作品タイトル不明
830話 コハネの役目
機翔族。
ゼロが倒れる前に、最後の力を振り絞り、特別な力を与えられた最強種。
生身の体ではなくて。
特別なシステムを体に組み込み、『機械』というものを操る存在。
その目的は、人間を導くこと。
正しい方向に進むのならば、そのまま見守り。
誤った方向へ進むのならば、手を差し伸べて道を修正する。
人間の友となり、手を引いて、正しき道を教える。
それが機翔族の役目だ。
ある意味で、ゼロの代わりと言える。
機翔族は、その体の仕組み上、不老不死に近い。
故に、その役目が与えられた。
ただ、コハネはその役目に疑問を覚えた。
人間はあまりに愚かではないか?
身勝手ではないか?
自分が助かるために平気で他者を蹴落とす。
そのような存在を助けることが己の使命なんて、それを良しとしてしまうのか?
それが本当に正しいことなのか?
己の存在意義に疑問を覚えたコハネは、直接的な介入は避けた。
あくまでも観察者に徹して、人間という存在を見極めることにした。
ある意味で、ラインハルトと同じ行動を取っていた。
彼と違い、人間を滅ぼすという結論には至っていない。
ただ、救うべきかどうかもわからず、迷い続けていた。
人間は汚い。
ただ、全てが汚れているわけではなくて、綺麗なところもある。
宝石のように輝いていて、澄んだ空のような心を持つ者もいる。
汚れていて。
でも、綺麗で。
なんて不思議な生き物なのだろう。
心を持つということは、こんなにも不安定になるのか?
ならば、心を持つ人間は不完全な生き物なのでは?
しかし、心があるからこそ人間らしいと言えるわけで……
コハネは迷う。
考えて、考えて、考えて……
しかし、答えは出ない。
自分の力と知識。
それを人間に与えてしまってもよいものか?
だから、観察を続けて……
同時に人間を試すことにした。
コハネは、人間の可能性を信じたいと思っている。
ただ、信じ切ることができない。
だから、干渉することはなく、北大陸の果てに移動した。
そこで『可能性』が現われるのを待つ。
自分以外の最強種と絆を結んだ者だけが通ることができる結界。
それを潜り抜けて来る者が現れた時は……
――――――――――
「私の持つ力、知識……その全てを預けることができるだろう……と。そう思い、今まで、ずっと可能性を待っていました。そしてその時こそ、母の願いを本当の意味で叶えることができるだろう、と」
そう語るコハネは柔らかい笑みを浮かべていた。
待ち望んだ来訪者がやってきたことを嬉しく思っているのかもしれない。
「私は人間を信じたいと思っていました。でも、信じることができず……そんな時、レインさまがやってきました。私を除く、他の最強種全てと絆を結んでいる……それは、私にとっての希望なのです。可能性なのです。人間を信じることができる……という」
「だから、あんな結界を張っていたのか」
ふと疑問に思う。
「俺はビーストテイマーなんだけど、絆っていうのは契約のことなのか?」
「いいえ。そのような形式的なものではありません。心と心を繋ぐこと。目に見えることではありませんが、しかし、確かにそこに存在するもの。レインさまは、今までの旅を経て、仲間の方々と確かな絆を紡いだのでしょう」
俺だけじゃなくて、みんなのことも褒めてもらえたみたいで……
そう言ってもらえることは嬉しい。
「レインさまは、ラインハルトと戦うために私のところへ?」
「あ、いや。違うんだ。それはそれでやらないといけないと思っているけど……それよりも先に、人間と魔族の戦争を止めたい」
「それは……?」
こちらの現状を伝えるのを忘れていた。
なので、まずは簡単に現状を説明した。
人間と魔族の戦争が再び起きようとしていること。
それを、どうにか止めようとしていること。
それに必要な知識を全て得るために、ここにやってきたこと。
「なるほど」
現状を説明すると、コハネは納得顔で頷いた。
「どうにかして魔族と和平を結びたいんだけど、そのためには、全部を知っておかないとダメだと思ったんだ。だから、コハネのところに」
「事情は理解いたしました。私の力と知識を欲しますか?」
「それは……」
「自分で言うのもなんですが、私は、最強種の中で一番の力を持っています。母に特別な力を託された存在ですからね。そして、長い歴史の流れをこの目で見てきました。その記憶と知識は、現状を打破するための武器となるでしょう。そんな私を、レインさまは扱うことができますか?」
「扱う、って……武器みたいに言うんだな」
「私は、私自身が武器のようなものですから」
コハネは苦笑する。
「レインさまが望むのなら、私はあなたの刃になりましょう。しかし、矛先を間違えるのなら、和平が叶うことはありません。泥沼の争いが続くことでしょう。確かな決意と覚悟を持っていらっしゃいますか?」
「ある。ただ……」
「ただ?」
「俺がコハネを武器として使うっていうような、そんな一方的な関係は嫌だな。手を取り合って、一緒にがんばっていきたい」
コハネが目を丸くして驚いた。
「コハネも、神様に……ゼロに託されたことを叶えたいんだよな? なら、一緒にがんばろう。一緒に歩いていこう。コハネに力を借りるだけじゃない。俺も、コハネのことを助けるよ」
「……あぁ」
コハネは優しく微笑む。
「あなたは、私が思っていた以上の方でした。ここにやってきたのがレインさまで本当によかった」