軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◆109・オーブ

この件の首謀者らしき人たちを捕えたからと言って、「はい、終了」というわけではない。まだ捕縛できていない敵もたくさんいて、ロイド様の指揮の下、騎士たちが辺りを走り回っている。

ロイド様もしばらくここから動けないだろうし……

一度、街まで一人で戻ろうかな?

ロイド様には「街に戻る」とだけ言って、あのレギドールの司祭のことを確認するかどうかを、ルー兄とアルベルト兄さんに先に確認しよう。ルー兄はロイド様に会ったけど、アルベルト兄さんのことは知らないもんね。まぁ、アルベルト兄さんなら、確認したがりそうだけど。

では、この段取りで……と、動こうとした時だった――。

――ドンッ!

「な、何っ!?」

「何だっ!」

「攻撃か? 敵を捜せ」

突然、大きな爆発音のようなものが鳴り響いた。

音のした方を見遣ると、煙が立ち込め、その中に炎が見える。

本当に爆発した?

魔法か引火か、攻撃か事故か、原因は何だろうかと思いながら、何気なくレイに視線を向ければ、何だか殺気立っているように見えた。

「レイ?」

「すごく嫌な気配がする。あの爆発の原因、もしかしたら……」

「よく分からないけど、あそこに行った方がいい?」

「いや、僕が行く。リリィはここにいて」

「でも、私、防御魔法をかけているし、今のレイは力に制限があるんでしょ?」

「そうだけど……。いざとなれば、元の姿に戻ればいいだけだから」

「いや、それは……」

人目のない所でならともかく、こんな所で元の姿に戻られたら、混乱が起きそうである。まぁ、すでに混乱状態のこの中でなら、誰にもツッコまれない可能性も……いや、やっぱダメだな。絶対目立つ。死ぬほど目立つ。どうやっても目立つ。しかも、突如として元の姿に戻ったら、絶対に『女神降臨☆キラリン』な伝説が生まれそうだ。

――却下だ、却下!

という訳で、『私も一緒に行く』一択である。レイは私が行くことに渋い顔をしていたけれど、今のレイはかわいいかわいい仔猫で、渋顔を作っても普通にかわいいだけである。

とにかく、いざ、爆発が起こった場所へ向かおうとした時、煙の中から赤黒い石を持った濃紺色のローブを着た人が現れ、狂気めいた声が響いた。

「ぎゃははははははっ! 全員殺してやる!」

「え?」

「――! あの石!」

「石?」

レイが気にしているのは、あの濃紺ローブ男が持っている、血を凝縮して球体化させたような赤黒い石のことだろうか……と思った時、私が立っている場所を含めた辺り一帯の足下に、半径五メートルほどの魔法陣らしきものが現れ始めた。

完成した魔法陣ではなく、今まさに魔法陣が書き上げられていっている、という状態だ。ちらと濃紺ローブ男を見遣ると、何かの板らしきものに先ほどの赤黒い石を嵌め込み、それを掲げている。男が掲げた板に描かれた魔法陣が、徐々に私たちのいる足下に転写されていっているように見えた。

「――リリィ! 魔法陣の中にいちゃダメだっ!」

「えっ……、あっ……」

何だかレイが凄く焦っているし、この魔法陣から離れるべきなのは分かる。完全防御魔法があるから大丈夫だとは思うけど、万が一ということもある。レイの声に反応して浮遊魔法を使い、魔法陣とは接触しないようにしたけれど、魔法陣の上にいるのは私だけではない。

ロイド様やその側近たち、レイヴンラニットを含めた騎獣たち、騎士や魔法師も魔法陣の上に立っている。みんなも魔法陣の範囲から離れようとしているけど、全員が魔法陣から離れられるとは思えない。

「あっ……と、あっ! 〈結界〉」

慌てて、魔法陣の上に結界を張った。私たちではなく、魔法陣自体を閉じ込めるようにして張った結界だ。私が張った結界に押し上げられるようにして、みんなの立つ場所が十センチほど上がる。私は結界を張りながら、さっさと魔法陣の上から退避した。

「なっ、何だ?」

「これはっ……」

「何が……」

突然、立ち位置がせり上がったことにざわめきが起こっているけれど、そんなことより、さっさと魔法陣の上から退避してほしい。結界があるとはいえ、どうなるか分からな……――ん? 魔法陣の転写が止まってる?

