軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇85・手紙/side:ライナス

帝国兵に襲撃されたことを報告するために、移送隊と共に王都へと戻ってきた。

デイジーの移送が終わればベルツナー領に戻る予定であったが、まだしばらくは王都を離れられそうにない。襲撃の際にシフ側の手引きがあった可能性や、情報が漏れていた可能性があるからだ。

領地のことは、しばらく妻のシャリアと家令に任せておくつもりであったが、いつまでもこのままというわけにはいかない。

今のサイラスに後継を任せることはできないし、いつ正気に戻るかもわからない。正気に戻ったところで後継に戻せるかと言われれば、否と言わざるを得ないだろう。

「はぁ~、どうしたものか……」

シャノンを戻すか? シャノンの夫は子爵家の次男だ。婿入りしたわけではないが、彼に中継ぎになってもらい、シャノンの子を後継にするか……。

リリアンヌが無事であれば……。

いずれリリアンヌに婿を取って、伯爵家を任せる選択肢もあるのだが……。

「はぁ~……」

邸の自室で一人、今後のことに頭を悩ませながら、そろそろ休もうかとベッドに向かった時であった。

「にゃ~」

「――っ!?」

突然、後ろから猫の鳴き声がし、反射的に振り向いた。

そこにいたのは、白毛に黒や茶色が混じったような毛並みの、随分と厳めしい顔付きの猫であった。

「どこから入ってきたのだ」

「お届け物でにゃんす」

「……は?」

――今、猫の方から声がしなかったか?

「本来なら、じい様にはアッシの姿は見えないんでにゃんすが、今回は特別でにゃんす」

「…………ね、猫が……喋った……?」

「アッシは猫のような見た目ではありにゃすが、猫ではなく、ケット・シー族。妖精でにゃんす」

「妖精⁉」

どこからどう見ても猫にしか見えぬが、これが妖精だというのか!? にわかには信じがたいが、しかし……、普通の猫は喋ったりはせぬだろうし……。

「アッシのことは置いておくとして、お届け物でにゃんすよ」

「届け物?」

「ちょいと失礼」

そう言った瞬間に猫の姿から、小さい子供のような大きさの、二本足で立つ猫の姿になった。

「なっ……!」

「ああ、これは『獣人型』ってニャツでにゃんす。猫型のままだと手紙が出しにくいでにゃんすからね」

「手紙?」

「あい、リリアンヌからの手紙でにゃんす」

そう言って、何もないところから一通の手紙が現れ、それを差し出される。それにも驚いたが、もっと驚く言葉が耳に入り、手紙がどこから出てきたのかなど、一瞬でどうでもよくなった。

「リリアンヌだとっ!?」

「あい、とりあえず読むといいでにゃんす」

思わぬ相手から思わぬ名前が出てきたことに衝撃を受けたが、言われるがままに手紙を受け取り、まずはそれに目を通すことにする。

『親愛なるお祖父様』という言葉から始まった手紙には、自分が無事であること、自らの意志で家を出たこと、ベルツナー家に戻るつもりがないこと、そして現在は妖精と共に暮らしていることや、妖精に関する注意事項などが書かれていた。

手紙の書き手が本当にリリアンヌであるかどうかは、実際にリリアンヌの無事な姿を見るまで確信することはできないかもしれない。だが、封筒の中には紙に包まれた白金色の毛束と、返信用の魔道封筒が同封されていた。

リリアンヌの白金色の髪は、父であるサイラス譲りでもあるが、私譲りでもあるのだ。自分と似た色の髪束を見て、ふいに涙が込み上げてきそうになった。

「本当に……、本当にリリアンヌは無事なのか……?」

「あい、アッシはこうしてウロウロしてるもんで、リリアンヌにはそう何度も会っているわけではないでにゃんすが、目にするときはいつも元気そうで、楽しそうでにゃんすよ」

「そうなのか!?」

「あい。ところで、リリアンヌの話をする前に大事なことがあるでにゃんす」

「大事なこと?」

「あい、リリアンヌやアッシらのことを他人に話さないと『せいにゃく』してほしいでにゃんす」

「せいにゃく……」

……せいにゃく? なんだ? ………………。

――っ! 『誓約』かっ!?

「あ~……っと、『誓約魔法』を交わすということか?」

「あいでにゃんす」

「それは構わないが、この部屋には魔法紙がないのだ。取ってくるから、少し待っていてくれるか?」

「そんなものは必要ないでにゃんす」

「ん?」

『必要ないとはどういうことか』と問う前に足元に魔法陣が現れたかと思えば、そのまま足元から頭の上へと、魔法陣が私の身体を通り抜けていった。

「今のは誓約魔法なのか?」

「あいでにゃんす。せいにゃくは成ったでにゃんす」

魔法紙を使わぬ〈誓約魔法〉も、無詠唱で魔法が発動されたことにも驚きを隠せない。これが『妖精』ということなのだろうか?

