作品タイトル不明
885話 譲歩と期待
「……」
「……」
俺とラインハルトの視線が重なる。
鋭いプレッシャーを感じるものの、ここで目を逸らしてはいけないと、じっと見返した。
ややあって、ラインハルトがため息をこぼす。
「とはいえ、今回、俺は助っ人として呼ばれた身だ。勝手なことをするつもりはない」
「え? それじゃあ……」
「レイン、お前の力を示してみせろ。それが成功するのなら、それでいい。ただ、失敗した場合は、俺は好きにやらせてもらうぞ」
「……ありがとう」
――――――――――
俺の案がうまくいけば、それでよし。
失敗した場合は、ラインハルトは独自に行動を開始する。
つまり、人類を生贄にして魔王を鎮める。
あるいは、人間と魔族の全面戦争に発展する。
どちらにしても、最悪、の一言に尽きる。
そんな事態になることは避けたい。
なんとしても成功させないと。
ソラとルナ。
イリス。
それとジルオールに協力してもらい、策を成功させるための方法を話し合う。
そして、もう一人。
「ふむふむ。なかなか面白いことを考えるね。これは、知的好奇心が刺激されるよ」
モナにも協力をお願いしていた。
ラインハルトの命令もあったのか、簡単に協力してくれたものの……うーん。
どこまで信用していいのか、ちょっと微妙だ。
「ちゃんと協力してくださいね?」
「変なことをしたら、母上にチクるのだ」
「えっ!? そ、それは勘弁して……!!!」
途端にモナが焦る。
以前、絶級魔法を叩き込まれたことがトラウマになっているのかもしれない。
ソラとルナも一緒に来てもらって正解だったようだ。
「魔族達に希望を示す、っていうところは、俺達がやらないといけないところだ。そこはいいんだけど、それをどう魔王に伝えるか? そこが、ちょっと悩みどころで」
「ふむ、ふむ……魔王を使役するという話は、どこへ?」
「使役しても、『魔王』っていう概念は残ったままだろう? それじゃあ、意味がない。使役した後の話だよ、これは」
「なるほどね」
「んー」なんてつぶやきつつ、モナは考える仕草をとる。
明後日の方向を見つつ、こめかみの辺りを指先でトントンと叩く。
ややあって、こちらに視線を戻した。
「できないこともないよ?」
「本当ですか!?」
「どうやるのだ!?」
「自分のことのように食いつきがいいね、君達姉妹は。そんなに人間大好き?」
「相手によりますね」
「嫌いな人間もいれば、好きな人間もいる」
「でも、それは精霊族も最強種も同じではありませんか?」
「まとめて一括りで考えるのは、ちょっとおかしいのだ」
「……なるほどね」
モナがニヤリと笑う。
楽しいことを聞かせてもらった、という感じだ。
「ま、話を戻すと、できないことはないよ。心に干渉するとか、わりと得意分野だからね。記憶に干渉するのと同じ要領で、ちょちょいと」
そういえばコイツ、ノキアさんの記憶をいじっていたな。
たぶん、俺の知らないところで色々と暗躍もしているのだろう。
……今は、そのことは忘れよう。
協力してくれるのなら味方だ。
「ちょっと準備は必要だけどね。まあ、なんとかなるかな?」
「ありがとう、助かるよ」
「ふっふっふ。感謝してくれよ? この稀代の天才がこの時代にいたことを!」
「褒めると調子に乗る……ルナみたいですね」
「ちょ!? 我が姉よ、こんなヤツと一緒にしないでほしいのだ!」
ごめん。
俺も今、ちょっとだけ同じことを思った。
似た者同士だなあ、って。
「で、どうするつもりだい? 想いを伝えるのは魔法でなんとかするとして、魔族達に希望を示すとか。人間に対する憎しみを消すとか。そんなもの、どうやっても不可能だと思うけどね」
「果てしなく難しいことはわかっているつもりだよ。それでも、やる前から諦めるわけにはいかない」
ラインハルトやジルオールを前に、あそこまで言ってみせたんだ。
簡単に諦めるわけにはいかない。
最後の最後まであがいて……
みっともない姿を見せたとしても、抗い続けてみせる。
「具体的に言うと?」
「……ちょっとした案はある」
「へえ?」
「それは、本当なんですか? レイン」
「我らも初めて聞いたのだ」
「ごめん。まだ考えをまとめているところだから、うまく言葉にできなくて……」
魔族は人間に絶望して、人間を憎むようになった。
なら、人間がその善性を示して、人間そのものが魔族にとっての希望となれば?
「そういう展開になれば、うまくいくと思わないか?」
「確かにそうかもしれませんが……」
「むぅ、とても難しいのだ。方法がさっぱりすぎる」
「方法は、わりと簡単なものでいいんだよ。単純に、人間が魔族を助ければいい。それだけ」
手を差し伸べる。
とても単純なことだけど、でも、時と場合によってはとても難しいことで……
そして、なによりも善性を示しやすい。
「そのための方法も、うまくいくかどうかわからないけど、一応、考えている途中で……」
と、その時。
「主さま、魔物の襲撃です!」
慌てた様子でコハネがやってきた。