軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184.ダーリンとハニー

「ダーリンずるい!!」

「うおっ!!」

部屋の中に一人でいたら、いきなりデュポーンが壁をぶち破って入ってきて、その勢いのまま俺に飛びついた。

とっさの事で魔法障壁は張ったが、それでもデュポーンは軽々と俺の魔法障壁をぶち破ってきて、俺は悶絶してしまった。

「いたたた……ど、どうしたんだデュポーン」

「ダーリンずるい!」

デュポーンはそう言って、俺の腰に抱きついたまま上目遣いを向けてくる。

怒ってるような拗ねてるような顔で、目はちょっと涙を溜めてうるうるしている。

一体どうしたんだ? と彼女の表情を不思議がった。

「ずるいって、なにが?」

「あの女の子から聞いたの! ダーリン、ラードーンに体を貸したんだって」

「あの女の子?」

「王女やめた子」

「スカーレットの事か?」

スカーレット経由で、俺がラードーンに……。

少し考えて、心当たりに行き着いた。

【マリオネット】の事か。

「あれのことなら……体を貸したというか、口だけ貸したっていうか……。でもよく分かったね、スカーレットはその事知らないはずなのに」

「わかるもん! あの喋り方はあいつが人間乗っ取って神気取りするときの喋り方だもん」

「へえ……なんか神託っぽいことをやったことがあるのか?」

デュポーンにではなく、 内側(、、) にいるラードーンにむかって話しかけた。

『さてな』

俺はすこし驚いた。

ラードーンにしては素っ気ない返事だった。

なにかデュポーンとの間であったのか? とちょっとだけ思った。

「ねえねえダーリン! あたしもしたい」

「したい?」

「ダーリンのからだを使ってみたい!」

「ああ……あれは体じゃなくて、口だけだぞ」

「口だけ?」

「そう。喋るだけ」

「そうでもいい!」

「うーん」

俺はすこし首をひねった。

スカーレットから聞いた話だけでラードーンが裏にいるって推測できる位だし、俺が説明もした。

だからデュポーンは【マリオネット】の効果を勘違いしているって事は無いはずだ。

それでもしたいっていうのか。

「わかった」

「いいの!?」

「ああ。で、どこかに行けばいいのか?」

「ここでいい!」

「ここで?」

俺は部屋の中を見回した。

前回【マリオネット】を編み出した時は話す相手がいた。

しかしここにはそんなのがいない。

俺の部屋で、俺とデュポーンの二人っきりだ。

「本当にいいのか?」

「うん!」

「そうか……わかった」

なんでだろうとは考えたが、深く考えるよりも、実際にやってみた方が早いと思った。

「それじゃいくよ――【マリオネット】」

デュポーンと向き合って、魔法をかけた。

魔法の光が二人を包み込み。

かすかな喪失感とともに、俺の口がデュポーンのとリンクした。

「「あーあー、本日は晴天なり――わお!」」

デュポーンが更に俺に抱きついた。

デュポーンの口から出た言葉と、俺の口から出た言葉。

その二つがタイムラグ無しでぴったりと重なった。

前にやった、ラードーンの心の中に聞こえる声と重なったときとはまた違った不思議な感覚だ。

「「やったー、ダーリンの声だ!」」

デュポーンはひとしきりしがみついた後、パッと離れて。

「こういうのもできるのかな――きゃあああ!」

今度は俺だけの声になった。

おそらくはデュポーンが心の中で思っただけに切り替えたんだろう。

ラードーンの時は心の声が聞こえるから不思議な感覚になったが、デュポーンの心の声は聞こえないから、それに切り替えられると俺だけが喋っているふうになった。

「……ごほん」

デュポーンに【マリオネット】された俺の口からわざとらしい咳払いがでた。

それとともにデュポーンは俺を見つめてきた。

俺も見つめ返した方がいいのかなと思って、同じように見つめ返した。

すると。

「デュポーン……いや、ハニー」

…………………………ハニー?

「「きゃあああああ! ダーリンにハニーって呼ばれた。ハニーって呼ばれた!」」

デュポーンは黄色い悲鳴を上げて、くねくねしだした。

彼女の声と俺の声が重なって不思議な――いや摩訶不思議な感じになった。

というか……俺が呼んだんじゃなくて自分で呼ばせたんだろうに。

もしかしてこれがやりたかったことなのか?

そう、思っていると、デュポーンは再び真顔になって、俺を見つめながら。

「ハニー……」

と、今度は吐息交じりの、ささやきボイスで 言わされた(、、、、、) 。

「言ってみろ。俺に……何をされたい?」

「「あん……」」

俺のささやきの直後に、俺とデュポーンの変な声が重なった。

そしてデュポーンはびくん! ってけいれんして、その場に崩れ落ちた。

崩れ落ちたデュポーンは、はあはあと、荒い息を立てている。

そのまま、熱に浮かされたような瞳で、俺を見あげながら。

「いけない子だ……まだ何もしてないのにこんなに感じちゃって」

「「うぅ……ごめんなさぁい……」」

何となく分かってきた。

デュポーンは、俺の口をつかってききたい台詞を――いわゆる「甘いささやき」的な台詞を聞きたいんだ。

それは分かった、分かった、が。

「「だぁりん……もっとぉ……」」

たまに漏れるデュポーンの言葉にも【マリオネット】がきいて、それが俺の言葉と重なって――正直こっちは聞くに堪えなかった。

自分の「甘いささやき」は恥ずかしいが、自分の「感極まった声」は死ぬほど恥ずかしい。

俺は少し考えて、魔法――【マリオネット】の術式を書き換えて、かけ直した。

「そんなこといいながら、本当はだれでもいいんだろ?」

「ちがうの! ダーリンだけなの!」

新しい【マリオネット】は、操縦を意識しないときの言葉はリンクさせないようにした。

そうして、見かけ的には俺がデュポーンを口説く――いや言葉攻めをしているように見えた。

これならいっか、と。

俺はしばらくの間、デュポーンの好きにさせてやったのだった。