作品タイトル不明
850話 和平のための戦い
「では、私はこれで。この先に向けて、色々と準備を進めていかないといけないので」
「わがままを聞いてもらってありがとうございます」
「いえ。では、また後で」
グルンヒルドへ戻り、ジルオールとカシオンと別れた。
みんなが泊まる宿に向けて、コハネと一緒に歩く。
「……」
「……」
言葉はない。
会談が決裂したこと、けっこうショックだったみたいだ。
難しい話ということは理解していた。
成功する確率が低いことも理解していた。
それでも、もしかしたら……という期待を捨てることができなかった。
「はぁ……甘いな、俺は」
「ですが、それは主様の良いところでは?」
「そうかな?」
「そうでございます。甘いかもしれませんが、それは、裏返せば優しさ。私は、そのような主様を誇りに思います」
「……ありがとう」
コハネの優しい言葉にいくらか気が楽になった。
「リースさまは、どうしてあそこまで人間を憎んでいらっしゃるのでしょうか? いえ。過去を考えれば、当然のことではあるのですが……」
「たぶん、リースだけじゃないんだろうな」
「と、いうと?」
「会談の最中、リースはずっと『私達』って言っていた」
たぶん、モニカのことも含まれているんだろう。
彼女は人間だけど、でも、人間を憎んでいる。
とても激しく。
なぜ、そんなことになっているのか?
それを知りたいと思うものの、その手段はない。
本人に聞いたところで、素直に教えてくれるかどうか。
また、知ったとして、どうすればいいか。
「……色々とままならないな」
――――――――――
魔族を率いるのにふさわしい者は誰か?
ジルオールか。
リースか。
それを決める戦いが開かれようとしていた。
戦いの時は……いや。
戦争の開始は刻々と近づいてきている。
「でも、レインとコハネが無事に帰ってきてよかったよー」
「そうね」
宿へ戻ると、笑顔のみんなに迎えられた。
また一つ、気持ちが軽くなる。
「ちょっと驚きなのだ。なにか罠を仕掛けられると思っていたのだが……」
「ルナの意見に賛成ですね。なにかしらちょっかいをかけられる可能性は高いと、ソラは考えていました」
「リースさんは、あれで、とても腹黒ですからね。その見方は正しいですわ」
「イリスがそれを言うの?」
「なんですか、リファさん」
「ひゅー」
イリスに睨まれて、リファはちょっと下手な口笛を吹いてごまかした。
「たぶん、なにかしたくても、できなかったんじゃないかな?」
「ど、どどど、どういうことでしゅか……?」
「ぼく、わかった!」
「えぇ、サクラちゃんが!?」
「卑怯なこと、ダメ! 他の連中がついてこない!」
サクラのいうシンプルな答えが正解なのだと思う。
会談で奇襲を仕掛けて、相手を制圧する。
そうやって勝利を得たとしても、己の力を証明することにはならない。
魔族は、特に力の上下関係が激しいみたいだから……
そんなことをしても従う者は少ないだろう。
逆に反発を生むかもしれない。
「サクラの言う通りっす。騙し討ちでジルオールを倒しても、所詮あいつは騙し討ちでしかダメ、っていうレッテルを貼られるっすからね。最初は良かったとしても、後々で色々なところに響いてくるはずっすよ」
さすがライハ。
魔族のことは一番詳しい。
「でも……」
ニーナが憂い顔で言う。
「これで、戦うことに……なったんだよ、ね?」
「「「……」」」
みんな、微妙な表情に。
できることなら戦いを避けたかった。
人間と魔族の間に和平を結ぶ。
そのために、さらに戦いをするなんて、矛盾もいいところだ。
「でも……やるしかないんだよな」
ジルオールは、まずは話し合いをしたいという、俺のわがままを聞いてくれた。
なら、次は俺が協力する番だ。
夢を見ることを。
理想を語ることを諦めるつもりはない。
でも、同時に現実も見ないといけない。
リースと……そしてモニカは、人間だけじゃなくて、全てを滅ぼすような勢いだった。
それだけの強い負の感情を受けた。
「やるしかないな」