軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◆92・遭遇 □

私たちは今、ベティちゃんの牽く魔馬車に乗っている。

普通の馬なら二頭は必要だと思うけど、ベティちゃんは一頭でも余裕な感じで、スイスイ進んでいる。

思ったより揺れないことに驚いていたら、そもそもスレイプニルを借りられるのは、かなりの富豪か貴族かで、付属する車部分は高級仕様らしかった。

そんなベティちゃんの牽く魔馬車、ベティちゃん号には、当然の顔をしたナツメさんとロックくんも同乗している。

ナツメさんは、獣型だと大型の虎よりも大きいのではないかというくらいに大きいので、現在は、私より少し大きいサイズの獣人型になっている。そしてロックくんも、私より少し小さいサイズの獣人姿で、ちょこんと座っている。かわいい。

というか、ナツメさんは、人間に変身できたりするのだから、普通の家猫サイズにもなれるのではないだろうか?

「にゃ? できるが、にゃんだか落ち着かにゃいから、あんまりしにゃいのだ」

……だそうだ。

まぁ、でっかいナツメさんも好きだから、サイズは何でもいい。

ナツメさんとロックくんは私の両隣に、レイは相変わらず私の服のポッケに住み着き、正面に雪丸さんとルー兄がいる状態だ。

「にゃ、ご飯はいつ食べるのだ?」

「お昼になったらだよ。まだ走りだしたばっかりだから、まだまだ先だよ」

「にゃ~……まだまだ先にゃ~か……」

まだご飯は食べないという返事を聞いて、ナツメさんとロックくんは、とんでもなく切ない顔をしながら項垂れた。

『私に会いにきたんじゃないのか!』と言いたいところだけど、落ち込むもふ猫の姿を目にして、平常心でいられる猫好きなんて、きっとどこにもいないだろう。

というわけで、ナツメさんとロックくんが好きな甘だれ唐揚げをマジックバッグから取り出し、差し出した。目を輝かせながら唐揚げを頬張る二人を、ルー兄もすごく羨ましそうに見ていたので、結局、みんなの分も出すことになった。

「そろそろ料理の補充をした方がいいかな……」

マジックバッグには、かなり多めに料理を入れてきたつもりなんだけど、結構、減りが早いのだ。

当初の予定では、街でもいろいろ食べる予定だったのに、結局、私が作ったものばかり食べているので、手持ちの料理だけでは心許ない感じになってきたのだ。

というわけで、次の野営時に料理する時間を取ってもらうことにした。

現在は、国境を越えてすぐの街『セルタン』を出て、次の大きな街『サンヨルド』に向かっているところだ。サンヨルドまでの間にある、小さな町や村にはあまり立ち寄らず、野営をしながら進む予定らしい。

ぶっちゃけ、町や村の宿屋に泊まるより、自分たちで野営した方が、安全で快適なのである。さすがに、他の旅人や冒険者たちもいる野営地なら、いろいろと自重はするけれど、私たちしかいない所であれば、簡易ホームも作れるし、結界を張れば安全も確保されるからね。

そうして、人けのない所を選んで野営をし、途中で料理の補充もしつつ、ベティちゃん号は進み続けた。そんな道中で、武装集団に取り囲まれている馬車に遭遇した。

アルベルト兄さんがベティちゃん号を停車させたので、何かと様子を窺ったら、前方で戦闘が起こっていたのである。

よく見ると、前の馬車は集団に取り囲まれているものの、攻撃は当たっていなさそうである。多分、結界か防御魔法かで防いでいるのだろう。馬車周りの護衛らしき人たちが、襲撃犯に応戦しているところのようだ。

アルベルト兄さんは騎士だからか、すぐに助けに入りたかったのだろうけど、現在は御者をしているので、戦闘態勢を取りつつも様子を窺っている状態だ。

ルー兄も馬車の中で警戒態勢を取っているけれど、助けに走るつもりはないようだし、人外組は言わずもがな、ほぼ無関心である。猫妖精コンビに至っては、クッキーを頬張っているところである。

「このちょっと苦くて、甘いのがいいにゃ、これは良い」

「僕もこれ好きにゃ~。あ、でもこの変な顔が付いてるのも好きにゃ~」

「にゃ、確かにこの珍妙にゃクッキーも、違う甘さでいいにゃ」

――珍妙!? 普通にかわいいでしょうが! あと、変な顔も付いてないぞ!

