作品タイトル不明
867話 それでも、まだ
ゴォッ!!!
世界が揺れたかのような、強大な衝撃が広がった。
発信源を見ると、コハネがとんでもない攻撃を繰り出していた。
数ある武装を一つにまとめて、さらに巨大な武装を作り出して……
そこから放たれる光。
周囲の魔族をまとめて。
砦の半分を消し飛ばして。
そして、リースを飲み込む。
「と、とんでもないな……」
コハネ、覚醒はしていないよな……?
それであれだけの威力の攻撃を繰り出せるなんて……
さすが、最古の最強種だけはある。
って、こんな言い方は女の子に失礼か。
「リースさま!?」
「動くな」
モニカに再び刃を突きつける。
リースを心配する気持ちはわからないでもないけど……
ここで自由を与えるわけにはいかない。
モニカはこちらを鋭く睨みつけてきた。
「……さぞ、気分が良いでしょうね」
「え」
「悪を倒して、正義を貫く。英雄と呼ばれ、もてはやされる。レインさんの人生は、とても華やかなものになるでしょう。でも、私は……なにもない。この手に、なにも残されていない。全て失われました……」
「俺は、そんな大層なものじゃないし、そんなものになるつもりはないよ」
やりたいことをしているだけ。
本当にそれだけなんだ。
泣いているよりも、笑っている方が好きだ。
それは俺に限定されなくて、他の人もそう。
誰かが泣いているのなら、笑ってほしいと思う。
一緒に笑顔になって、楽しい話をしたいと思う。
おいしいごはんを食べたいと思う。
ただ、それだけ。
「だから、俺は、俺のやりたいようにしているだけだ」
「……そういう人を、英雄、って言うのですよ?」
「呼ばれ方なんてどうでもいいよ。それよりも、なにをするかが大事だから。なにを成し遂げたかが大事だから」
「……」
「それで……俺は、モニカにも笑っていてほしい」
「え」
仮に、モニカを捕らえて国に連れ帰ったとして……
たぶん、極刑は免れないだろう。
それだけの罪を彼女は犯してきた。
それでも。
モニカは、いつも泣いているように見えた。
心の中で涙を流しているように見えた。
迷子の子供のように。
「だから、もうやめないか? モニカの復讐を否定することは、俺にはできないし……というか、誰にもできないと思う。正しい怒りだよ」
「なら、邪魔をしないでくれませんか?」
「それはできない」
俺が求めること。
モニカが求めること。
それらは食い違い、衝突している。
共存は無理で、どちらかを優先させるしかない。
「あなたを優先して、私に復讐を諦めろと?」
「そうだ」
「ひどく残酷なことを簡単に仰るのですね……復讐を止めたとしたら、私は、なにも残らないというのに。それだけのために、今まで生きてきたのですよ……あの時の……あの時の炎と血を、心から洗い流すためだけにっ!!!」
「それでも」
止めてほしい。
「俺も似たような経験があるから……ちょっとだけど、モニカの気持ちはわかるつもりだ」
「なら……!」
「でもさ、違うだろう?」
「……なにがですか?」
「なにもないなんて、なにも残らないなんて……それは、違うじゃないか。モニカには、リースがいるだろう?」
「……っ……」
モニカは目を大きくした。
「俺がみんなと出会えたように、モニカはリースと出会うことができた。仲間というか……家族がいるだろう?」
「そ、それは……」
「理不尽に家族を失った。それは悲しいことで、許せることじゃないと思うけど……でも、だからといって、今の家族を見失わないでほしい。そういうのは……傍から見ていると、寂しくて辛いよ」
「……」
当事者じゃないから、こんなにも簡単に言えるのだろう。
軽いのだろう。
でも……
モニカには、もっと別の生き方があると思うんだ。
復讐ではなくて、穏やかに生きてもいいはずなんだ。
「ダメ……かな?」
「……レインさんは、本当に不思議な方ですね」
モニカが苦笑した。
「私は、あなたにも色々と酷いことをしたのですよ? 仲間を傷つけて、絆を引き裂くようなことをした。元の仲間である、アリオスさま達も利用した。それなのに、まだ、私のことを気にかけるのですか? 普通、怒ったり憎んだりしませんか?」
「そういう気持ちがないって言うと、嘘になるよ。腹立たしいことはある。でもさ……それだけじゃなくて、別の生き方があるんじゃないか、って思うのも事実なんだ」
「矛盾していますね」
「そんなものじゃないか? 人間なんて、その場その場で生きているようなものだろ」
感情なんてものがあるから、それに左右されて、矛盾した行動を取る。
でも、感情があるからこそ人間らしくあることができて、まっすぐに生きていくことができる。
そんなものだ。
「だから、もう一度言うよ。もうやめないか?」
そう言いつつ、モニカに手を差し出した。