作品タイトル不明
839話 脳筋仲間
「えっと……?」
いきなりカシオンの雰囲気が変わり、困惑してしまう。
さきほどまでは、殺気すらまとっていたのだけど……
でも、今は欠片も感じられない。
とても穏やかな雰囲気、穏やかな表情だ。
「おし! お前ら、戦闘をやめろ。こいつらは問題ない」
「「「はっ!」」」
他の魔族達は、カシオンの合図で瞬時に戦闘を止めた。
まるで、この展開を想像していたかのような動きだ。
待ってくれ。
なにがなんだかわからない。
思わず呆然としていると、カシオンは悪意がまったくない笑顔を見せる。
「わりーな。ちと、試させてもらった」
「試す?」
「なんでここにレイン達がいるのかわからねーし、なんかまずいことを考えてるかもしれねーからな。だから、ちと殴らせてもらった」
「えっと……どうして、そこで戦うことになるんだ?」
「ん? 拳を交わすのが一番だろ。そういうのを判別するのは」
「……」
思わず言葉を失ってしまう。
いや、まあ。
世の中、拳を交わすことで色々とわかることがある、ということは否定しないけどさ。
だからといって、こんな状況で、それを本気で実行するか?
「……脳筋だにゃー」
「……脳筋ね」
カナデとタニアも呆れて、
「……お二人がそれを言うのでしょうか?」
イリスがくすくすと笑っていた。
「えっと……とりあえず、カシオンに戦う意思はない、っていうことでいいんだよな?」
「今のところはな。レイン達がなんか企んでる、ってなら別だが……ま、そんなことはないんだろ?」
「もちろんだ。魔族に危害を加えるためにやってきたわけじゃない。むしろ、その反対だ」
「ん? 反対?」
「……人間と魔族の間で和平を結びたい」
「へぇ」
カシオンが面白そうな顔をした。
「それ、本気で言ってるのか?」
「本気だ」
「……」
「……」
視線と視線がぶつかり、
「ははっ! こいつはおもしれえ。まさか、俺等以外に真剣にそんなことを考える大馬鹿野郎がいるなんてな!」
「信じてくれるのか?」
「前にも言ったことがあるだろ? 俺は、人を見る目はあるんだよ。レイン、お前は嘘をついていない。バカがつくくらいの正直者だから、すごくわかりやすいんだよ」
みんなが、よくわかる、という感じで頷いていた。
「ま、そういうことなら、ウチの大将と話をした方がいいな。街まで案内してやるよ」
「いいのか?」
「俺はお前を信じるぜ。ただ……」
一瞬ではあるが、カシオンは凄絶な表情を見せる。
「俺の信頼を裏切った場合は、覚悟しておけよ?」
――――――――――
カシオンの後をついていくこと、数時間。
魔族が暮らす街に着いた。
以前来た時となにも変わっていない。
人間の街と大して変わらず、ここで暮らす魔族達は笑顔だ。
ただ……
「なに、あれ? もしかして人間……? 最強種もいるわね」
「カシオン様が一緒だから……敵じゃないのか? いや、捕虜?」
「ママー、あれ」
「しっ、見ちゃいけません!」
珍獣扱いされていた。
前回と違い、変身の魔法は使っていないから、当然といえば当然の反応だけど……
意外なのは、思っていたほど強い敵意を感じないことだ。
戸惑いや警戒はあるものの、刺すような敵意を飛ばしてくる者はいない。
そんな俺の心を読んだ様子で、カシオンが言う。
「住民達の反応が不思議か?」
「それは……まあ。正直、もっと怖がられるか、あるいはいきなり攻撃されることも考えていた」
「に、西大陸はものすごく怖いところ、って聞いていましゅ!」
「我は、我が姉の料理の方が怖いから、これくらい問題ないのだ」
「どういう意味ですか?」
みんなはあまり緊張していないみたいだ。
いつも通りの余裕がある。
「ま、安心していいぜ。全員が全員ってわけじゃねーが、人間にそこまで強い敵意を持つヤツはいねーよ。俺等は穏健派だからな」
「……ああ、そういうことか」
争いではなくて平和を望む。
だからこそ、敵である人間が現れても落ち着いていられるのだろう。
あと、カシオンが一緒というのもあるんだろうな。
四天王の片腕らしいから、この街のナンバー2。
そんな存在が一緒だから安心していられるのだろう。
……その期待、信頼を裏切らないようにしないと。
「ついたぜ」
少し歩いたところで教会についた。
驚きだ。
魔族も信仰があったのか。
いや。
あって当然か。
魔族も最強種の一つで、そして、神様の子供だ。
母であるゼロを敬う気持ちは、当然、あるだろう。
教会の中に入ると、見覚えのある女性がいた。
二十代後半の美女。
水色の髪は足元まで伸びている。
「ようこそ、私達の街、グルンヒルドへ。私がこの街を治める……そして、四天王でもあるジルオールです」