作品タイトル不明
873話 拡散する憎悪
砦を出て、カナデ達と合流。
襲い来る魔族達を振り切り、あるいは撃退して……
その場を離脱。
一気に駆け抜けて、グルンヒルドまで撤退した。
「これは……?」
グルンヒルドは青い光に包まれていた。
街の四方に設置された、塔のような建築物。
そこから光の壁が形成されて、街全体を覆っている。
軽く触れてみると、特になにもない。
スッと透き通るだけで、痛みも抵抗感もなにもない。
「なんだろう、これ……」
「ふむ? どうやら、結界のようなのだ」
「詳細は調べてみないとわかりませんが、なにか、遮断するタイプのものですね。少なくとも、ソラ達に悪影響はないかと」
さすが精霊族。
ソラとルナは、少し見ただけで結界の特性を見抜いていた。
「コハネは、なにか知らないか?」
「いえ……申しわけありません。初めて見るものです」
「そっか」
「ただ、推測はできますが……こちらにつきましては、お話を聞いた方が早いかと」
そう言って、コハネは視線を横に移動させた。
その先に、ジルオールとカシオン。
それと、彼女達が連れる魔族達がいた。
「よかった、無事でしたか」
「そちらも」
「……リースは?」
「一応、無力化しました。ただ……」
あの様子だとしたら、モニカと一緒に、もう……
止めるべきだったのかもしれない。
でも、その言葉は持ち合わせていなくて……
それと、二人の決意は固く、それを揺るがすことはできず……
「……もう、これ以上は」
「そうですか……仕方ないことですが、しかし……いえ、なんでもありません。レインさん達は、最善のことをしてくれました。ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことじゃないですよ、本当に」
俺は、俺のやりたいことのためにリースとモニカを踏みつけた。
願いの奪い合い。
それに勝利したことを喜ぶことは、今は、とてもできそうにない。
「それより、これは……?」
「……魔王様が覚醒しました」
ジルオールの口から聞かされると、改めて危機感を覚えた。
あれは勘違いではなくて。
本当に起きたことだったんだな、って。
「魔王様について、どれくらい知っていますか?」
「ある程度のことは」
「魔王様が代々続くものではなくて、憎しみという概念ということも?」
「はい」
「なら、話は早いです」
ジルオール曰く……
魔王がその座を継いだ時、すぐに目覚めないのは体と心と魂が馴染んでいないから。
時間をかけて馴染ませるか。
あるいは、エネルギーを得て、体の支配権を上書きする。
そうして覚醒した後、周囲にも影響が及ぶ。
憎しみの塊。
決して破壊することは叶わず、せいぜいが封印。
そんなものが出現したら、どうなるか?
周囲も憎しみに飲まれていく。
魔族は、全て、魔王の眷属のようなものだ。
一番影響を受けやすい。
「魔王様の憎しみが伝わり、心も魂も染まっていく……今、そのようなことが起きているのです」
「そんなことが……それじゃあ、穏健派の人達も、人間を憎むように?」
「それだけではありません。強硬派も穏健派も、もう関係ありません。全ての魔族が憎しみに囚われて、破壊衝動に駆られ、人間を滅ぼすために動くでしょう」
最悪だ。
過去の戦争で、魔族は一丸となって攻めてきたという記述があるのだけど……
裏に、そういう仕組みがあったのか。
「最悪の事態に備えて、自分を保てるように結界を構築していたのですが……うまく機能しているようでなによりです。テストもしていなかったので、危ないところでした」
「……この先、どうなると思いますか?」
その答えはわかっていた。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「私達の負けです……魔族と人間の戦争が始まるでしょう」