「なっ……、どういうことだ⁉ なぜ止まっている!」

濃紺ローブの男も騒いでいるので、やっぱり魔法陣の転写は止まっているようだ。……もしかして、結界を張ったことで、転写機能だか魔法だかの効果が遮断されたかな。

あっ! 考察とかより、あの濃紺ローブ男を捕縛せねばっ!

「〈ライトバインド〉」

今はロイド様たちとは少し離れているので、変な呪文はカットである。

「うわっ!」

男の捕縛はできたけど、魔法陣は消えていない。

結界の上にいる人たちは未だにその場に立っているので、結界を三角になるよう変形させ、強制滑り台状態にして、結界の上に立っていられないようにした。そのことで、またみんながワーワー騒いでいるけれど、今は無視である。

それより、結界を消したら、止まっている転写が再開される可能性もあるので、どうにかしたいのだけど……。

あの男の持っていた板から、あの赤黒い石を外せばいいだろうか?

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◆ヒューマオーブ

人間族を魔力の結晶に変換した人工魔石。

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「………………」

とりあえずあの石を鑑定しようと、軽い気持ちで鑑定したら、最悪の鑑定結果が表示された。

レイがずっとピリピリとした殺気のようなものを溢れさせているのは、これが原因だろうか。

「レイ、あの魔石のこと知ってるの?」

「――!? ………………」

「鑑定しちゃったから、どういうものか分かってるよ」

「…………僕が知っているのは、妖精を核にしたものだった。だけど、発動しかかった魔法陣を見るに、妖精を核にするものを改変したものだと思う」

「さっきの魔法陣は、私たちを核にして、人工魔石を作ろうとしたものだった?」

「そうだと思う。だけど、今回は魔石を作るためというより、目の前の敵を一掃しようとして、あの魔法を使おうとしたように見えた」

あの魔法が発動していたら、魔法陣の上にいた人はみんな、魔石になっていたんだろう。ならば、確かに敵を一掃することに使える魔法だとも言える。齎される魔法効果は悍ましいもので、きっと、このままにしていてはいけないものだ。でも、まずは目の前の魔石と発動途中の魔法をどうにかしなければ。

レイに確認を取りながら、濃紺ローブ男が持っていた板から魔石を取り外すと、展開途中だった魔法陣も消えた。どうやら板が魔道具で、魔石が魔道具を発動させる電池のような役割をしていたようである。

没収した魔道具と魔石は、レイの預かりになった。

人の手にあってはいけないものだろうし、ロイド様たちの手にも渡らない方がいい。

ただ、魔道具と魔石がこれ一つとは限らない。

レイによれば、近くに魔石の気配はもう感じないらしいのだけど、猫妖精ほど正確に分かる訳ではないし、さすがに魔道具の気配は分からないとのこと。まぁ、そうだよね……。

そうこうしている内に、ロイド様がやって来た。

起こったことの確認がしたいようだったので、敵が発動しようとしていた魔法を防ぎ、敵から魔道具を取り上げたけれど、魔石を外したら崩れて消えたと言っておいた。魔道具や魔石について、わざわざ私から話す必要はないだろう。

捕縛された濃紺ローブ男は、マギリアの人間らしい。

あの濃紺のローブは、マギリアにある『魔塔』と呼ばれる組織に所属する魔法師が着用するもののようだ。

ならば、さっき特殊な馬車の中にいた、濃紺のローブを纏った二人もマギリアの人間ということだろう。刺繍の豪華さに差があるので、もしかしたら立場や位に比例しているのかもしれない。

あの魔道具や魔石はマギリアで作られたものだろうか。

なんにせよ、あれらがレギドールに流れている可能性もある。

洗脳に隷属に、人を魔石にしてしまう魔法……。言葉だけで憂鬱になりそうだ。

だけど、きっとこれから対峙し、対処しなければいけないことだろう。

とりあえず、今度こそ街に戻ろう――。