軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◆147・梱包作業は丁寧に。

騒がしく言い争いをする人たちの前に現れたのは、デルゴリラほどの装飾品は身に着けてはいないものの、似たような白い法衣を着た壮年男性と、淡いミントグリーンの髪色が目を惹く青年だ。

「教皇猊下!」

――え? 教皇猊下!?

「エミリオ殿下!?」

――え? 殿下!?

教皇様より、デルゴリラの方が派手派手しかったから、言われないと気付かなかったかも。

じぃじよりも少し年下……? くらいに見えるおじさんだ。

優しそうと言えば優しそうだけど、気弱そうにも見える。

『教皇』と言うには、威厳が感じられないかもしれない。

それから、『エミリオ殿下』と呼ばれた青年。

年はルー兄やアルベルト兄さんに近そうだ。

この前、ロイド様が話していた、レギドール神皇国の大公子様だと思われる。

何にせよ、『教皇』も『大公子』も、国のトップ的存在だ。

かなりの大物が出てきたなぁ……と思ったけれど、ロンダン帝国の皇子が襲われたとあっては、別におかしなことではないかと思い直す。

そんな二人の登場によって、場に静寂が齎された。

そして、そこからは、あっという間であった。

先ほどまでの言い争いなど無意味だとあざ笑うかのように、大公子殿下の鶴の一声で、テキパキと事が進んでいき、実にアッサリと収束を見せたのだ。

私が捕まえたデルゴリラ一派は、レギドール騎士団が連行することになった。

連行理由は、『ロンダン帝国の皇子に危害を加えようとしたこと』だけど、ロイド様や第五部隊の報告により、その他の罪についても徹底調査が為されるらしい。

そこんとこは、本当にきっちりと調査し、きっちり処罰を下してほしいところである。

それにしても、教皇様は特に何もしていなかったな……なんて思っていると、大公子様が、ロイド様に話しかけるのが目に入った。

「ロイド殿下、後ほど、改めて話すお時間をいただきたい」

「ええ、もちろん」

「それで……」

何かを言い淀みながら、デルゴリラたちの方に視線を送る大公子様。

それに合わせるように、ロイド様もデルゴリラたちの方に視線を遣っている。

「この者たちが何か?」

「いえ、この者たちと言うか……、できれば、この拘束具を別の拘束具と交換したいと、騎士たちが……」

「…………あ~っと……、それは……」

私の方をチラと見るロイド様。

「………………」

まぁ、このままだと運びにくいのは分かる。

だけど心情的に、この拘束はまだ外したくないのだ。

しばし悩んだ末に、《ピコンッ!》と思い付いた。

運びにくいのならば、運びやすくすればいいのである!

という訳で、表面側に付いている棘を落とすことにした。

これで、運搬問題は解決である。

だけど、これを外すのは大変?

おーけー、おーけー、ならば遠隔で外せるようにしようではないか。

そうして、思い付いたことを実行しようとしていた時である――。

突如として、宙に金色の光球が現れた。

球自体は小さいけれど、この場にいる者たちの視線を一気に集めるほどに、とても眩しい。

その光球が、皆の視線を集めたと確認したかのように、少し光量を落とす。

そしてその後、その光球が、一文字一文字を焼き付けるかのようにして、宙に文字を書きだしていった。

《忌まわしき邪法に手を染めた人間共を金竜は許さぬ。愚かなる者たち全てに正しき罰が下されぬ場合は、この金竜がレギドールに裁きを下すであろう》

――わお! 金竜様?

「――なっ!?」

「……ひぃっ」

「き、金竜様!?」

「ま、まさかっ、神託……なのかっ!?」

「レギドールに……裁き……?」

この場にいる人たちにハッキリと見せつけるように、デカデカと書かれた文字。

どうやら、文字を書いたのはレイのようなんだけど、言葉自体は、本当に金竜様の言葉らしい。

そんなこんなで、突如として齎された金竜様の言葉に、戸惑い、慌てふためく人々。

混乱の後、恐縮し、神妙な面持ちとなる。

しかし、しばらくすると、「これは、本当に金竜様のお言葉か?」と言いだす者が現れた。

すると、連鎖するように、「そうだ、これは何者かの陰謀だ」「金竜様の名を騙る不届き者がいるぞ」などと言いだす者も現れたのである。

まぁ、確かめる術がなければ、本当に金竜様の言葉がどうかを疑いたくなる気持ちは分かるのだけど、書かれている文言自体は別におかしくないと思うのだ。

ちょっぴり物騒な言葉はあれど、要約すると、『罪を犯した者をきちんと処罰しなさいよ』って内容で、陰謀も何も……。

ハッとして、騒ぐアルトゥ教の人たちを〈鑑定〉する。

「(――~~~っ……)」

「――っ!?」

「ぎぃあっ! いだだだだだっ……」

「ひぎぃっ! がぎゅぎゅがぎっ!」

「ぎゅあっ! ふぐぐぐぐぐがっ!」

「なっ、何だ――!?」

声にならない呻き声を上げながら、数名を植物魔法で一気に拘束。

驚く者、奇声を上げる者、身構える者と、様々な反応をする人たちを気に留めることなく、この場にいる人間全てを〈鑑定〉していく。

私が拘束したのは、デルゴリラやローブ男と同じように、あの魔石を身に着けている者たちだ。

今のところ、金竜様の文言に批判的な態度を示した者たちばかりなのだけど、彼らが何を騒いでいたのかと思えば、単純な話、『忌まわしき邪法』という言葉に心当たりを感じて、反応したのだと思われる。