いろいろ納得いかないが、どうやらチョコチップクッキーとアイシングクッキーの講評中らしい。ちなみに、さっきまではベリークッキーと紅茶クッキーについて、熱く語り合っていた。このヤンチャ猫コンビは甘党だからか、さっきからどのクッキーにも「美味しい」か「好き」の結論しか出ていないけど……。

――なんだこのピリピリとゆるゆるのパ●クハザード地帯は……

まぁいいやと気を取り直し、私はとりあえず、ベティちゃん号の周りに〈結界〉を張った。そして、「さて、このあと、どうしようか」と思ったところで、襲撃集団の一部がこちらに向かって来ようとしているのが見えた。

なので、まずはこちらに向かってきている先頭の二人組の足元を凍らせることにする。

「〈アイス・ロック〉」

「なっ……、魔法師がいるぞ!」

「おい! こっちにも術者を!」

襲撃者二人の足元を氷漬けにしたことで、敵側が騒ぎ始めてしまった。てか、術者って何の術者よ? 魔法使いだろうか……なんて考えていると、新たに数名がこちらに向かってくるのが見えた。

別に「どんな悪人であっても人を殺すなんてできません」とか言うつもりはないのだけど、襲撃理由が判らないから、とりあえず生け捕りの方向で……

氷魔法はやめて、別の魔法にしようかな。

もっと拘束力の高い魔法の方が良いよね。

「〈ライト・バインド〉」

初めて使ったけど、上手くできたようだ。

こちらに向かって来ていた敵の一人を、光拘束魔法でぐるぐるにして、ミシ●ランボーイの完成である。

拘束された敵は為す術なく、ビターンと顔面から地面にこんにちはである。

「にゃはは、あの魔法はいいにゃ! 今度、吾輩もやってみよう」

「僕もあれやるにゃ~! ぐるぐるにゃ~!」

「芋虫みたいだねぇ」

「アレなら雷丸に使えそうです」

「…………」

人外組は何故か私が使った拘束魔法に大はしゃぎである。クッキー談義はどうした。ルー兄は何も言わないけど、猫妖精組と一緒に、食い入るように見ている。というか、ロックくんとレイに踏み台にされているけど、いいのか? アルベルト兄さんはさっきからこっちを振り返り過ぎだと思うから、前、見てて。

車内から見える相手にしか使えないけど、拘束魔法が使えることが判ったので、こちらに向かってくる相手をどんどん拘束していくことにする。

次々に、ビターン、ビターンと転がる襲撃者たち……。

いや、もう、こうなることが目に見えて分かっているはずなのに、なぜ向かってくるのか。ちょっと引くわ……。

「くそっ! 駒がなくなったぞ!」

「ちっ……、逃げるぞ!」

どうやら、前方の馬車周りに残っていた襲撃犯が、逃亡体勢に入ったようだ。

あっちも拘束しようと思った瞬間、やたらと派手な杖を持った人が、杖をこちらに向けて、魔法を発動した。

「――っ!」

視界を覆い尽くすような大きな火の玉が向かってきたことで、思わず身を固くしたけれど、飛んできた火の玉は、ベティちゃん号の大分手前でキレイに弾き飛ばされ、霧散した。

「あ……」

そういえば、〈結界〉張ってあったんだった。

『私の〈結界〉すごい!』……と、ちょっと興奮してしまったけれど、私たちが火の玉に気を取られていた隙に、魔法を放った術者と襲撃犯の一部が逃走してしまったようである――。

「あ~、逃げちゃった……」

まぁ、逃げちゃったものは仕方ないと、前方の馬車周りで、まだ小競り合いをしている人たちの方へ視線をやり、残った襲撃犯たちも魔法で拘束する。

なんとか場が落ち着き始めたころ、ロックくんが襲撃犯を見ながら、口を開いた。

「なんか、ちょっと臭いにゃ~」

「にゃ……、確かに変な魔力臭がするにゃ」

「……魔力臭?」

魔力の気配や匂いに敏感な、猫妖精にしか判らないらしいのだけど、どうやら、拘束した襲撃犯から変な魔力臭がするとのこと。

なので、とりあえず襲撃犯のひとりを〈鑑定〉してみた。

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◆デイカー・ヒル(21)◆

【MP】1,000/1,200

【スキル】―

状態:思考汚染・従属

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――なんじゃ、これ。

これって洗脳とか、そういう状態ってことだろうか……と考えていると、猫妖精組が、この場に残った襲撃犯全員から同じ臭いがすると言うので、他の襲撃犯たちも〈鑑定〉したところ、ものの見事に全員が「思考汚染・従属」の状態になっていた。

え~? どゆこと?

もしかして、襲撃してたのは、この人たちの意志じゃない?

でも多分、逃げたヤツは自分の意思でやってたんじゃないだろうか……。

なんて、考えたところで、そもそも襲撃されていたのは、前方の馬車の人だ。

私たちは、通りすがりに巻き添えを喰らっただけである。

あとは、前方の馬車のひとたちでどうにかしてほしい。

そんなことを思っていると、前方の馬車の護衛らしき二人が、こちらに向かって来ているのが見えた。

「あ、私が魔法を使ったのは内緒ね!」

「では、私がやったことにしておきましょう」

私と雪丸さんは、アルベルト兄さんにも聞こえるように話し、アルベルト兄さんは、チラとこちらを見てから頷いた。

前方よりの使者は、アルベルト兄さんにお任せすることにしよう――。