作品タイトル不明
855話 娘の願いだから
「あら、無傷ですか。多少は……と思っていたんですけどね。やはり、あなた達は侮れない」
「ようこそ、レインさん。他のみなさんも」
リースとモニカ。
そして、彼女達に付き従う魔族が数十。
場所は、巨大な広間。
二人はここを決戦の場所に選んだのだろう。
「俺達の行動は予想していたみたいだな」
「とてもわかりやすいですね。なるべく犠牲を少なくするために、少数精鋭で指揮官を叩く。まあ、ジルオールらしい手段ですね」
「……罠を見抜かれたのは、予想外ですが」
モニカが苦々しい表情で言う。
コハネのおかげだ。
もっとも、それを素直に二人に教えるつもりはないが。
「では、はじめましょうか?」
後は戦うだけ。
そう理解、認識しているのだろう。
リースから、思わず怯んでしまいそうなほどの闘気が放たれる。
モニカはすらりと剣を抜いた。
ただ……
「待ってくれ」
今更、と思われるかもしれないけど……
どうしても、戦う前にやっておきたいことがある。
「なんですか?」
「……理由を聞かせてくれないか?」
リースとモニカが、ここまでして戦う理由。
戦争に発展させようとする動機。
それを知りたいと思った。
単純に、昔から続く因果が理由ではないと思う。
それ以外のなにか……
私怨が絡んでいるような気がした。
戦いは避けられないだろう。
理由を知っても意味はないと思う。
それでも、なにも知らないまま、知ることから逃げたまま前を向いていくことはできない。
「……」
リースが軽く手を挙げると、付き従う魔族達が後ろへ下がる。
この時だけかもしれないけど、対話に応えてくれる、ということか?
「理由といっても、私はとても単純なものですね。モニカが望むから、私はそれに応える。ただ、それだけですよ」
「それじゃあ、今までのことは全部、モニカのために……?」
「ええ。彼女のことは、本当の娘のように思っているので。娘の願いを叶える。母親なら当然のことでしょう?」
リースはさらりと言う。
その言葉からは嘘は感じられない。
魔族と人間。
嘘のような話だけど、でも、親子のような関係を築いているのだろう。
って……よくよく考えると、そこまで驚くような話じゃないか。
俺達だって、ライハと絆を結んでいる。
魔族だから、って考えるのは偏見だ。
俺もまだ、色々なものに毒されたままみたいだ。
「なら……モニカの願いは?」
「知りたいですか?」
「教えてほしい。これから戦うのなら、なおさら」
「ふぅ……レインさんは、本当に」
モニカは苦笑した。
とても人間味のある表情で。
どこか優しい顔で。
ああ、そうか。
もしかしたら、彼女と分かり合う未来があったのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
……もう、手遅れなのだろうけど。
「私の願いは、そうですね……簡単にまとめると、人間を滅ぼすことです」
「まるで、魔王みたいだな」
「そうですね。私と魔王は似たようなものかもしれません」
モニカは語る。
己の過去を。
願いの根源を。
隠されて……
葬り去られた歴史を語る。