作品タイトル不明
984話 チームイリス・その5
「……終わりましたか」
魔法による光が晴れて。
舞い上がる粉塵が収まり。
そして、地に伏したイリスが見えた。
覚醒は解除されていた。
体力と魔力が尽きたのだろう。
「……ぅ……」
意識は残っている。
ただ、思うように体を動かせない様子で、もがいていた。
「わたくしは、まだ……」
「無駄ですよ」
「あぅっ」
オフィーリアは普通の魔法を唱えて、イリスの体を拘束した。
天族というハイスペックな種だからこそ、普通の魔法は簡単に習得できる。
「これで終わりです」
「……」
「ここから逆転する方法は、どう考えても不可能だと思いますが?」
「……」
「素直に降参してくれませんか? マスターも、最強種の命を取ろうとは思っていないはず。イリスのマスターが気になるというのなら、私から話をしてみましょう。悪いようにはしません」
「……」
「納得できませんか? それとも、まだ負けを認めないと?」
「ふふ」
イリスは小さく笑う。
険しい表情をしていたものの、それを緩めて、とても楽しそうにする。
そんな反応が理解できず、オフィーリアは小首を傾げた。
「イリス? あなたは……」
「確かに、わたくしは負けましたわ。さすが、オフィーリア姉さま。わたくしでは、まだまだ敵わないのでしょう。本当にさすがですわ」
「なにを……」
「ですが、目的は達成いたしましたわ」
イリスの不敵な笑み。
それを見た時、オフィーリアは、自分がとんでもないミスを犯していることに気がついた。
イリスは、こうして倒すことができた。
しかし、残りの二人は?
フィーニアとサクラが見当たらない。
イリスと同じように倒れていなければいけないのに、どこにもいない。
「まさかっ……!?」
オフィーリアは慌てて振り返り……
「「せーのっ!!」」
すでに遅く、動力炉の前で拳を振りかぶるフィーニアとサクラの姿があった。
……全てイリスの策だ。
イリスは、オフィーリアのことを姉と慕っていた。
小さい頃はいつも一緒にいて、後をついて回っていた。
だからこそ、彼女の理不尽なまでの強さを理解している。
今の自分では、どうやっても勝てないことを理解している。
仲間と共に戦えば、あるいは多少の可能性はあるかもしれないが……
それでも勝機はかなり低いと言わざるを得ない。
故に、オフィーリアを倒すことは諦めた。
動力炉の破壊だけを達成することにした。
そのために派手に戦い、オフィーリアの注目を自分に引きつけた。
自分がパーティーの中心であると。
自分を倒せば戦闘が終了すると。
そう思わせるように振る舞い、戦い……
オフィーリアは誘われてしまい、イリスを倒すことを第一に考えるようになった。
……フィーニアとサクラのことも、決して目を離してはいけないのに。
「まっ……!?」
「「えいっ!!」」
オフィーリアは慌てて駆け出すものの、とても間に合う距離ではない。
フィーニアとサクラが先に動いて、強烈な一撃を動力炉に叩きつけた。
「「「……」」」
沈黙と静寂。
ほどなくして、動力炉が火花を散らす。
そのまま爆砕して、機能を停止した。
「ふふ……試合に負けて勝負に勝った、という感じでしょうか?」
「……やられましたね」
普段、ほとんど表情を変えないオフィーリアではあるが、この時ばかりは苦い顔をしていた。
ただ、そこまで悔しそうではない。
してやられたものの……
大事に想っている妹分が、仲間と協力して自分を出し抜いてみせた。
そのことを嬉しくも思っていた。
「あら?」
拘束魔法が解かれて、イリスは立ち上がる。
そこに、フィーニアとサクラが戻ってきた。
「イリスさーーーん! やっ、ややや、やりましたぁ! ワタシ、やりましたぁ!」
「わふー! 見てた? ぼく、やったよ! 褒めて褒めて」
「ええ、ええ。お二人共、とても素敵でしたわ」
二人に抱きつかれて、イリスは笑顔で応えた。
……オフィーリアとの戦いで受けた傷のせいで、抱きしめられるとちょっと痛いのだけど。
もうちょっと加減してくれない? と思うけど。
それは表に出さず、笑顔で二人を撫でる。
そんな光景を見て、オフィーリアは……微笑む。
負けてしまった。
与えられた役割を果たすことができなかった。
でも、こんなにも清々しい気持ちなのは、どうしてだろう?
ラインハルトに従い、その使命を支えることが生きる全てだと思っていた。
でも、そうではないのだろう。
それだけではなくて、他に生きる意味なんてたくさんある。
イリスを見ていると、自然とそう思うことができた。
「オフィーリア姉さまは……どうされますか?」
「そうですね……疲れてしまったので、ここで休憩しましょうか。イリスは、引き続き、私を引きつけるという役を果たしてもらえませんか?」
「ええ、もちろん」
姉妹は笑顔を交わすのだった。