作品タイトル不明
951話 決戦前夜・その2
「邪魔するぞ」
そう言って、王の寝室の扉を開けたのはエーデルワイスだ。
その後方にジルオールが控えている。
部屋の中に、アルガス。
それと、シフォン。
アルガスが招いたことなので、特に驚くことはない。
一つ頷いてから、二人を対面のソファーに座るように促した。
「口に合うかどうかわかりませんが」
アルガスはそう言いつつ、酒を持ち出した。
四つのグラスに適量を注いでいく。
「ふむ」
エーデルワイスはグラスを取り、軽く匂いを嗅いだ。
それから迷うことなく、一口で飲み干す。
「美味いな。おかわりをちょうだいしようか」
「……まさか、迷うことなく飲むとは」
「毒の警戒か? そのようなものは私には効かぬよ。それに、今更だろう?」
「……そうですね」
苦笑しつつ、アルガスも酒を飲む。
「はぁ……魔王さまには魔王さまの考えがあるのは理解しましたが、せめて、私にある程度は教えてください。寿命が縮みます」
「なんだ、ジルオールは口うるさいな。小姑みたいだ」
「なっ……」
「くはは。そういう驚き方をするということは、自覚があるのか?」
「……知りません」
ジルオールも酒を飲む。
それに続くように、シフォンもグラスを口に運んだ。
「そなたは……勇者か。そういえば、名を聞き忘れていたな」
「シフォンです」
「そうか、良い名前だな。それと、強い。あの剣技は驚いたぞ」
「魔法剣ですか?」
「ああ。剣技と魔法を合体させる……そのような発想、魔王である私にもない。また、それを成し遂げる技術も、な」
「ありがとうございます」
「あぁ、そうかしこまるな。今日は確かに、私の方から話があると言い、こうして部屋にやってきたわけだが……和平を無駄にするようなことはしないつもりだ。妙なご機嫌取りはしなくていい」
エーデルワイスの言葉に、しかし、アルガスもシフォンも気を抜くことができない。
和平を無駄にするつもりはない。
破談にするような話ではない。
ただ……
こうして人目を避けることを望んでいるということは、厄介な話であることに間違いはないのだろう。
どれほどの厄介な話なのか?
自然と緊張が走る。
「……明日からの戦い、どうなるかわからない。しかし、だからこそ、今、未来の話をしておきたい」
「未来、ですか?」
「少し、頼みたいことがある」
「なんなりと」
アルガスは小さく頭を下げた。
立場上、どうしても下に出てしまう。
「どこか適当な場所に……そうだな、西大陸の中央大陸寄り。あるいは、中央大陸の西端。そこに街を作らないか?」
「街……ですか?」
「ああ。魔族と人間が暮らす街だ」
「それは……」
「領主は、魔族だけ。あるいは人間だけというわけにはいくまい。両方、必要だろうな。魔族側からは、このジルオールを出そう」
「よろしくお願いします」
ジルオールが頭を下げる。
「現状、魔族のナンバー2と言ってもいい存在だ。なので……そちらは、その人間を出してほしい」
「えっ、わ、私ですか……!?」
シフォンは、まさか自分が指名されるとは思っておらず、驚いてしまう。
「勇者ならば、釣り合いが取れるだろう?」
「それは……うーん」
「嫌か?」
「……いえ」
シフォンは、人間と魔族が暮らす街を想像する。
色々な問題が起きるだろう。
毎日が慌ただしく過ぎていくだろう。
でも、とても夢がある。
「やりがいはあると思います」
「決まりだな」
「あ、いえ。ま、待ってください。ただ、私、そういう経験なんて皆無なので、うまくできるかどうか……」
「優秀な者をサポートにつければいい」
「うーん……」
シフォンは、ちらりとアルガスを見た。
任せる、というように頷かれた。
「……ちょっと考えさせてもらってもいいですか? 今は、明日からの戦いのことしか……」
「ああ、それで構わない」
あっさりと引き下がり、シフォンは拍子抜けしてしまう。
「ただ、頭の片隅にでも置いておいてくれ」
「それは……どうして、今、この話を?」
「戦いのことだけを考えるよりも、未来のことも考えておいた方がいいだろう? そうは思わぬか?」
「「……」」
シフォンとアルガスは、思わず目を大きくして驚いて……
次いで、共に苦笑した。
その通りだ。
戦いのことばかり考えていたら疲れてしまう。
それよりは、楽しく夢のあることを考えていたい。
「話はここまでだ。さて……あとは、ゆっくり飲むとしようか」
エーデルワイスは、ニヤリと不敵に笑い、酒の入ったグラスを口に運んだ。