作品タイトル不明
899話 第一歩を踏んで
「あれは……」
進軍を続けること数時間。
ようやく魔王城が見えてきた。
「あれが魔王城か」
海と見間違えそうなほど巨大な湖。
その中に城が建っていた。
城というよりは塔と言った方が正しいかもしれない。
巨大な建造物が空へ空へ伸びている。
壁面は白く輝いていて。
周囲は花などの植物で飾られていて。
イメージしていたものとは正反対で、思わず見惚れてしまいそうになる。
それほどまでに美しい城で……
そして、神秘的でもあった。
「にゃー……綺麗」
「ウチ、あんなところで給仕してみたいわ」
「おさんぽ、楽しそう!」
みんな、目をキラキラとさせていた。
こんな時でなければピクニックをしたいところだ。
「敵は?」
ジルオールは、カシオンにそう問いかけた。
魔王城に潜んでいるであろう魔族のことを『敵』と言う。
それは仕方ないことなのかもしれないが……
でも、少し寂しく、そして切なくもある。
「まだ動いてないみたいですね。俺等がまとめて攻撃してくるなんて、向こうも思ってないんじゃ?」
「だといいのですが……油断は禁物ですよ」
「もちろん」
カシオンが不敵に笑う。
その顔に油断も、そして不安もない。
勝利を確信したような笑みだ。
実際に確信しているほど、彼は楽天家ではないだろう。
ただ、心が強い。
迷っていたら勝てる戦いも負けてしまう。
そのことを理解しているからこそ、まっすぐに、どこまでも前に進むことができるのだろう。
強い。
その心を少しでいいから分けてもらいたい。
とはいえ……
「主さま?」
「いや、なんでもないよ」
俺は俺で、大丈夫。
色々と思うところはあるけれど、足を止めることは絶対にない。
一人じゃない。
みんながいる。
だから、上を見て歩くことができる。
「では……行動を開始します。各自、事前に伝えた作戦の通りに」
「いくぞ、てめえら!」
「「「はっ!」」」
ジルオールの合図で魔族達が一斉に動いた。
カシオンを先頭に、真正面から魔王城に進軍する。
今回もまた陽動作戦が採用された。
カシオン率いる穏健派の魔族達が攻撃を開始して、魔王城に潜む魔族達を誘い出す。
その間に、少数の部隊が防備の薄いところから潜入。
魔王を確保する、というのが理想的な流れだ。
陽動はカシオン率いる魔族の部隊、ほぼ全て。
潜入は、俺達とラインハルト達。
それと、ジルオールだ。
戦力が偏りすぎているかもしれないが……
しかし、ラインハルトによると、これでも足りないと言う。
相手は魔王。
本来なら、人間、勇者、最強種……ありったけの力で挑まないといけない。
それを俺達だけで戦わないといけないのだから、戦力不足もいいところだ。
でも、俺は問題ないと考えている。
魔王を倒すのなら戦力は足りないだろう。
けれど、今回は討伐が目的じゃない。
魔王を使役すること。
可能であれば、魔王の『概念』も消すこと。
討伐が目的ではないから、戦力不足はなんとかなると思う。
「まあ、言うほど簡単じゃないか」
ここまできたら、後はもう、うまくいくことを祈るしかない。
神様はもういない。
それでも、祈らずにはいられなかった。
「よし」
陽動は成功だ。
魔王城から迎撃のための魔族……そして、魔物が出てきた。
おそらく、こういう時のためにテイム、あるいは飼い慣らしていたのだろう。
俺達は魔王城の側面を突く。
隠れるところがまったくなくて、見晴らしもいい。
迎撃の魔族は出てくるだろうが、それでも、真正面から突撃するよりはマシだろう。
「みんな、行こう」
そして前に……
「レイン!」
カナデの焦りを含んだ声。
彼女の視線を追いかけると……
人間の軍が見えた。