているのだ、素直に受け取れ』

「えっと……うん」

照れるな、と先回りされてしまったもんで反応にこまってしまった。

『そうなると、だ』

「え?」

『複雑、がどうなるのか。否が応でも楽しみになってくるというものだ』

「……ああ」

照れが吹っ飛んで、俺ははっきりと頷いた。

これはきっと「期待」だろう。

ラードーンは俺に期待をしてくれてる。

力を認めた上で、期待してくれてる。

あのラードーンがだ。

なら是が非でも、その期待は応えなきゃな、と強く……強く決意を固めたのだった。

魔物の街、自室の中。

戻ってきた俺をスカーレットが訪ねてきた。

スカーレットは普段とは少し違う、正装のような格好をしていた。

服飾のことはよくわからないけど、「正装」っぽい格好なのは何となく分かる。

「どうしたんだスカーレット」

「お疲れの所すみません。神竜様に現状のご報告を致したく」

「そっか――だそうだけど」

「――うむ」

ラードーンは俺の中から出てきた。

神竜というよりはいつもの幼げな少女の姿で現われた。

その姿と向き合ったスカーレットは厳かに一礼した。

正装にしか見えない格好ということもあって、めちゃくちゃ「絵」になる感じで、ここが自室というより謁見の間とか、そういう空間に見えてくる。

「で、話とは」

「パルタ公がこちらの条件に難色をしめしました」

「ふむ」

「まずは検討するための時間がほしいとのことでしたので、一旦引き上げてまいりました」

「そうか」

「それはだいじょうぶなのか?」

二人の淡々としたやり取りだったが、話を聞くに頓挫してるというか、暗礁に乗り上げているというか。

そんな感じに聞こえてしまったから、思わず口を挟んでしまった。

「うむ、問題ない」

「はい」

「そうなのか?」

「前にも話したが、今回は向こうを締め上げるのが目的だ」

「ああ……そういえば聞いたっけ」

「そのためには――そうだな、人間でいうとどういう感覚がよいのだ?」

ラードーンはスカーレットに水を向けた。

もともと用意してた答えなのか、スカーレットは迷いなく答えた。

「血涙を飲んで、位の感覚がベストかと」

「うむ。そういう感覚だ」

「なるほど」

「そうなれば一度や二度の交渉で終わることもなかろう。何度か難色を示した上で『血涙を飲んでもらう』のだ」

「そっか。じゃあ順調ってことか」

「はい」

スカーレットははっきりと頷いた。

交渉自体は進んでいないのに順調というのもすごい話で、あらためて二人はものすごく高度な交渉をしてるんだな、と思った。

「また、パルタ公がブルーノ様に接触を図ったという情報もございます」

「兄さんに?」

ブルーノというのは、俺が転生したこのリアムという人間の実の兄だ。

俺が転生した直後に婿養子に出されたが、その家の当主になって上手く切り盛りしている。

俺がこの「約束の地」にはいって、魔物の国を作ってからもいろいろと力を貸してもらっていて、今人間の貴族の中で一番いい関係を保っている相手だと言える。

「はい。おそらくはブルーノ様に仲介を頼もうという心づもりなのでしょう。主と良好な関係をたもっている人間はそう多くはありませんので」

「あの小僧に白羽の矢が立つのは妥当な話だな」

「えっと……もし兄さんが来たらどうしたらいい?」

俺は二人にきいた。

今回の交渉は完全に二人に任せているけど、ブルーノがもし来るとなればどういう風にすればいいのか聞いておかなきゃと思った。

「それは気にしなくても大丈夫かと思います」

「どういうことなんだスカーレット」

「ブルーノ様はその要請を断ったようでございます」

「そうなのか?」

「はい」

「やはりあの小僧は賢いな」

ラードーンは感心していた。

「はい、ですので大丈夫かとおもいます」

「わかった。じゃあ気にしない」

「ふふっ。あの小僧さえ出っ張らなければ、もはや仲介にはいれる人間は存在しないだろう。そもそもお前の心を動かせる人間もいないだろうさ」

「あはは」

「よほどの魔導書をもってくれば話は別だが」

「それは……うん」

俺は苦笑いした。

誰が来ても別にどうとも思わないけど、ラードーンのいうとおり、めちゃくちゃすごい魔導書を持ってこられるとちょっと迷ってしまうかもしれない。

と、いうか……。

ラードーン達が「めちゃくちゃ締め上げて」からの、大公クラスの人間が必死になって差し出そうとする魔導書。

もしそんなものがあったら、それがどれくらいすごい物なのかは気になる。

そうなればいいとちょっとだけ思った――いま国のためにトリスタンを締め上げている二人にちょっと悪いけど、そこをちょっと期待した。

パルタ領、トリスタンの屋敷。

書斎の中、トリスタンはやつれきった姿で頭を抱えていた。

ここしばらく、スカーレットと講和の交渉をしているが、スカーレットから提示される条件は厳しいことこの上ない物ばかりだった。

リアムやドラゴンたちの力を思い知って、一日でも早く停戦したいが、だからといって気軽に飲める条件ではない。

飲んでしまったが最後、向こう数十年にわたって領内の経済がガタガタになりかねない。

それほどの賠償項目を盛り込まれた条件だった。

そのためトリスタンは交渉をしつつ、どうにかリアムとの間を取り持ってくれる相手を並行して探していた。

真っ先にフローラのことを思いついたが、連絡を取ってみたらけんもほろろに断られた。

次ぎにブルーノの噂を聞いてコンタクトをとってみたが、こちらは「この上なく丁重に」断られた。

もはや八方塞がりになりつつあり、スカーレットが出した条件をのまざるを得ない所まで追い込まれていた。

「大公様!!」

ノックも無しに、一人の男が書斎に飛び込んできた。

屋敷の書斎、私的な空間の中でもかなり重要な場所。

普段ならこんな風に部下が飛び込んできたら無礼打ちにしてもおかしくないところだが、トリスタンはもはや、責める気力もなかった。

「なんだ……」

「みつけました! 例の女を」

「例の……?」

トリスタンは首をかしげた。

やつれきって、窪んだ目には生気がなかった。

それは自分がだした指示すらもうまともに覚えていない、という事でもあったが――。

「はい! 見つけたんです、例の女を」

「例の女……例の……はっ!」

はっとしたトリスタン、目に力が戻った。

生気がほとんど抜け落ちた目に希望が再びともった。

「本当か!? ホントに見つけたのか!」

「はい!」

「すぐに連れてこい!」

「それが――予定があると」

「いいから連れてこい! 状況が分かっているのか!」

「は、はい!」

部下が再び書斎から飛び出していった。

残ったトリスタンは直前までとは打ってかわって、まるで別人のように顔に生気もどった。

「見つかった……そうか見つかったのか」

そうつぶやくトリスタンの口調には、生気だけではなく力強い希望がこもっていた。