しかし、細かい誓約内容も言わないまま、魔法をかけられるとは……。

「誓約内容は、妖精のことやリリアンヌが妖精を見えること、リリアンヌが妖精と共にいることなどを、私が誰にも話さないという内容で間違いないだろうか?」

「あい、間違いないでにゃんす。話してはいけないことは、話そうとした時に言えなくなるんで、分かると思うでにゃんす」

「あいわかった」

言ってはいけないことを言えば、罰が下るのではなく、言ってはいけないことに制限が課せられるということか。話す前に制約が働く魔法など、到底人には成せぬものであるな。

「それで……、リリアンヌの話を聞きたいのだが」

「話しても問題ないことであればいいでにゃんすよ」

「正直に言うと、今の状況もこの手紙もいろいろと半信半疑なのだ。この髪は確かにリリアンヌのものであろう。しかし、自分の目でリリアンヌを見なければ、本当に安心することはできないだろう。それでも、リリアンヌの情報があるなら知りたいのだ」

こうして妖精と対話している今も、これは私が見ている都合の良い夢ではないかと思うほど、どことなく現実味が感じられないのだ。

「さっきも言ったとおり、アッシはずっとリリアンヌの傍にいるわけじゃあないんで、そんなに詳しくはないでにゃんすよ?」

「それでもかまわない。手紙には書いていなかったのだが、リリアンヌは今どこにいるのであろうか?」

「リリアンヌが言わなかったなら、アッシから言うことはないでにゃんす」

「……そうか。リリアンヌはベルツナーに戻ってくるつもりはないようだが、一目だけでも会うことはできないであろうか」

「それはリリアンヌに聞いてみないことには……。手紙と一緒に魔道具の封筒が入っていたはずでにゃんす。リリアンヌの魔力が登録されているでにゃんすから、聞きたいことがあるなら、手紙を書けばいいでにゃんすよ。あ、その時にじい様の魔力を登録した封筒も一緒に送るといいでにゃんす」

「――っ! そういえば! なら、手紙を書いてみるか? ……しかし、君にもまだいろいろ聞きたいのだが」

「……もうしばらくここにいるでにゃんすよ」

「そうかっ! 妖精はなにか食べたり飲んだりするのか?」

「食べなくても問題ないでにゃんすが、食べても問題ないでにゃんす」

「なら、なにか用意させよう。ああ、私が食べるものとして用意させるから問題ない。なにか希望はあるか?」

「ではミルクを」

「飲み物だけでよいのか?」

「食べ物は持っているでにゃんす」

そう言って、手紙を渡された時のように、何もないところから突如として何かの包みが現れた。

「さっきも突然、手紙が出てきたが……」

「亜空間魔法でにゃんす。人間もそういう鞄を持っていたりするでにゃんしょ?」

「……マジックバッグか! しかしあれは魔道具だが、君のは魔法なのだな」

「使える者は稀でにゃんすが、人間でも使える者はいるでにゃんすよ」

「そうなのか。……ああ、そうだ、ミルクだったな。少し待っていてくれ」

執事にナイトティーセットとミルクを部屋の前に持ってくるように頼み、その間に文机から手紙を書くのに必要なものと、魔道封筒を数通取り出す。

リリアンヌに聞きたいことも、話したいことも山とある。本当に無事であるなら、会ってそれを確かめたい。できれば帰って来てほしいが、それが叶わぬなら私から会いに行ってもいい。

執事が持ってきたティーワゴンを部屋に入れ、妖精にミルクをふるまうと、妖精からは菓子を渡された。妖精に菓子をもらえるとは、なかなか貴重な体験だ。

自分の分の紅茶も用意し、リリアンヌに手紙を書き始める。しかし、この妖精の言うリリアンヌが、私の孫のリリアンヌかどうかは確信が持てないままだ。

「リリアンヌはまだ五歳なのだ。なのに、こんなきれいな文字で、こんな文章を書けるであろうか……」

「リリアンヌは小さいでにゃんすが、とっても賢いでにゃんすよ」

「そうなのかっ⁉」

「あい、大抵のことは一人でできるでにゃんすよ」

「一人で……。リリアンヌは何か困っていたりはしないだろうか? 妖精と暮らしていると書いてあったが、どんな生活をしているのだろうか?」

「アッシの知る限りでは、何か困っているような感じはないでにゃんすね。よくみんなで肉を食べているでにゃんすよ」

「肉?」

「あい、みんなで肉を焼いて食べるでにゃんす。あ、リリアンヌは野菜も食べているでにゃんすよ」

「何だか楽しそうだな……」

「あい、楽しいでにゃんす」

「しかし、何の肉を食べているのだろうか」

「いろいろでにゃんすが、ブラックディアとかブラックボアが多いでにゃんすかね? あとはコカトリスの『からあげ』とかいうニャツもよく食べるでにゃんす」

「なっ……」

どれも高級素材ばかりではないか……。貴族であってもそうそうに食べられるものではないが、とりあえず、食べるものには困っていないようだ。

いろいろと気にはなるが、まずは手紙を送ってみるとするか――。