作品タイトル不明
892話 勇者の使命
姿を見せたのは、シフォンだった。
その後ろに、ショコラとミルフィーユもいる。
「どうして、こんなところに……?」
「魔王が覚醒した。なら、勇者である私がここにいてもおかしくないんじゃないかな?」
「それは……」
シフォンの言うことは当たり前のことだ。
だとしても、早すぎる。
国が動いているのは知っている。
それでも、まだ西大陸へ向かう途中のはず。
……いや。
魔族との戦争を覚悟しているのに、先遣隊を派遣しないわけがないか。
そして、それに勇者であるシフォン達が選ばれた。
そういうことなのだろう。
「その人達は魔族だよね?」
シフォンの視線が荷馬車に向けられた。
「お手柄だね。もうそんなに捕虜をとっていたなんて」
「いや、これは……」
「レインくんがやろうとしていたことは知っているよ。でも、もう魔王は覚醒した。だから、魔族と戦うしかない。魔族は敵……そうだよね?」
シフォンが鋭い視線を投げかけてきた。
こちらの心の中を見抜いているかのようだ。
後ろにいるショコラとミルフィーユも笑顔はない。
刃のように鋭い表情を浮かべている。
「シフォンは……先遣隊のようなものか?」
「正解。本当は別の人が、っていう話になりかけたんだけど、危ないでしょう? だから、勇者である私がまず最初に西大陸に乗り込むことになったの」
「シフォンらしいな」
「ありがとう」
彼女は優しくて、そして、『勇者』の名前にふさわしい勇気を持つ人だ。
そんなシフォンなら、あるいは……
いや。
説得は、やはり難しいかもしれない。
彼女は優しい。
でも、『勇者』なのだ。
その使命は、魔王を討伐して人類を救うことにある。
そのために身を捧げなければいけない。
「その捕虜、私達が引き受けるよ。レインくん達は先に西大陸に乗り込んでいたから、色々と疲れているでしょう? もうすぐ後続が到着して陣地を構築するから、そこで休むといいよ」
「……悪いけど、それはできない」
いつでも動けるように身構えた。
俺の動きを察して、みんなは荷馬車を背中にかばう。
「……なんで?」
「この人達は捕虜なんかじゃない。避難民だ」
「避難民?」
「魔王が覚醒した。でも、全ての魔族が戦いを求めているわけじゃない。戦争なんてしたくないって、魔王の影響から逃れようとしている人達もいる」
「それが、その魔族達?」
「今は魔王の影響を受けているから、こうしているけど……でも、それをなんとかする方法はある。わざわざ戦う必要はないんだ」
「そう」
シフォンの反応は淡々としたものだ。
一応、話は聞いているものの、最終的な目的、行動は変わらない。
旧知の間柄だから話を聞いているだけ……そんな印象を受ける。
「でも、敵になる可能性もあるよね? 絶対に敵にならない、って断言できる?」
「それは……」
無茶な話だ。
可能性を考えれば断言することはできない。
「下手をしたら、レインくん達は国と対峙することになるよ? その前に、私達と戦うことになる」
「だろうな」
「それでも、退いてくれない?」
「退かないよ」
「どうして?」
「手を取り合うことがなによりも大事だって、そう信じているから」
「……」
じっと、シフォンがこちらを見つめてきた。
ピリピリと空気が張り詰める。
プレッシャーが増して、息苦しささえ覚えた。
しばらく彼女と会っていなかったものの……
その間に、ずいぶんとレベルアップしたみたいだ。
戦えばタダでは済まないだろう。
でもやはり、退くことはできない。
俺が俺であるために。
信じる道を進む。
「ふふっ」
ふと、シフォンが小さく笑う。
プレッシャーが霧散して、とても柔らかい雰囲気に……俺の知るシフォンに戻った。
「やっぱり、レインくんはレインくんだね」
「おー、そうだな。安心したぞ」
「私はー、大丈夫だって、思っていましたけどねぇー」
「えっと……?」
これは、もしかして……
「試されていた?」
「えへへ、ごめんね?」
シフォンはいたずらっ子のような顔をして、ぺろっと舌を出した。