作品タイトル不明
889話 戦争の足音
「国が動いた!?」
みんなを集めて。
ジルオールとカシオンと合流して。
そこでもたされた情報は、国が軍艦を出して西大陸へ向かっている、というものだった。
「それは確かな情報なのですか?」
「はい、間違いありません。衛星で確認をしましたので」
「えーせー?」
「少なくとも食べ物やないと思うで」
カナデはいつでもマイペースだ。
でも、それが頼もしい。
「衛星というのは、鳥のようなものと考えてくださいませ。鳥よりも遥かに高く、相手方に決して感知されることなく、様子を探ることができます」
「それ、すごいわね……」
「でも、そんなものがあるなら、リースやモニカのところに攻め込む時、役に立ったんじゃないっすか?」
「申しわけありません。真上から見るものなので、途中に障害物……木などがある場所では、やや運用が難しく……」
それでも、十分すごい力だ。
なによりも、相手にまったく感知されないというところがすごい。
俺が動物を使役しても、その動物が見つかればバレてしまうからな。
その心配がないというのは、かなり強い。
「コハネさんが言うのなら、確かなのでしょうね……どれくらいで西大陸に着くか予想できますか?」
「かなり大規模な艦隊なので、行軍速度は遅いです。おそらく、1週間から10日になるかと」
「短いと嘆くべきか、予想よりは長いと喜ぶべきか……」
場が重い空気に包まれる。
こちらの方針は定まったものの、しかし、具体的な方法には至っていない。
そんな中、時間だけが削られていく。
「ってか、人間の動きが早くない?」
「あ……そ、それ、ワタシも思っていました」
タニアの疑問にフィーニアが追従する。
「ま、魔王が覚醒したのは、ついこの前で……でも、人間は、もう大規模な軍を動かしていて……は、早すぎないですか?」
「「「……」」」
「ぴぃ!? すみませんすみません! ワタシなんかが偉そうなことを言ってすみません! アリさんに謝ってきます」
「なぜ、そこでアリが出てくるのだ?」
「フィーニアさんの的確な意見に、皆さん、驚いていただけですわ」
「よし、よし」
「はぅ、ニーナままぁ……」
時折、ニーナが謎の母性を発揮するのはなぜだ?
ノキアさん譲りなのだろうか?
「それにしても……」
フィーニアの疑問は、これ以上なく正しい。
魔王の覚醒と国の行軍を考えると、どう見ても動きが早すぎる。
あらかじめ準備をしていたとしか思えない。
でも、約束の半年はまだ過ぎていない。
もちろん、半年の間になにもしない、ということはないだろう。
期間が過ぎるまでの間、軍を動かす準備を進めていたはず。
それを、そっくりそのまま転用した?
いや。
それでも、動きが早すぎる。
フィーニアが言うように、魔王が覚醒したのはついこの前なのだ。
そこから軍を動かしたとしても、まだ準備の段階のはずで……
「……まあ、そういうことなんだろうな」
ため息をこぼしてしまう。
みんなの視線がこちらに向いた。
「どういうこと?」
「たぶん……王は、俺との約束を守るつもりはなかったんだろう」
「「「……っ……」」」
「俺を時間稼ぎとして利用した。その間に軍の準備を進めて、用意ができたところで進軍を開始。魔王の覚醒のタイミングは、たまたまだろう」
「な、なによそれ!? レインを騙したってわけ!?」
「許せませんね……」
「男と男の約束を破るとは、男の風上にもおけないのだ!」
「まあ……仕方ないよ」
裏切られたものの、怒りはない。
寂しさと悲しさと、それらをちょっと混ぜたような複雑な感情はあるが。
俺が失敗したら、人類は大きな脅威に直面することになる。
危機に晒される。
そんな賭けに出ることは、人類を束ねる者として容認できなかったのだろう。
だから、俺を利用することにした。
時間稼ぎにして、その間に準備を進めて……
「はあ……とはいえ、けっこう堪えるな」
ダメなのに、心が下を向いてしまう。
と、その時。
「ならば、わたくし達はさらに前を進み、予想の裏をかいてみせましょう」
コハネが静かに言う。
「人間の動きは予想外ですが、しかし、わたくし達のすること、やるべきことに変わりはないのでは?」
「……コハネ……」
「主さまならば、そう考えると信じています。その答えにたどり着くと、確信しております」
「……ああ、そうだな。ごめん。ちょっと弱気になっていたよ」
「いえ」
まだなにも終わっていない。
そして、俺は一人じゃない。
だから、まだがんばることができる。