作品タイトル不明
841話 どうしても突破しなければいけない条件
「え?」
最初、ジルオールがなにを言っているのか理解できなかった。
困惑する俺に、彼女は微笑みつつ言葉を重ねる。
「正直なところ、色々と人間に思うところはありますね。過去のこと、と割り切ることは難しい……しかし、あなたは過去ではなくて未来の話をした。その点に関しては、私も完全に同意できるところです」
「俺も、ジルオールさまに同意見だな。人間のことはむかつくが……まあ、それは俺個人の感情だからな。今いるガキや、これから生まれてくるガキや……そいつらに負債を押し付けたくはねえ」
「まだ、色々なことを話し合わないといけません。条件など、詳細を詰めていく必要があるでしょう。ただ……現時点で、穏健派の代表である私は、こう答えましょう」
ジルオールは静かに言う。
「和平を受ける方向で話を進めていきましょう」
「……」
ついつい、ぽかんとしてしまう。
もっと話は難航すると思っていた。
こじれて、最悪、戦闘に発展することも予想していた。
でも、まさか。
こんなにもスムーズに話が進むなんて。
驚きしかない。
「……ただ」
これで話は終わりではないと、ジルオールが言葉を続ける。
「和平を進めるために、どうしてもやらなくてはいけないことがあります」
こんなにおいしい、うまくいく話なんてない。
ジルオールは、特大の爆弾を投下する。
「私が魔族の頂点に立たなくてはいけません」
迷うことなく。
はっきりと、きっぱりと。
ジルオールは断言してみせた。
「それは……」
「今、魔族は二つに分かれています。争いとまではいきませんが、衝突をして……複雑な状況に置かれています。私達だけが和平に賛成しても、意味はありません。もう一方が従うことはなく、争いは終わらないでしょう」
「だから、あなたが頂点に立ち、魔族を従える必要がある?」
「はい」
再びジルオールは即答した。
話はわかる。
ただ……
「それって、あんたが偉くなりたいだけじゃないの?」
「そのためにわたくし達を利用する、ともとれますわね」
タニアとイリスが、俺が思っていたことを口にした。
ジルオールの言いたいことは理解できる。
しかし、彼女に野心がないか、それを判断する方法がない。
出会ったばかりの彼女のことがわからない。
本当に和平を望んでいるのか?
魔族の頂点に立った瞬間、戦争を仕掛けてくるのでは?
そんな疑念をすぐに払拭することはできない。
それと、もう一つ、決して見逃せない疑問がある。
「……追加で質問をいいですか?」
「どうぞ」
「魔王については、どう考えて?」
ジルオールが今の魔族を束ねる立場になったとしても。
魔王がその上に君臨するという事実は変わらない。変えられない。
魔王は憎しみという概念だ。
覚醒した場合は止める術を持たないはず。
「魔王様については、封印を施して、覚醒の時期をずらす計画を立てています」
「そんなことが可能なんですか?」
「永遠に、というわけにはいきませんが……数年単位でなら可能です。すでに、そのための魔法も完成しています」
まさか、ここまで考えていたなんて……素直に驚いた。
ジルオールは、本気で自分が頂点に立つことを考えているようだ。
「もっとも、それは根本的な解決にはならないので、その数年の間に対策を考えなければなりません。そこは、あなたのような人間や、他の最強種達に協力をしてもらえれば、と思っています」
「……なるほど」
ジルオールは、しっかりと先のことを考えている。
そのために必要な行動をすでに開始している。
考えて……
ややあって、まずはみんなを見る。
「「「……」」」
俺に任せる、という感じでみんなが頷いた。
なら、こちらも迷う必要はない。
「わかりました。あなたが魔族の頂点に立てるように、俺達も協力します」
「……よろしいのですか?」
今度はジルオールが、若干ではあるが戸惑っていた。
こんなにもスムーズに協力を得られるとは思っていなかったのだろう。
「私が頂点に立つためには、過激派と交戦することになるでしょう。そんな私をサポートするということは……」
「戦う覚悟はあります」
平和を掴むために戦う。
なんて矛盾した、ひどい答えだろう。
それでも。
武器を取らず、ただ声をあげるだけでは意味がない。
それは、自分の手を汚すことを避ける卑怯者がすることだ。
誰かに全てを任せるのではなくて。
一蓮托生となって、自分の手を汚す覚悟もする。
それが今、やるべきことだと思う。
「……わかりました。あなた達の決意と覚悟に、深い感謝を」
「これからよろしくお願いします」
ジルオールが小さな笑みと共に手を差し出してきて……
俺は、それをしっかりと握るのだった。