作品タイトル不明
883話 概念を消す方法
翌朝。
たまたま一緒したニーナとティナと散歩をする。
「おひさま、ぽかぽか」
「せやなー。気持ちええなー」
ニーナの頭の上で、人形バージョンのティナがにっこりと笑う。
二人共、ご機嫌だ。
鼻歌を歌いつつ散歩をする。
「グルンヒルドって、人間の街に比べると自然が多いよな。なんか、空気も澄んでいるような気がする」
「人間と魔族の違いなんかな?」
「動物さんも……たくさん」
穏やかな街だ。
ここが魔族の街なんて、昔の俺が聞いたら驚くだろう。
でも、今は納得だ。
魔族も澄んだ心を持っている。
人間となにも変わらない。
この事件を乗り越えることができれば、いつか、手を取り合うことが……
「ん?」
今、なにか思いつきそうな?
「ねえ、レイン」
「え? あ、うん。どうしたんだ、ニーナ」
「楽しいこと、続けばいいね」
「……そうだな」
ホライズンにいた頃が懐かしい。
みんなと一緒に家で過ごして。
外に出て、街の人と一緒にごはんを食べて。
時に依頼をこなして、他の冒険者と共闘して。
あそこで過ごした時間は、とても楽しくて賑やかで、満ち足りていた。
あんな時間がずっと続けば、なんて思う。
みんながそんな気持ちを抱けば……
小さないさかいは消えないかもしれない。
でも、戦争なんてくだらないものはなくなるはずだ。
「そういう平和な世界なら、うち、成仏してしまうかもなー」
「ダメ……いなくなったら、ダメ」
「あはは、大丈夫や。うちは、ずっとニーナの隣におるで」
「うん」
二人のやりとりに引っかかるものを覚えた。
「レインの旦那?」
「ちょっと待ってくれ、今……」
考える。
考える。
考える。
「……あ」
そして、答えに辿り着いた。
「あのさ、ティナ」
「なんや?」
「魔王っていうのは、憎しみが概念になったものなんだよな? で、それが魔王の器となる者に取り憑いている」
「せやなー。うちみたいな幽霊って考えた方がええかもな」
そうだ。
だから、魔王を倒すことはできない。
倒したとしても、概念を消すことはできない。
やがて復活して、次の魔王が生まれてしまう。
なぜ、復活するのか?
それは憎しみが残っているからだ。
解消されていないからだ。
とんでもなく酷い仕打ちを受けて。
気の遠くなるほどの時間をかけて、憎しみが積み重ねられてきて。
それが消えるなんてこと、普通はありえない。
概念と化した憎しみは永遠に残る。
「……でも、消えるとしたら?」
ものすごく良い例が身近にいた。
そう……ティナだ。
ティナは酷い仕打ちを受けて死んでしまい、幽霊になった。
たぶん、当初は恨みを強く持っていただろう。
地縛霊というだけではなくて、悪霊になっていたかもしれない。
でも、今はどうだ?
ニーナを想う優しいお姉さんという感じで、憎しみなんて欠片も感じない。
「あのさ、ティナ」
「なんや? もしかして、なんか思いついたん?」
「魔王が憎しみの概念だとしたら……それって、ある意味で幽霊のようなものだろう? 憎しみじゃなくて、幸せや笑顔で満たすことができたとしたら、どうだろう?」
「それは……成仏するん、かな? でも、相手は概念やで? 自我なんて、あるかどうか……」
「憎しみっていうのも、一つの感情だろう? それしか知らないだけで、他を知れば、あるいは……」
「そうかもしれへんけど、いったい、どうやって……」
「そのための方法は……ある」