軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152.二頭目の魔竜

魔法都市リアム、宮殿前の大広場。

夜のそこは、魔物が大勢集まって、大いに盛り上がっていた。

今日は、宴の日。

魔物はほとんど例外なく、宴というものが好きだ。

何かがあれば宴をして、どんちゃん騒ぎをする。

それはファミリアで使い魔契約をしたこの国の魔物でも例外ではなく、月に二〜三回はあつまって宴を開いている。

それは別にいいんだが、ここの魔物達は面白い飲み方を編み出している。

「夜の灯に乾杯」

「「「カンパーイ!」」」

「美味いお酒に乾杯」

「「「カンパーイ!」」」

「今日の三日月に乾杯」

「「「カンパーイ!」」」

と、誰かがグラスを掲げて、何か思いついたものを言いあって、その事で乾杯をして皆がグラスの中身を飲み干す。

内容は何でもいいから、自然と乾杯のペース――つまり飲むペースがとんでもない事になる。

それで誰かがつけたのか、これの事を「エクストリーム乾杯」と名付けた。

それはいい、別にいい。

皆が楽しい酒を飲むんだから、別にいい。

それ自体はいいん……だけど。

「リアム様の魔法に乾杯」

「「「カンパーイ!」」」

そら始まった。

「リアム様の瞳に乾杯」

「「「カンパーイ!」」」

「リアム様の指の形に乾杯」

「「「カンパーイ!」」」

誰かが俺の名前を出した途端、リアム様すごい大喜利に変わっていった。

毎回こうなるのだ。

最初こそ魔法とか魔力とか、この魔法都市のこととかに乾杯するのだが、エクストリーム乾杯が進んでいくにつれて、乾杯の理由がどんどんどうでもいいことになっていく。

しまいには――。

「リアム様に吸われた空気に乾杯」

「「「カンパーイ!!!」」」

と、何が何だかの、まったく訳の分からないことに乾杯されていた。

『ふふっ、だいぶ好かれているのだな』

「さすがにここまで来ると、どうなんだって思うけど」

『よいではないか、連中のそれは、みな心から発している言葉だ』

「それはそうなんだけど、恥ずかしいのは恥ずかしいんだよな」

『むしろ喜ぶべきだと我は思うがな』

「喜ぶ? なんで?」

『男というのは、自分のために命を投げ出せる部下が十人もいれば天下が取れるものなのだ』

「天下って……」

俺は苦笑いした。

ものすごい話が飛んだなあ……と思った。

『この中からなら、間違いなく十人以上はいるだろう』

「そう……かな」

ラードーンの言うことだが、俺は素直にはうなずけなかった。

自分のためなら命を投げ出せる。

それはあまり良くないことだし、自分でそう言ってしまうのも増長しすぎてるって感じがする。

だから俺は苦笑いして、お茶を濁した。

エクストリーム乾杯のリアムコールが続く中、俺は静かに座って、雰囲気だけを楽しんでいた。

「むっ!」

俺はパッと立ち上がった。

夜空の向こうをじっと見つめる。

『感じたか』

「ああ……なんだ? この魔力は」

俺は密かに驚愕した。

空の彼方からものすごい速度で接近する大きな魔力の塊があった。

それは魔法ではない、大きな魔力をもった生命体だ。

反応をする――よりも速く、 それ(、、) はものすごい勢いで接近した、広場のど真ん中に着地してきた。

ものすごい速度の割りには、大した被害はない。

人一人分が隠れる程度の砂煙を巻き起こした程度だ。

「な、なんだ!?」

「何かが飛んできたぞ?」

「敵か!?」

エクストリーム乾杯を中断して、魔物達は一斉に警戒状態に入った。

何人かの幹部級の実力者が、すぐにも飛びかかれる位の臨戦態勢に入っている。

ほどなくして、砂煙が晴れていく。

「え?」

誰かが声を上げた、直後にざわめきが浪のように広がっていった。

砂煙が晴れたそこに立っていたのは、快活で幼い少女だった。

「誰だお前は」

少女の一番近くにいたギガースの一人が誰何した。

少女はギガースを一瞥するが、まったく興味なさそうな感じで、まわりの魔物を次々と品定めするように顔をのぞき込んだ。

