作品タイトル不明
829話 それでも前に
「以上になります」
「……」
凄絶な話だった。
ラインハルトと、神様の……ゼロの過去。
そして、現在に繋がる経緯。
その全てを聞いて、理解して……
すぐに言葉が出てこない。
神様は人間のために最後まで尽くした。
しかし、人間はその想いを裏切るようなことを続けて……
ラインハルトはそれを良しとしない。
そんなことを認めたら、神様の……愛する人の想いを汚してしまうから。
だから……全てを消すことにした。
復讐ではなくて。
世界のためでもなくて。
愛する人の約束と、その想いを守るために。
「レインさまは、この話を聞いてどうされますか?」
「俺は……」
すぐに答えは出てこない。
でも、思考を放棄することは許されない。
考えろ。
考えるんだ。
これからどうするべきか?
ラインハルトとどう向き合うか?
それを今、考えるんだ。
「……俺は」
ややあって、考えがまとまる。
「ラインハルトを止めたい」
「彼と戦うのですか?」
「必要とあれば」
ラインハルトの目的が復讐なら、俺は口を出すことはできなかったかもしれない。
仕方ない、と諦めていたかもしれない。
でも、神様との約束を一番に考えた末の行動なら……
彼を止めないといけない。
人間はどうしようもないことをした。
許されなくて、罰せられて当然のことをした。
過去の人間がやったこと、と逃げることは許されない。
今を生きる者として、過去の行いも受け止めないとダメだ。
ただ……
話を聞く限り、神様は人間のことも愛していたはずだ。
愚かなことを続けてきたけど、それでも、愛しい子供だから……と。
だからこそ、ラインハルトに想いを託したのだろう。
その約束を汚したくない。
ラインハルトの気持ちはわかる。
わかるけど……
だからといって、本当にするべきことを見失ってはいけないはずだ。
やらなくてはいけないことは、過ちを正すことであって、なにもかも消してしまうなんてことじゃない。
それに……
人間は汚れているかもしれないけど、でも、それだけじゃない。
綺麗なところもある。
今まで色々なところを旅して。
色々な人に出会い。
悪いところだけじゃなくて、良いところも見てきた。
「だから、ラインハルトの全てを肯定することはできない。あいつの言うことは理解できるけど、受け入れることはできない。それだけじゃないんだって、伝えたい」
「あなたの希望が彼の絶望を上書きできると?」
「わからないけど、なにもしないうちから諦めたくない」
「それが正義だと?」
「それもわからないさ。というか、正義とかそんな大層なこと、言えないよ」
俺は、俺の信じる道を進むだけ。
ただのわがままだ。
「わからないけど、それを理由に足を止めることはしたくない。前に進んで、進んで……やれることをやって、それからしっかりと考えたい」
「なるほど」
なにか納得した様子で、コハネは静かに頷いた。
それから微笑む。
「これで私は、ようやく自分の役目を果たすことができるかもしれません」
「役目?」
「過去の出来事を今を生きる人間に伝えること。そして……私という存在、全てを預けることができる主様を見つけて、希望を託すことです」