軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◆75・旅立ち前夜。

雪丸さんがハウゼンさんたちを迎えに来てから数日が経った。

ハウゼンさんたちはすぐにでも出発したそうにしてたけど、二人の体調を鑑みて、もう少し動けるようになるまでは行かないという雪丸さんの判断で、雪丸さんもしばらくルースの泉前に滞在していた。

少し前に『ユキマルさん』を鑑定したら、個体名が『雪丸』と漢字表示されていたので、本人に確認したところ、やっぱり雪丸さんたちに名前を付けたのはシンタロウさんだったようだ。

雪丸さんのことはさておき、ハウゼンさんは少し動けるようになった頃、いつの間にかどこぞで拾ってきたと思われる木の棒で素振りをしたり、辺りを走ったりしていた。時々、木の茂みを飛び越えたり、木の上を飛び移ったり、ちょいちょい忍者っぽいのが混じっていたけど、アレはなんだったんだろうか?

一足早く脳筋行動をするハウゼンさんを、ルー兄は悔しそうに眺めていたりもしたけど、おかしいのはハウゼンさんの方なので、気にしなくていいと思う。回復力も加護の影響を受けているんだと思うな……。

そんなこんなで、ルー兄もそれなりに回復した頃、パドラ大陸に向けて出発しようということになった。出発は明朝。まずはティントルの森を抜けて、カレッタ国の『トーラ』という街を目指すことになる。トーラは、私とソウさんがいつも使っているギルドのある街、『テーレ』の東にある街だ。

その後は、ロンダン帝国に入り、ロンダンの帝都へと向かう。パドラ大陸は別大陸といっても、アーメイア大陸とはそれほど離れてはいない。ロンダン帝国から、パドラ大陸行きの船もたくさんあるようだし、人によっては、帝国から騎獣に乗って移動する人もいるようだ。

騎獣のことはずっと気になってるんだよね。聞いた話では、飛行型の魔獣をテイムして、それにお客さんを乗せて運ぶ人たちもいれば、自分でテイムした魔獣に乗っている人もいるようだ。

ただ、個人で騎獣に乗るのには許可証が必要なようで、無許可で乗っていると処罰されるらしい。なので、大抵は騎獣に乗せてくれる人、いわゆる『騎獣タクシー』を利用するのが一般的のようである。

前にナツメさんの背中に乗っ……しがみついて疾走した記憶があるけど、あれって、人に見られたら処罰対象ってこと? でも、ナツメさんは妖精だしな……。妖精ならセーフだろうか?

あ! そもそも、猫姿のナツメさんは人には見えないのか。……あれ? だったら、私が乗ってる状態で見られたら、私が宙をガックンガックンしながらスライドしていってるように見えるんじゃ……。

「…………」

かなり間抜けな光景だなと思ったけど、〈認識阻害魔法〉をかけておけばいいだけかと思い直した。まぁ、もう乗らないけどさ……。

騎獣話はさておき、ルート確認をするためにも地図があった方がいいだろうと、〈MAP〉画面を見ながら、簡単な地図を紙に描き写そうとしていたら、横で見ていたナツメさんが驚いた声を出した。

「リリアンヌは地形を覚えているのか!?」

「……ん? 地図を描き写してるだけだよ?」

「描き写す?」

「……うん、ほら、これ見ながら描いてるだけだよ?」

「にゃ? これ? にゃにもにゃいが……」

「え?」

どうやら、スキルの画面は私にしか見えないものだったらしい――。

地図も用意したし、三人の旅支度もできている。雪丸さんは、「特に何も要らない」と言っていたけど、人間であるハウゼンさんとルー兄は、そういうわけにはいかないのだ。

森で狩ってきた魔獣を現金に換金してあるし、料理もいっぱい作ってマジックバッグに詰め込んでおいた。ハウゼンさんとルー兄の持っていた武器も返したし、あとは本当に出発するだけの状態だ。

今日はハウゼンさんたちがルースの泉前で過ごす最後の日なので、三人の好きなものにしようかとリクエストを聞いたら、ハウゼンさんとルー兄は「カレー」、雪丸さんは「肉」がいいとのことだった。

ならば「ボア肉のカツカレー」にしようかな。サラダはさっぱりしたのがいいな……。マリネっぽいやつがいい。ちょっとした酸味が欲しいよね。トマトと玉ねぎのマリネにしようかな。トマトとアボカドとクリームチーズのマリネも作ろう。エビとれんこんとブロッコリーのサラダも作っちゃおう。