現れた文言にいちゃもんを付けて、なかったことにでもしようとしたのか。

真偽はともかく、その行動が自分たちの首を絞める結果になったと言えよう。

そして……。

突如として拘束された者たちが、この拘束が金竜様の手によるものだと思ったらしく、阿鼻叫喚の恐慌状態へと陥った。

新たに拘束した者たちも、デルゴリラたちと同じく、最終的には白目を剥いて気絶。

その光景を見ていた者たちは絶句。

だかしかし、すぐに気を取り直すかのようにして、大公子様がその場に跪き、口を開いた。

「我らが尊き金竜様! 必ずや、罪を犯した者たちを徹底的に見つけだし、その罪を償わせましょう」

それを見た教皇様や他の者たちも、慌ててその場に跪き、頭を垂れた。

これでこの件に関しては、国が総力を挙げて徹底調査をすることになるだろう。

でもその前に、一度、アルトゥ教教会の中を見て回り、隅々まで〈鑑定〉をした方がいいだろうか……なんてことを考えていると、何やらどこかで騒めきが起こっているような気配を感じた。

この場にいる人たちも、辺りを見回し始める。

レギドール騎士団の人たちが数名、部屋の外の様子を見に行こうと扉を開けると、宙に浮かぶ人々が、次々とこの部屋の中へと入ってきた。

その光景にまたしても、この部屋の者たちが騒めき、右往左往し始める。

「うわっ!」

「なっ、何だ!?」

「人が浮かんで!?」

――忙しいこって……。

まぁ、人が宙に浮かんで飛んできたら、そりゃ驚くかぁ……。

でも真実は、人が飛んできている訳ではない。

「ニャッホ! ニャッホ!」

「にゃしししししっ! 逃げられると思うなにゃし!」

「にゃっふぅ、にゃっふぅ……」

見える人にしか分からないだろうけれど、正解は、どこからともなく現れた大量の猫妖精たちが、あちらこちらから人を運んできているのである。

運ばれてくる人たちは、誰も彼もがぐったりとしていた。

恐らく、猫妖精たちに気絶させられたのだろうけど……。

そんなぐったり人間たちが、なぜか私の前にどんどんと積み上げられていく。

まぁ、『なぜか』と言いつつ、答えは分かっているのだ。

金竜様や猫妖精たちが 人世(ひとよ) のことに介入してきたことには驚きだけど、その理由はあとで聞くこととして、私は眼前に積み上げられた人たちを〈鑑定〉し、例の魔石を身に着けていることを確認。そして、拘束。

私と猫妖精たちの華麗なる流れ作業を、虚無の目で見つめるロイド様とアルベルト兄さん。

そうとは気付かず、目の前で起こる不可思議現象に顔を青褪めさせるその他の人たち。

そんな人たちを横目に、私は猫妖精たちの期待に応えるべく、せっせとトゲトゲぐるんな植物魔法を発動し、とてもとても丁寧に、蔓巻き梱包作業を 熟(こな) したのであった――。

新たに拘束された人たちも、デルゴリラたちと共に、レギドール騎士団が連行するとのこと。

この部屋で起こった拘束劇を目にした大公子様は、同じ拘束をされているデルゴリラたちも、金竜様の手によって拘束されたのだと思い、拘束具を交換するのはやめた方が良いと思ったらしい。

まぁ、でも、ちゃんと運びやすく、表面の棘は取ってあげますからね!

それから、遠隔で外せるように、視界共有できる花でも咲かせよう。

それで頃合いを見計らい、巻き付けた蔓を外してあげることにする。

一応、仕様説明書も添えておこうかね……。

そうして私は、うんうんと頷きながら視界共有用の花を咲かせた――。

《ぽぉぉぉ~……》

――なんでやねんっ!

◆ ◆ ◆

後の調べで、例の魔石を所持していた人間は、全て『デルゴリア派』と呼ばれる、デルゴリラを支持するアルトゥ教信者たちであったことが判明する。

例の魔石所持者は、魔石の材料が人であることを知っていたのであろう。

その者たちは、貴族社会から『不要』として売られた人たちや孤児たちを、デルゴリラが集めることに協力していたようだ。

しかもそのことについて、自分たちにとって都合の悪い人間を簡単に消せる手段とさえ思っていたようである。

その中には、ルー兄とルー兄のお母さんをデルゴリラに売った、ルー兄の実父の正妻もいたとか、いなかったとか……。

デルゴリラの暴挙から始まった此度の一件は、金竜様と猫妖精たちの介入により、アルトゥ教全体……どころか、レギドール神皇国全体を揺るがす大事件として発展し、歴史に刻まれることとなる。

ついでに、エミリオ大公子殿下の大いなる勘違いにより、『金竜様の神聖なる使徒』として、ポニワの姿形も歴史書に残されることになるのだが、それはまだ、しばらく先のお話――。