軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146.リサイクル

「漁?」

王宮の自室で魔力効率化の練習をしていたところに、人狼のクリスがたずねてきた。

ガイと並んでこの国の武闘派二大巨頭である彼女がいきなり訪ねてきたのだから、またなにか物騒な話を持ち込んできたのかな――と思ったら意外な話が飛び出してきた。

「そう。海って魚がいっぱいいるんだよね」

「あの海はまだ――」

『生物を入れた方がよい。人の住んでいない家屋が早く寂れるのと同じ、生物のいない海は「腐る」』

ラードーンが口を挟んできた。

なるほど、それもそうだな。

海のことはそんなによく知らないが、陸の上――山や森ならそれなりに知っている。

生き物がいないのは良くないっていうのは俺にも分かる。

後で海水を通すゲートを改良して、海の生き物だけ通すようにしよう。

その程度の改良なら、方法はざっと21パターン位思いつくから、後でさっとやってしまおう。

それよりも今はクリスの方だ。

「まあ、魚はかなりいるな」

「川よりも?」

「川よりも。数もそうだし、川よりも遙かにでっかい魚が棲んでるな」

「やっぱり! それ獲りたい!」

「……ああ」

なるほど話が読めてきた。

海という新しいフィールドを目の当たりにして、人狼の狩りの血が騒ぐってことかな。

「わかった、すきなだけ獲っていいぞ」

「ありがとうご主人様!」

クリスは大喜びでお礼を言ったあと――動かなかった。

てっきりその勢いのまま飛びだして行くもんだと思ってたけど、彼女はそうしないで、そのまま俺を見つめていた。

「どうした、まだ何かあるのか?」

「魚ってどうやって獲ればいいの?」

「わからないのか……まあわからないよな」

言ってから俺は、何を当たり前のことを……、と苦笑いしてしまう。

人狼、そしてその進化前のウェアウルフ。

どっちも「狼」で、陸の上の生き物だ。

熊の様に浅瀬で小魚を獲ることもあるだろうけど、海での「漁」なんてやったことも無いはずだ。

「……」

「どうしたのご主人様、あたしをじっと見つめたりして」

「ああいや、それなのに漁に興味をもつなんてな、って思って」

「???」

不思議そうに小首を傾げるクリス。

『進化のおかげだろう、視野が広がり、可能性が増えた』

ラードーンの推測になるほどと思った。

「ご主人様?」

「ああ悪い、どうやったら魚を、だったな」

「うん!」

「そうだな……普通に網かな、一番オーソドックスな方法は」

「網?」

「そう、網を海の中に入れて、丸ごと引き上げるって感じだ」

「網だね! わかった!」

そう頷き、今度こそものすごい勢いで部屋から飛び出していった。

「大丈夫かな」

その勢いに、俺は不安を覚えた。

クリスと別れた後、俺は海辺にやってきて、魔法の調整をした。

魚とか海草とか、海にとって当たり前の生き物を通れるように改良していた。

一通りやって、問題なく魚とかこっちの海に来ている事を確認したところで、沖合から船が戻ってきた。

浜辺に戻ってきた船は人狼達が乗っていた。

そんな中、クリスは船から飛び降りて、俺に駆け寄ってきた。

「魚獲れなかったよご主人様!」

真っ先に駆け寄ってきたクリス、それに少し遅れて、他の人狼達は消沈した感じで網をもって、ゆっくりと近づいてきた。

「いや、まだ調整したばかりだから、行き渡ってないんじゃないかな――」

「ほら! 網にかかったの木片とか、ごみばっかりだよ」

俺の説明を聞かずに、網を見せつけてくるクリスら人狼達。

彼女達のいうとおりで、網の中はゴミだらけだった。

調整前は生命のない無機物なら通れるから、この海の中にはそういうものもある。

改めて、ラードーンが魚とか入れた方がいいっていったのが分かった。

それはそうと……俺は網の中を見た。

「あー……よくあることだな」

網に魚以外のものがかかっているっていうのはよくあることだった。

漁師から話を聞いたことがあるけど、網の中に狙っていない魚が入ってる事がよくある、魚以外のものが入ってる事もまたよくある。

引き上げてから、それの選別に結構苦労するもんだって聞いたっけな……。

「……ふむ」

俺はあごを摘まんで考えた。

「ご主人様?」

「ごめんちょっと待って」

クリスを制止して、俺は思考に耽った。

今はまだ魚が海の中にいない――少ないが、魚が行き渡っても、今後ゴミが網にかかり続けることはまだまだある。

というより、それは網を使った漁そのものの欠点というか、弱点だ。

それをどうにか改良できないかと考えた。

すると、一瞬でできた。

『今回はいつにもまして早いな』

ラードーンが感心げな感じでいってきた。

「丁度『それ』をやってたところだからな」

『ほう?』

「だからもうできてる――クリス」

「うん、何?」

「船に積むためのハイ・ミスリル銀をとってきて、魔法をいれる」

「分かった! ココ、シビル、一緒にきて」

クリスは数人の人狼を引き連れて、パピューン! と風の如く駆け去って行った。

ほんの十数分で、街から俺がオーダーしたハイ・ミスリル銀をとってきた。

俺はハイ・ミスリル銀をその場で加工して、古代の記憶にした。

そして、今し方編み出した魔法を使う。

すると――魔法の光でできた網が現われた。

「よし」

「魔法の網? どういう効果なのご主人様」

「この網にゴミをいれてみて」

「うん――あっ、すり抜ける」

言われた通りに自分達の網にかかったゴミを魔法の網にいれると、ゴミの木片は網をすり抜けて砂浜に落ちた。

「こんどは実際に触ってみて」

「すり抜けないね」

「そういうことだ。この魔法の網は生物が通れなくて、そうじゃないのを素通しにする。そうすれば魚だけ獲れてゴミは取れなくなるだろ?」

「そっか! さすがご主人様!」

「ありがとうご主人様!」

「ご主人様大好き!」

クリスの賛辞を皮切りに、人狼達は次々と俺を称賛した。

「さあ、もう一回行ってみて」

そろそろ魚も行き渡る頃だろう。

「うん!」

クリスは大きく頷いて、人狼達を引き連れて、再び海に出て行った。

『なるほど、海水の転送の部分、その古いヤツをそのまま使ったわけか』

「そういうこと」

『ふふっ。やはり魔法に関しては頭の回転が速いな、お前は』

クリス達を見送りながら、ラードーンは楽しげな感じで俺を褒めてくれたのだった。