作品タイトル不明
890話 問題は続く
「ジルオールさま!」
見知らぬ魔族が部屋に駆け込んできた。
相当に慌てている様子で、息が切れている。
それを理解している様子で、ジルオールは気を害した様子はなく、静かに問いかける。
「どうしたのですか? なにか問題が?」
「は、はいっ……ここから少し離れたところに避難民を見つけたのですが、魔物に襲われている様子で……」
「すぐに救助の部隊の手配を」
「し、しかし……距離があるため、下手をしたら魔王様の影響を受けて……」
「それは……」
ジルオールが苦い顔をした。
グルンヒルドは結界が展開されていて、覚醒した魔王の影響を受けることはない。
外に出ても、多少なら問題はない。
しかし長時間はまずい。
結界の外に出ることで心が無防備になって、魔王の影響を受けやすくなる。
正気を保つことが難しいようだ。
それはジルオールやカシオンも例外ではない。
全ての魔族が対象だ。
「俺達が行くよ」
「レインさん……いいのですか?」
「見捨てられないよ。それに、こういう時は協力し合うというか、各自ができることをやっていかないと」
「……ありがとうございます」
「助かるぜ」
二人に頭を下げられてしまい、恐縮してしまう。
俺としては、当たり前のことを口にしただけなのに。
「とはいえ、今後、こういう展開は増えていくでしょう。対処法を考えないといけませんね」
「んー……小型の結界を展開する装置を開発する、ってプランがあったじゃないっすか? あれ、どうなったんです?」
「現在も開発中ですが……そうですね、難しい状況ですが、予算と人員を増やして完成を急がせた方がいいですね」
「あと、他に抜け道がないか探しておきやすよ。そのために……」
カシオンがコハネを見る。
「ちと、そこの嬢ちゃんを貸してくれると嬉しいんだが。俺等にはない知識や見解を持っていそうだからな」
「えっと……」
「はい、主さま。わたくしは問題ありません」
「そっか。なら、大丈夫だ」
「……」
なぜかカシオンが目を丸くして驚いた。
「いや……言い出した俺が言うのもなんだけど、そんな簡単に信じていいのか? 俺等、魔族の中に仲間を置いていくようなものだぞ?」
「? それのなにが問題なんだ?」
「あー……ははっ、なるほどな。そういうことか」
「ふふっ。主さまは、もう魔族を『敵』として見てはいないのですよ」
コハネは、どこか誇らしげに言う。
でも……それ、当たり前のことだよな。
魔族の過去を知って、胸に抱えている想いを知った。
話を交わした。
魔物と違い、理性と知性のある、想いを交わすことができる相手だ。
敵視する理由がわからない。
「ま、それがレインってことか。俺も、少しはお前のことがわかってきたぜ」
「そうか? それならよかった」
「お前は、よくわかってねえみたいだな」
「それがレインにゃ」
「そうね」
カナデとタニアが同意して。
さらに、みんなも、うんうんと頷いていた。
どういうことだ?
「よし。それじゃあ、すぐに出発しよう。避難民の場所を教えてもらえるか? それと、この周辺の詳細な地図も欲しい」
「やってやるっすよー!」
「あ、いや。ライハは留守番だ」
「えぇ!? なんでぇ!?」
なんでもなにも……
「ライハも魔族だろ? 結界の外に出たら、どうなるか……」
「えぇ……えぇ……うぇえええええ……」
ものすごく落ち込んでいた。
翼が垂れて、尻尾もしゅんと垂れていた。
いや、まあ。
置いてけぼりにするみたいでかわいそうだけどさ。
でも、こればかりは仕方ないというか……
「ライハさま。わたくしのお手伝いをしていただけますか?」
「自分、役に立つっすか……?」
「はい。ライハさまならば、必ず」
「なら、がんばるっす!」
コハネのおかげでライハのやる気が戻った。
感謝だ。
「レインさん」
「はい」
「避難民は、魔王様の影響を受けている可能性が高いです。可能ならば手加減をして、ここに連れてきてほしいのですが……難しい場合は、ひと思いに」
「それは……」
「望まない破壊をさせられるよりは、マシでしょう」
「……悪いけど、それはできません」
「え」
避難民ということは、戦いを望んでいないということだ。
平穏を求めているに違いない。
なら、俺はその願いを叶えてあげたい。
「絶対に、とは言えないけど……でも、最初からそういう可能性は考えたくありません。俺は、諦めませんよ」
「……ありがとうございます」