作品タイトル不明
880話 召喚
西大陸……というか、ジルオールのところには、魔力タンクという特殊な魔導具があるらしい。
名前の通り、魔力を貯蔵することができるという。
任意のタイミングで引き出して、使用することができるという優れものだ。
カシオンの案も、ここから来ているのだろう。
ただ、今回は俺は使わない。
使うのはイリスだ。
「……」
イリスは全ての翼を広げて、目を閉じて深く集中する。
そんな彼女には、魔力タンクから伸びたケーブルが繋がれていた。
今まさに、大量の魔力を消費しているのだ。
「「「……」」」
深く集中するイリスを俺達は見守り……
同時に、成功した時に備えて、いつでも動けるように警戒する。
いったい、なにをしようとしているのか?
それは……
「彼方より来たれ」
一言、イリスが呟いた。
足元に巨大な魔法陣が展開される。
それはふわりと浮かび上がり、幾重にも分かれて、立体魔法陣となる。
複雑で精巧で、そして、とても綺麗な魔法陣だ。
もう一つ、魔法陣が展開された。
イリスの前方。
こちらは一層の単純な魔法陣だ。
光の粒子が集まり、やがて、それは人の形となっていく。
そうしてイリスが召喚したものは……
「へぁ!?」
モナだった。
ちょうど食事の最中だったらしく、果物を口に運ぶ姿のまま、固まっている。
なにが起きた?
どういうこと?
とても混乱している様子で、巨峰を口に運ぶ途中のまま、ぽかーんとしていた。
「さあ、カナデさん」
「うん……確保ーっ!!!」
「え? え? えええええぇ!!!?」
――――――――――
イリスの使う魔法は、召喚魔法だ。
無機物に限らず、有機物も召喚することができる。
しかも、異世界からも可能だ。
ならば、この世界にいるモナを召喚することも可能ではないか?
ただし、相手は最強種。
その上、とんでもない力を有している。
通常時は、まず不可能。
カシオン達から魔力を借りて。
最大限の集中と、たくさんの時間をかけて。
それで、ようやく成功率が1割といったところ。
賭けのようなものだけど……
イリスは、絶対に成功させる自信があったらしい。
なんていうか、俺に良いところを見せたい、と。
その気持ちは嬉しいけど、どう反応していいやら。
だけど、あまり無理はしないでほしい。
とにかく……
「確保っす!」
「うぅ……」
強靭なロープでぐるぐる巻きにされて、ミノムシみたいになったモナの姿が。
足元に魔法陣も設置しているため、魔法で逃げることも叶わない。
体を自由自在に変形できるけれど……
それも封印するため、きっちりと縛り上げておいた。
「というか……ちょっとかわいそうになってきたな」
「いじめ、だめ」
「レイン、縛るの好き? ボクも縛る?」
「いやいやいや」
なんか妙な誤解が!?
「あのさー」
モナがジト目で問いかけてきた。
「ボク、のんびりしているところだったんだけど、いきなり、なに? ボクが美しく綺麗でたまらないくらい欲情してしまうからって、無理矢理はよくないぜ?」
「ふざけたことを言うと」
「燃やすわよ」
「ア、ハイ。スミマセン」
カナデとタニアが至近距離で睨みつけて、モナはおとなしくなった。
二人の本気を悟ったのだろう。
「突然、こんなことをしてすまない。その、信じてもらえないけど、敵対するつもりはないんだ?」
「ラインハルトに、宣戦布告した、って聞いてるけど?」
「まあ、それに近いことはしたけど……まだ、やりあうつもりはないよ。それよりも、今は他にやらないといけないことがある」
「魔王?」
やはりというか、モナも魔王が覚醒したことに気づいているようだ。
「ま、好きにしたら? ボクもラインハルトも、干渉するつもりはないよ。高みの見物ってやつさ」
「そのことなんだけど、干渉してほしい」
「うん?」
「ラインハルトに協力してほしいんだ」
本気? というような顔をして、モナは黙る。
それに対して、俺はしっかりと頷いてみせた。
「彼と話がしたい。ただ、場所がわからないから……」
「こうして、強引に召喚した、っていうわけね」
「そういうことだ。悪いとは思うけど、こちらも手段を選んでいる場合じゃなくて」
「ふーん……そういう強引なところは、ま、嫌いじゃないけどね。でも、素直に協力すると思う?」
「ふふん、そう言っていられるのもそこまでなのだ。お主は、ほどなくして、自主的に協力をするようになるだろう」
「は? なんで?」
「協力をしないのなら、姉の料理を食べさせる」
「えっと……意味がわからないんだけど?」
意味のわかる俺達は、揃って引いていた。
唯一、ソラだけは、はて? という感じで小首を傾げている。
「さあ、素直になるのなら今のうちだぞ」
「いや、えっと……料理で口を割るとか、本気で意味わからないんだけど?」
「仕方ない……では、食べるがよい!」
「むぐっ」
ルナがモナの口にスプーンを突っ込んで……
……ややあって、モナは泣きながら協力を誓ったという。