作品タイトル不明
834話 開戦準備は進む
ナタリーさんから受け取った書類には、有力な冒険者が王都に集められている、という情報が載せられていた。
それだけじゃない。
武器職人。
食料や資材を扱う商人。
運送屋。
……などなど、他にもたくさんの人々が招集されているようだ。
一度に大量に、というわけではないから、まだ大きな混乱は起きていない。
「その資料がどうかしましたか?」
「あ、いや……なんでもないよ」
ナタリーさんも、開戦の準備が進められていることに気づいていないみたいだ。
まあ……それはそうか。
魔族と本格的な戦争をするとなれば、人々の間に大きな動揺が広がる。
下手をしたら混乱で事件が起きるかもしれない。
それを避けるために、まだ情報統制がされているのだろう。
今後、ゆっくりと、段階的に情報が開示されていき……
最後に宣戦布告、となるのだろう。
「シュラウドさん達は、最近、あちらこちらを行き来しているみたいですけど……忙しいんですか?」
「ああ。ちょっと」
「そうですか、残念です……お願いしたい依頼がたくさんあるんですけど」
「ごめん」
「ああ、いえ。気にしないでください。シュラウドさん達でなければ絶対にダメ、なんてことはありませんから。いてくれれば心強いと思うだけなので」
「今はちょっと、他にやらないといけないことがあって……それが落ち着いたら、またここでがんばるよ」
「はい、期待していますね」
ナタリーさんの笑顔に見送られてギルドを後にした。
あの笑顔を守りたい。
街のみんなを守りたい。
そう考えると絶対に失敗できない。
なにをしても。
どんなことをしても、絶対に成し遂げて……
「レイン」
「カナデ?」
じーっと、カナデがこちらを見つめてきた。
ちょっとだけ表情が険しい。
「あまり気負わないでね?」
「え」
心を言い当てられたみたいで、ドキッとしてしまう。
「レインがそう思っちゃうのは仕方ないよ? 私達がやることって、すごく大変なことで、失敗とかできないし」
そうだ。
失敗はできない。
「でもね」
カナデはさらに続ける。
「もうちょっと肩の力を抜こう? 気負いすぎたら、成功するものも失敗しちゃうよ」
「……俺、そんなに気負っているように見えた?」
「ものすごく」
「そこまで強く断言しなくても」
「だって、今のレイン、すごくわかりやすいんだもん」
「そう……なのか?」
「そうだよ。それに、好きな人のことだから、よくわかるよ」
不意打ちの言葉にドキッとしてしまう。
「私はいつでもどこでも、ずっとレインを見ているからね。なにか違和感があれば、すぐに気づくことができるよ」
「えっと……」
「……にゃ!?」
恥ずかしいことを言っている、と気づいたのだろう。
カナデは尻尾をぴーんと立てて、顔を赤くする。
「あっ、えっと、その……それはともかく!」
強引に話を逸らす。
ただ、このまま話を続けられても困るので、それに乗っかることにした。
「あまり気負わないで」
「それは……」
「大丈夫。なんとかなるよ、ってくらいの気持ちでいいと思うよ」
「いい……のかな?」
「いいよ。それに、私達がいるんだから。みんながレインを支えるよ。困っていたら助けるよ。笑顔にするよ。だから……」
カナデはにっこりと笑う。
「みんなで一緒に、それで、ほどほどにがんばろう?」
「あははっ」
とてもカナデらしい意見に、ついつい笑ってしまう。
でも……そうだよな。
これから成し遂げようとすることは、とても大変なことだ。
俺一人だったら心が折れていたかもしれない。
でも、違う。
みんながいる。
俺一人が気負う必要はない。
みんなでがんばればいい。
そんな当たり前のことを忘れていた。
そして、カナデが思い出させてくれた。
「ありがとう、カナデ」
「にゃふー」