作品タイトル不明
938話 旅行・その4
日が暮れてきて、あらかじめ予約しておいた宿に移動した。
ただの宿ではなくて、観光客用の宿。
部屋は広く、それぞれに露天風呂がついている。
食事も豪華で、大きなテーブルに乗り切らないほどの料理の山。
みんなで食べたけど、それでも残ってしまうほどの量だ。
まさか、カナデやタニアの胃袋を超える量を出されるなんて……
ここの宿は侮れないな。
その後、ボードゲームや人狼ゲームなどで遊び……
いい時間になったため、風呂に入ることに。
部屋に備え付けられている露天風呂も気になるが、他に、とても大きな大浴場があるらしい。
そちらも露天になっていて、自然との一体感を味わえるのだとか。
満場一致で大浴場へ。
……もちろん、俺は男性用の別だ。
――――――――――
「にゃふ~♪」
露天風呂に浸かるカナデは、とろけるような声をこぼしつつ、湯の中で尻尾をゆらゆらと揺らした。
目尻は気持ちよさそうに垂れ下がり、そのままとろけてしまいそう。
他のメンバーも似たような様子で、露天風呂を満喫する。
「はぁあああ……ここのお風呂、気持ちいいわね」
「それに、開放感も素敵ですね」
洗い場は屋根と壁で覆われているものの、浴場は天井が取り払われて、頭上に満点の星空が広がっていた。
片側の壁も解放されており、その先に巨大な湖が広がっているのが見える。
湖は街の光を反射して、キラキラと宝石のように輝いている。
人工と自然の調和。
その景色は極上の一言に尽きる。
「しかし、この大浴場、ずいぶんと高いところに建てられているのだな? なぜなのだ?」
「覗きの対策ではありませんか? 低い場所では、よからぬことを考える輩が出てきそうですし」
「せやなー。そういうのを警戒していたら、せっかくの景色が楽しめんからなー」
そう言うティナは、いつもの人形姿ではなくて、霊体だった。
霊体なので、風呂に入ってもあまり意味はないのだけど……
そこはそれ。
気分というやつだ。
「えっと……り、リファちゃんは、クリオスにいた頃、こんなお風呂に毎日入っていたんですか?」
「ん。ここまで大きくないけど、大体の家庭に温泉は引かれているから」
「おー、うらやましいっすね」
「肌、きれい」
「温泉の効果なのかもしれませんね。わたくし達も、ゆっくり浸かりましょう」
「そういえば、電気風呂っていうのがあるみたいっすね。自分の力でビリビリを加えて……」
「「「それはやめて」」」
色々とありつつも、温泉を満喫する一同。
そんな中、カナデが夜空を見上げつつ言う。
「……あのさ」
「なによ?」
「私達、がんばろうね」
「どうしたんですか、突然」
「んー……ちょっとレインのことが気になって」
「レインさまが、どうかいたしたのですか?」
「なんていうか、こう……うにゃーというか、にゃにゃーんというか……」
「さっぱりわからない」
「えっと、つまり……そう! 余裕がないように見えたんだ」
カナデの一言に、なるほど、と他のメンバーは納得した。
確かに、最近のレインは笑顔が少ない。
いつもは自然体なのだけど、今は、どこか身構えているかのようだ。
英気を養うための旅行なのだけど、この後の戦いのことを忘れることができず……
先のことを考えずにはいられないのだろう。
「主さまが無理をされていないか、とても心配です……」
「あたしも同じ気持ちだけど……でも、レインに無理をするなって、呼吸をするなっていうくらい無茶なことなのよね」
「アニキの扱いと認識って、いったい……」
たらりを汗を流すライハだった。
「うん、そうだよね。だから、私達ががんばらないと、って思ったんだ」
「「「……」」」
カナデの言葉に、メンバー達は小さく微笑む。
「レインが、がんばりすぎちゃうのは、もうどうしようもないから……それを無理に止めても、レインがレインじゃなくなっちゃう気がするから。だから、それはもう諦めた! 代わりに、倒れないように私が支えるの。いっぱいいっぱいがんばるの!」
「そう……ですね。はい、カナデの言う通りですね。主を支えるのが、ソラ達、使い魔の役目です」
「うむ。レインが無茶をするのなら、我らも無茶をするのだ!」
「それ、ちと違うんやない? まあ、それくらいの意気込み、ってことやな」
「みんな、笑顔……がん、ばる」
「わたくし達の力と絆が、今こそ試される時ですわね」
「い、イリスさんがそれを言うと、なんだか……あっ、いえ、なんでもありませんなんでも!?」
「似合わない?」
「サクラちゃん!?」
「わふー。でも、みんな、気持ちは同じ! ぼくも同じ!」
「気合の入れどころ、っすね! やってやるっすよーっ!」
「ふふ。主さまは、とても素敵な仲間を得たのですね。素敵です」
「なに言っているのよ。コハネも、その一員なんだからね?」
「そうだよ、時間なんて関係ないからね!」
「……ありがとうございます。優しい皆様に感謝を」
優しい夜は更けていく。
この時間がいつまでも続いて欲しい。
誰もがそう思い……
そして、そのための努力を欠片も惜しむことはないと、改めて誓うのだった。