作品タイトル不明
884話 憎しみを祈りに変えて
「魔王の概念を希望で満たす?」
ラインハルトが戻ってきて……
そして、改めて会議を開いて、そこで俺の考えを打ち明けた。
「魔王は、過去の魔族の憎しみが集まり、できたものだろう? そして、憎しみという概念になった」
「そうだな、それで間違いない。概念となってしまったからこそ、討伐することは不可能だ。どのような者でも概念を破壊することはできないはずだ」
「そこ。その考えが根本的に間違っていたんだよ」
「なに?」
「討伐する必要なんてないんだ。憎しみの概念になったのなら、他にも、色々なものがあるということを教えてやればいい。伝えてやればいい」
「それが……希望ということか?」
「ああ」
魔王は、憎しみという概念となった。
器に宿り、『魔王』となって、破壊衝動を撒き散らす。
ある意味で幽霊のようなものだ。
普通に考えて、こちらから手を出すことは不可能。
でも、なにかを教えたり伝えたりすることは可能ではないだろうか?
「当時の魔族達が憎しみを抱くことで、魔王が生まれた。なら、希望を抱くことで、その憎しみを打ち消すことができるんじゃないか? 幽霊にするように、まっすぐな気持ちで負の感情を浄化してやればいい」
「それは……」
そんな方法、考えたこともなかった。
そういう感じで、ラインハルトは目を大きくして驚いていた。
「もちろん、言うほど簡単なことじゃないことはわかっている。希望を伝えるにしても、その方法はしっかりと考える必要がある。そもそも、魔族達が希望を抱くのも難しい」
大半の魔族は人間を憎んでいる。
ジルオール達ですら、戦争を好まないだけで、人間のことは嫌っている。
それに、魔王が覚醒したことで、魔族は連鎖的に憎しみに飲まれていくという。
結界がなければ、ジルオール達も飲み込まれているはず。
そんな中、希望を抱くなんて無理な話だ。
不可能。
ありえない。
でも……
「アニキ? どうしたっすか、自分を見て」
「ちょっとね」
ライハがいる。
ライハは魔族でありながら、人間を憎んでいない。
俺は、わりと好いてもらっている方だと思う。
それに、魔王の覚醒により、憎しみに飲み込まれていない。
たぶん、魔王が覚醒することで、心の中にある憎しみが増幅されてしまうのだろう。
それが魔族達の暴走の原因だ。
でも、ライハはまるで暴走していない。
人間に対する憎しみが欠片もないのだろう。
彼女は希望の象徴のようなものだ。
不可能ではなくて。
とても難しいだけで。
やってやれないことはない、と証明してくれている。
「……お前には伝えておこう。前にも言ったかもしれないが、魔王を滅ぼす方法はある」
「え?」
ラインハルトはこちらをまっすぐに見て言う。
「もちろん、器の方ではなくて概念の方だ。破壊することは可能だ。それなりの犠牲は必要となるがな」
「それは……」
「人間の魂を使う」
ラインハルト曰く……
魂もまた、不確定のもの。
概念と同じで明確な形はなくて、そこに存在するかしないか、あやふやである。
同質とまではいかないけれど、とてもよく似てる。
だからこそ通じる。
魔王が憎む人間の魂を捧げる。
そうして貫くことで、魔王という概念を打ち消すことはできる、とのこと。
ある意味で、俺が唱える方法と同じだ。
俺は希望で。
ラインハルトは生贄で魔王を鎮める。
「数千の魂か、あるいは数万か。数十万かもしれないが……とにかく、人間の魂を刃とすることで、魔王という概念を相殺することは可能だろう」
「もしかして、そのために人間を滅ぼすと?」
「理由の一部ではある」
「……」
とてもじゃないけれど許容できない。
許容できないけれど……
以前、とある貴族が語ったことを思い出した。
百を助けるためならば、迷うことなく一を犠牲にする。
今回、ラインハルトが語っているのはそういうことなのだろう。
人間の半分を犠牲にしたとしても、残り半分は生き延びることができる。
魔王という脅威を完全に打ち消すことができる。
「人間が撒いた種だ。自身にツケを払わせるのが筋だろう?」
「そうかもしれないけど……でも、俺は認められないよ。それしか方法がないなんて、認めたくない」
他人を犠牲にして勝ち取った平和に、どんな意味がある?
それを誇りとするのか?
子供に……後世に語り継ぐことができるのか?
「どうやら俺達は、ここでも相容れないようだな」
「それは……」
「どちらの方法でやるべきか、力で示してみるか?」
そう言うと、ラインハルトは鋭い視線をこちらに向けた。