作品タイトル不明
868話 すでに終えて、そして……
「……」
モニカは無言で俺の手を見た。
未知のものを見るかのように。
不思議なものを見るかのように。
ややあって、苦笑する。
「本当に、もう……レインさんは、たらしですね」
「えっ。い、いきなり、なんだ?」
「そして自覚がない。困った方ですね」
よくわからないのだけど……
でも、さきほどと比べてモニカの雰囲気は柔らかい。
うまくいったのだろうか……?
「モニカ、君は……」
「ありがとうございます。このような私のことを気にかけていただいて……ですが」
モニカは優しく笑う。
優しく笑いつつ……
しかし、優しくない言葉を放つ。
「すでに、終わりなのですよ」
「……え?」
「この戦い。戦う前に、すでに決着はついていたのですよ」
「なにを……」
「実を言うと、私達は、先の王都の事件でアリオスさまの魂を手に入れました。彼に力を与える代わりに、死後、その魂を捧げてもらう。そういう契約でしたので」
「それは……」
知っている。
そういう話をアリオスから聞いた。
……いや、待て。
だとしたら、アリオスの魂は、今、どこにある?
「他にも、色々と魂を集めていました。そうそう、レインさん達はゼクシードを倒しましたよね? 実は、彼の魂も集めています。それと、アルテラさまの魂も」
「お前、それは……」
「そして、それらは今、どこにあると思いますか? もちろん、私達の手元にはありません」
「まさか……!?」
明後日の方向を見る。
その視線の先には、先日訪れた魔王城があるはずだ。
「ふふ、正解です」
「モニカ、お前は……」
「魔族を率いる者を決める戦い……そんなもの、実はどうでもいいのですよ。私達の目的は、最初からただ一つ……魔王様の覚醒」
「……っ……」
「私達が……この戦い、そのものが陽動なのですよ。全ては、魔王様が覚醒するまでの時間を稼ぐため。必要な魂は揃いました。後は、時間だけ……そして、その時間も十分に稼ぐことができたでしょう」
「モニカ、そこまでして……」
見事にしてやられた。
見誤ったのは、モニカ達までもが自分達を駒として使っていたことだ。
生きることに執着していない。
それよりも先に願っていることは……
「そこまで……憎いのか?」
「もちろんです」
モニカは……
微笑みつつ、そう答えた。
「人間なんて、こんな残酷な世界なんて……滅んでしまえばいいのに」
モニカが抱えている闇が凝縮されたかのような言葉だった。
その言葉に込められた負の感情に、彼女にかける言葉が見つからない。
これほどまでに苦しんでいたのか。
これほどまでに憎むようになってしまったのか。
拳を強く握る。
モニカをここまで追い込んだのは人間だ。
愚かな行為が彼女の心を徹底的に破壊して……
生への渇望を全て奪っていった。
本当に……どうしようもない。
それでも。
「俺は、諦めたくないんだ」
「ふふ。そういうところは、本当にらしいですね……」
「なら……!」
「ダメですよ、協力はしません。私はもう、願いを叶えたのですから」
モニカは微笑み、天井を見上げた。
その先にある空を見ているのだろう。
彼女の瞳には、空はどんな風に映っているだろう?
青い空か。
それとも、今にも雨が降り出しそうな灰色の……
「っ!?」
瞬間、大地が揺れた。
地震?
いや……これは違う。
巨大な爆発が地表で起きたかのようで、振動と揺れが直接的な感じで伝わってきた。
そのあまりの衝撃に、誰もが驚き、戦いの手を止めていた。
俺は急いで窓辺に駆け寄り、外を見る。
「あれは……」
魔王城の方角。
赤黒い光が立ち上がっていた。