「この――無視するんじゃ――」

「やめろ!」

ギガースが少女に攻撃をしかけようとしたが、俺は大声を出して止めた。

瞬間、魔物達は――そして少女の視線も含めて、全員が俺に集まってきた。

「あっ、いた」

当の少女はといえば、ふっ――と姿がブレたと思ったら、俺のすぐ前に出現した。

「速い!」

「あんただね、ラードーンに飼われてるワンコって」

「……ラードーンのことを知ってるのか?」

「もっちろん。宿敵と書いて『友』、生涯のライバルだよ」

「そうなのか?」

『……腐れ縁だ』

ラードーンはものすごく嫌そうな声でそれを認めた。

彼女がここまで感情を出すような相手。

宿敵、生涯のライバル、腐れ縁。

「……三竜戦争か」

「えっ!」

俺が思いついた言葉をそのまま口に出すと、すこし離れた所にいたスカーレットが反応した。

そのスカーレットを置いて、少女は天真爛漫な笑みで答えた。

「人間にはそう呼ばれてるらしいね。あたしはデュポーン。始原の竜の内の一頭だよ」

「デュポーン……」

その名前はラードーンのものとよく似ていた。

いや、そんなことはどうでもいい。

この魔力だ。

彼女の全身から漏れ出している強大な魔力。

間違いなく、ラードーン級の魔力だ。

その魔力だけでも、ラードーンと同等の存在だと信じざるをえない。

だから俺は気を引き締めて対処しようとした――のだが。

「主に無礼でござる」

「ちびっ子は引っ込んでて」

俺を甘く見られたと思ったのか、ガイとクリス、二人が電光石火の勢いで飛び出し、デュポーンに飛びかかっていった。

「ワンコのワンコが生意気」

デュポーンがそう言いながら、右腕を無造作に振った。

瞬間、ガイとクリスの首がとんだ!!

「――っ! タイムシフト!」

俺はとっさに、全魔力を吐き出してタイムシフトを使った。

時間が三秒前に巻き戻される。

ガイとクリスが飛びかかる直前に戻ってきた。

「二人とも動くな!!」

俺はほぼ怒鳴る勢いで叫んだ。

すると、動きかけたガイとクリスがビクッとなって、飛び出さなかった。

「……ふう」

二人の死を回避して、やり直せたことを、俺は心の底から安堵した。

「あんた、賢いじゃん。あの二人が飛びかかってきたら今頃死んでたよ」

デュポーンはあっけらかんと言い放った。

こういう物言いをする人は結構いる。

大半は脅しだ。

しかし、デュポーンのそれは脅しじゃなかった。

俺の意識では、ガイとクリスは確かに殺されていた。

「……んん? んんんん??」

デュポーンは俺に更に近づき、至近距離で下から顔を覗き込んできた。

「な、なんだ?」

「あんた、魔力が一瞬でごっそり減ってるね? あっ、もしかしてラードーンのタイムシフト覚えた?」

「――っ!」

図星をつかれた俺はぐっ、と息を飲んだ。

「なるほどなるほど、って事はあの二人、死んでたんだね」

「……」

俺は黙止した。

タイムシフトがバレた衝撃で、何を言えばいいのか分からなかったから黙り込んだ。

「へえ……すごいね。あれを人間が覚えられるなんて。初めてのことなんじゃないかな。今いる人間の中で一番魔力が強いのかな?」

「……それよりも」

「ねえ、あんたの名前は?」

俺が話を変えて、デュポーンが来た理由を聞こうとしたが、彼女は完全に会話のペースを握っていて、俺の言葉に被せてきた。

「……リアム、ハミルトン」

「リアムね。ねえリアム、ラードーンなんかすてて、あたしのワンコにならない?」

「……へ?」

何を言ってるんだこの子は。

「あたしがこんな風に誘うの、1000年ぶりなんだからね」

「1000年ぶり……」

「それだけ気に入って、見込んだってこと。どう?」

「……」

話が話だからだろうか、俺は急速に落ち着いていくのを感じた。

落ちついた頭が瞬時に答えを出してきた。

「ごめん、それはダメだ」

俺は、デュポーンの誘いをきっぱりと断った。

「へえ」

すると彼女はますます、「こいつ面白そう」的な顔をするようになったのだった