軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あなたの味方

「嬢ちゃん、孫のエドワードじゃ。日頃は帝都で店をやっている息子の手伝いをしておる」

「エドワードです。お噂はかねがね」

ニコリと笑ったその人は、20代の半ばといったところか。肩につく程度の深緑色の髪をきれいな組み紐でゆるりと一つにまとめている。最近はムキッとモリッとした騎士の方々ばかりを見慣れていたので、とても線が細く感じるけれど、実際は標準的なすらりとした体つきをしている。ヘイゼルの瞳をしたなかなかのハンサムさんだ。

生国で出会った髪も瞳もピンク色の男爵令嬢といい、深緑の髪のエドワードさんといい。ここはやはり異世界なんだなと改めて思う。日本というか地球ではありえない色彩の人がいるもんね。

「ローリです。マクラウド会頭には大変お世話になっています」

私はぺこりと頭を下げた。町娘は膝を折って礼をとったりはしないのだ。私もなかなかこなれてきたね!

「嬢ちゃんが店を出すのを手伝うようにいいつけてある。存分にこき使ってよいぞ」

しばらくはこちらに通わせるからな、と満面の笑みで老がいった。

「いえ、そんな。お店を出すなんて大げさなことではなくて、作りためたものをちょっと屋台を借りて売ってみようかと思っているだけなんです。マクラウド商会をお休みさせる程のことでは」

「前も言ったじゃろ。うちの店では、修行中には屋台も行商もやるもんじゃと。こやつもその経験があるから、嬢ちゃんの手伝いにはぴったりじゃ。それにな、他人が店を出す手伝いをするのは良い経験になるじゃろう。それも修行の一つと思うて、やらせてやってくれんかのう」

老にそう頼み込まれては、私は断れなかった。

「それでは、これからよろしくお願いします。エドワードさん」

「こちらこそ、よい商いをいたしましょう」

エドワードさんがすっと手を差し出してきた。握手か! なんだか、とっても『できる商人』という感じだ。私も手を差し出した。ぎゅっと互いに軽く握る。

「私のことはエディと呼んでください、ローリ」

「え、でも……」

エドワードさんは私より大分年上に見える。若手とはいっても、マクラウド商会のお孫さん。帝都の本店だけでなく、行商や屋台といった形態のお店まで幅広く経験豊富な立派な商人さんだろう。言葉を濁して迷う私。

「私たちはこれから共に一つの店を立ち上げる仲間になるのです。風通しよくいきましょう」

なるほど、そういう考え方もあるのか。さすがに商人らしいと思った。

「わかりました。では、エディさん、で」

「まあ、今のところはそれでいいでしょう」

エディさんは、小さく肩をすくめる。

「会頭はね、あなたを孫娘と思っているといっていますから。で、あれば。私にとっては大事な妹になります。私はね、子供の頃に妹が欲しいと母にも叔母にもよくねだったものですよ。でも弟しかできなかったんです」

「マクラウド一家は男孫ばかりじゃからのう」

「会頭、待望の女孫。私の妹です!」

まだ20代だというのに。相好を崩したエディさんは好々爺然としたおじいさまにそっくりだった。ハンサム、どこいった? それにしても、私が妹だなんて。いや、公爵家には兄がいたけれど。それらしい付き合いなんてしたことがなかった。ずっとずっと、長女だった。“お姉ちゃん”だった私が妹と呼ばれる日が来るだなんて。“大事な妹”と言ってくれる人が現れるなんて。すごい、さすがに異世界転生だ! 驚愕している私に、エディさんは茶目っ気らしくウインクをしてみせた。

「私もあなたの味方になりますよ」

明るいヘイゼルの瞳が愉快そうに細められた。私「も」?

「さて、では早速クレープをごちそうになりましょうか」

首をかしげる私に、答えてくれる人はいなかった。

「なるほど、これはおいしいですね」

「そうじゃろう」

「ローリの入れてくれたお茶もとてもおいしいです。味が濃くて、香りが良くたっているのに渋みがない。屋台ではなく、ティールームでもいいかもしれません」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

「会頭、先ほどからそればかりですねえ」

顔をほころばせているおじいさまと、少し呆れたようなエディさん。

今後の戦略を立てるためにもまずはクレープを食べてみたいというエディさんを交え、三人でディーテーブルを囲んでいる。軽口を交し合うおじいさまとエディさんは、こうして二人で並ぶとやはり似た面立ちをしているのがわかる。

「屋台は時間貸しで手軽に利用できるって聞いています。いきなりティールームなどの店舗を借りるのは賃料だけでなく、テーブルや椅子、食器なども必要になって初期費用がとてもかかると思いますし、私はそういうお客様相手のお仕事はしたことがありません。給仕にもいろいろマナーがあると思いますし。まずは気軽に数時間程度、並べたものを売るだけの屋台から始めてみたいのですが」

ダメでしょうか? 二人にお伺いを立てる。

「では、そうしましょう」

「そうじゃな。嬢ちゃんは商売は初めてだというが、なかなかどうして。よく道理がわかっておる」

二人がニコニコとこちらを見てくる。エディさん、店舗がいいといっていたのは何だったんですか?! 私の、少しだけ不満げな表情に気づいたのか、エディさんは笑みを深めた。

「会頭からは商売は初めてだと聞いていたのでね。私がまずは開店までのお膳立てを整えようかと思っていたのですよ。ですが、どうやらしっかりとした展望を持っているようだ。で、あれば。私はローリの希望を実現するための手足となるまでですよ」

「展望だなんて、ただの思いつきです。初心者ですから、どうぞお手柔らかにお願いしますね」

心安くお任せください、とエディさんは胸に手を当ててみせた。ハンサムさんは何をしても絵になるなあ、と私は感心してしまった。随分と年上なせいなのだろうか。商人なのに、どこか紳士っぽいというか。余裕気な振る舞いが貴族っぽさを醸し出しているのかもしれない。高位貴族によくある傲慢さではなくて、貴族全般にこうあるべきとされている女性への気配り、というのかなあ。でも、ちょっとだけ気障っぽいなと思ってしまったのは内緒だ。

それから、おじいさまも交えて屋台で売る品を考えていく。クレープ、プリン、刺繍小物。お茶も、天下のマクラウド商会の二人に商品価値を認めてもらえるのならば。その場で入れるのは無理でも、家で入れたお茶をポットで運んで、屋台では木のコップで売ってみようかと欲がでてきた。屋台の商品台には綺麗な布をかけると見栄えがよくなるかもしれない。クレープには市場で安く手に入る果物を刻んで混ぜるのもいいなあ。

私のちょっとした思いつきを、二人はニコニコと聞いてくれて。

「カスタードには甘いいちごのような果物もいいが、案外、柑橘系もさっぱりとして美味しいかもしれんのう」

「では、明日は私とローリで早速市場に果物を探しにいきましょう。布類も出物があるかもしれません」

どんどんと考えを広げて、実現しようとしてくれる。マクラウド商会はこうして大きくなってきたのかな? なんて。なんだか、とても楽しくなってしまった。

昨日までの生活に、何か不満があったわけではない。でも、やりたいことがたくさんできた今日から振り返ると。昨日までの私は、一体、一日を何をして過ごしていたのだろうと不思議に思ってしまった。もともとの“私”は忙しく働く町役場の職員だったのだし。いよいよ市井の暮らしに馴染んできたということなのかもしれない。

自室で眠りにつく時間を迎えた。寝台に入り、目を閉じる。明日の予定を思い描くと、心が浮き立ってくる。こんな風に、明日を楽しみに眠るのは。この世界では初めてかもしれない。朝がくればいいことがある。