作品タイトル不明
845話 とある少女の過去
少女の誕生はたくさんの人に祝福された。
父親に。
母親に。
兄弟に。
親戚に。
村の人に。
誰もが少女が産まれたことを喜んでいた。
きっと彼女は特別な存在になる。
村を代表するだけではなくて……
やがて、世界に名を響かせることになる。
それほどまでに大事な存在だった。
ただ、少女はそんなことは知らない。
また、少女の家族も、あまり未来のことは気にしていない。
ただただ、新しい我が子と出会うことができた。
それだけで十分。
未来のことはさておき、とても幸せだ。
家族は少女にたくさんの愛を注いだ。
いつも笑顔でいられるように、愛して。
一緒に遊んで、一緒に笑い。
いたずらをした時は、しっかりと叱る。
それもまた愛だ。
少女は、そんな家族が大好きだった。
いつも優しくて、たくさん自分を愛してくれて。
時々怖いけど、でも、それは自分が悪いことをしたから。
理不尽に怒られることはなくて、全て理由がある。
まっすぐに、優しく育つことができた。
そして、少女の六歳の誕生日の日。
少女は自分が特別な存在であることを知る。
自分の家に流れる血は特別なもので……
中でも、少女はその血が濃く表れているらしい。
その話を聞いた少女の感想は、
「???」
というものだった。
家族や周りの言うことがよくわからない。
選ばれた特別な存在だと言われても、ピンとこない。
理解することができない。
それは仕方ないことだ。
わずか六歳の子供に、「あなたは世界を救う勇者なのよ」なんて話をしても、理解できるわけがない。
小首を傾げられておしまいだ。
だから、少女もわからないまま。
なにをしていいか。
この先、なにをするべきなのか。
何一つ見当がつかない。
ただ……
「みんな、笑顔がいいな」
そんなことを思った。
勇者と言われても。
世界を救うと言われても。
なかなか実感が湧いてこない。
ただ、自分ががんばることで家族や村の人が笑顔になるのなら。
幸せになるのなら、がんばろうと思った。
みんなが大好きだから。
――――――――――
村が燃えていた。
生まれ育った家が。
みんなで遊んだ公園が。
思い出が詰まった村が。
炎に包まれていた。
なにもかも飲み込んで、灰に帰していく。
両親は死んだ。
友達は死んだ。
村の人は死んだ。
みんな……いなくなった。
ただ、少女は生き残っていた。
いざという時のために作られた隠し部屋で難を逃れた。
「……みんな?」
応える者はいない。
全て。
ただ一人の生き残りもおらず、死であふれかえっていた。
隠し部屋に避難する時、チラッとだけど見えた。
魔物ではなくて、同じ人間が村を襲っていた。
火を放っていた。
どうして?
どうして?
どうして?
少女の心は、悲しみよりも疑問でいっぱいになる。
現時点で、少女はもっとも濃い勇者の血を継いでいた。
しかし、それをよく思わない者が村を襲撃して、自分達が擁する勇者こそが誠に正しい者だと証明しようとした。
そんなくだらない争い。
それに巻き込まれて、村は消えた。
考えて、考えて、考えて……
少女は、ようやく残酷な真実にたどり着いて。
「うぁあああああああああああああああぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!」
怒りに叫んで。
悲しみに泣いて。
そして、雨に打たれつつ泣いた。
「……やる」
人間を守り、世界を救う存在と言われていた。
でも、現実はどうだろう?
守るべきはずの人間に、もっとも大事な人達を奪われた。
許せるか?
いや、許せるわけがない。
「……殺して……ヤル!!!」