トッピングに温水球で作った温泉卵もどきと、野菜もいっぱい用意しとこ。かぼちゃ、ナス、パプリカ、ほうれん草……こんなもんかな。

今日は雪丸さんも作るのを手伝ってくれるらしい。最後くらい、ゆっくりしてていいと言ったけど、料理をするのは嫌いじゃないからと、調理場に来てくれた。

雪丸さんはここに滞在中、何度も料理の手伝いをしてくれたけど、普通にお上手だったのだ。

ナツメさんも時々、手伝ってくれようとするけど、目を離すとすぐにあの「甘くなる謎の草」をふりかけようとするので、目が離せないのだ……。

その点、雪丸さんは常識人なので、変な草をトッピングしようとしたりしないし、無言でもスムーズに作業が進むので大助かりである。

雪丸さんも最初は、私の〈交換ショップ〉スキルに驚いていたけど、「そういえば、シンタロウのスキルもかなりおかしかったですね……」と、ちょっと遠い目をしたあとに、何かに納得したらしい。

私は、シンタロウさんのその、おかしいスキルとやらが気になったので、どんなものだったのか聞いてみたところ、

「具体的なイメージを込めながら絵を描くと、その絵を具現化できるというものでしたね。まぁ、それで出していたものは、ほとんど食べ物でしたが……」

「わぁ……」

そんなスキルを持っていながら、食べ物を出しちゃうところが「日本人だなぁ……」と思っちゃうよね――。

雪丸さんと話しながらも、私たちは大量のご飯を作り上げた。大量なのはもちろん、我が家の庭に集まるファンタジー生物たちのぶんも、込みだからである。

出来上がった料理をいつものスペースへと運ぶ。

いつの間にかホ●ワーツの食堂みたいになったねぇ……。天井は低いし、浮いているのは蝋燭じゃなくて、妖精たちが出した〈ライトボール〉だけど。

外にあったキャンプ場のようなスペースは、数日前に私の〈土魔法〉で囲って、屋内スペースにしたのだ。窓部分を大きく取って、昼間は光がたくさん入るようになっている。ドアはもちろん、ナツメ親方作である。これで冬が来ても、ここが使えるからね。

――さて、ご飯をいただきますかね。

「「「いただきます」」」

うん、やっぱりカレーは美味しいね。私のはカツ少なめだけど、うまうまである。サラダも美味しい。

みんなも美味しそうに……、いや、よく見るとちょっと怖いな。なんか鬼気迫る感じでガッついてるけど、ちゃんとたくさん用意してあるってぇの……。

――そこ! 目で牽制するなし! 誰も盗らんて!

ハウゼンさんと雪丸さんにちょっと遠慮がちなルー兄も、ご飯の時だけはなんか全方向オラオラするようになったし……。

和気藹々というより、ちょっと殺伐としたここでの最後の晩餐を済ませたあとは、みんな明日に備えて、早く寝るという。

私も片付けて、お風呂に入ったら寝よ――。

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食事が終わって、リリアンヌが片付けをしていた頃――。

「ナツメさま~!」

「にゃ? お前は、シフに行っていた……」

「あい! ただいま戻ったでにゃんす!」

「ご苦労だった! で、どうであった?」

「それが……」

「どうした?」

「リリアンヌを探しているのは、リリアンヌのじい様のようで、すっごく心配しているようでにゃした。そのじい様は問題なかったでにゃんすが、近くに酷い魔力臭のニャツがいたでにゃんす」

「酷い魔力臭の奴?」

それを聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、あの200年前の最悪の来訪者のことだ。さすがに、あれほど酷い奴がまた現れたとは思いたくないが……。

「一緒に行ったニャツラはあまりの臭いに近付くこともできねぇで……、アッシもがんばったでにゃんすが、あまり長くは観察できなかったでにゃんす……」

「吾輩たちは魔力の臭いや気配には敏感だからにゃ」

「あい……。で、分かったのは、ソイツのせいでリリアンヌの周りのニャツラがおかしくなって、リリアンヌに酷いことをしていたってことくらいで、ソイツの顔や姿を確認することまではできにゃせんでした……」

「そうか、それは仕方にゃい。しかし、それでリリアンヌは家を出て、ここまで来たのか……」

「あい、おそらく……。それで、今の話をリリアンヌにするかどうか、ナツメさまに聞いてからにしようと思いにゃして」

「そうだにゃ……。今の話を聞けば、家に戻りたいと言う可能性もあるかもしれにゃいが、それでもやはり、はにゃしておくべきかもしれにゃいにゃ。居場所を決めるのはリリアンヌだからにゃ」

「あい、わかりにゃした」

それにしても、その酷い臭いの奴というのは気になるな。できればリリアンヌをそ奴に近付けたくはないが、リリアンヌはどうするだろうか……。

リリアンヌが戻りたいというなら、一緒に付いて行ってやりたいが、吾輩たちは森の管理があるゆえ、あまり長い期間、森を離れることはできない。

できれば、ずっとここにいてほしいのだがな――。