軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

856話 葬り去られた勇者

モニカ・エクレール。

名前もないような小さな村の生まれ、両親と村人達の愛情をいっぱいに受けて育った。

彼女は特別な存在だ。

勇者の血が流れている。

過去、陰謀に巻き込まれて殺されたとされていた勇者の子。

しかし、実は生き延びていて……

その直系の子孫だ。

故に、その身に流れる勇者の血は誰よりも濃い。

女性だから、とか。

そんなことは関係なくて、将来は正当な勇者になることだろう。

そして、多くの人を救うだろう。

そんな事実があるものの……

でも、両親や村人達は大して気にしていない。

可愛い我が子を愛する。

当たり前のことをして、当たり前の愛情を注いでいた。

モニカの周りには笑顔があふれていた。

両親も、村人も。

そしてモニカ自身も、いつも笑っているような元気な子に育っていた。

……しかし、その笑顔は奪い取られることになる。

ある日、人間が攻めてきた。

盗賊の類ではない。

しっかりと統率が取れた部隊だった。

火が放たれて、村はあっという間に炎に包まれた。

当然、村人達は逃げようとするものの……

村は兵士に完全に包囲されていた。

剣で胸を貫かれて。

同時に、別の兵士が首を斬り。

徹底的な方法で村人の命を奪う。

一人。

また一人、命が消えていく。

幼いモニカは地下室に隠された。

だから、その惨劇を直接、その目で見ていない。

でも、悲鳴は聞こえてきた。

どれだけ耳を塞いでも。

目をぎゅっと閉じても。

悲鳴が途切れることはない。

聞こえなくなることはない。

モニカはなにもできない。

ただ、体を丸めるようにして隠れているだけ。

ひたすらにじっとして、声を出さず、息も殺して……

そうして、どれくらいの時間が経っただろうか?

気がつけば静かになっていた。

絶対にここから出てはいけない。

両親からそう言われたものの、もう限界だ。

村が、みんながどうなったのか気になる。

知りたい。

モニカは地下室から出て……

「……」

言葉を失う。

村が燃えていた。

自然豊かで、とても綺麗だったのに、今は見る影もない。

炎に包まれて。

あるいは、灰と化して。

なにもかもが消えていた。

そして、広場に積み重ねられた村人の死体。

こちらも炎に焼かれていた。

嫌な匂いが漂っている。

友達がゴミのように打ち捨てられていた。

涙の跡は炎に消えて、焼かれている。

近所の優しいおじさんおばさんもいた。

今はもう、笑顔を見ることはできない。

ピクリとも動かない。

そして……父親と母親がいた。

苦痛の表情を顔に焼きつけて。

積み重ねられた死体の一番上にある。

もう、二人が笑いかけてくれることはない。

「どう……して……?」

モニカは膝をついて、その場に崩れ落ちる。

「どうして、どうして、どうして……」

昨日まで、村は笑顔であふれていたはずなのに。

でも、たった一日でなにもかも変わってしまった。

全て……消えた。

失われた。

いや。

奪われた。

「あっ……ぁあああ……あああああぁあああああっっっ!!!!!」

――――――――――

己の村の勇者を真の勇者にしたい。

そんな浅はかな考えから行われた、分家による宗家の虐殺。

ほどなくして明るみに出ることになり、事件に関わった者は例外なく逮捕された。

同時に救出活動が行われたものの、生き残りはいないという結論に。

勇者の子孫が勇者の子孫を殺す。

己の欲のためだけに。

最低最悪の事件を表にすることはできず、誰にも知られることなく収束された。