作品タイトル不明
828話 悲しみと怒りと約束と
「ラインハルトは……母が亡くなった時、一つの約束を交わしていました」
「それは?」
「……私の子供達をお願いします、というものでした」
ゼロは自分のことを気にすることはなく、かといって、ラインハルトを気にかけるわけでもなく。
最後の最後まで、母であろうとした。
子供達のことを気にかけていたという。
その願いを聞き届けたラインハルトは、旅を再開した。
人間と魔族のため。
最強種のため。
魔王という概念の対抗策を探すことになる。
そして……旅を始めて10年。
大きな成果を見つけることはできないが、自分に起きた変化を知ることはできた。
老化が鈍くなり、自然治癒能力も上がっている。
それはゼロの祝福だ。
直接、彼女から力を授かったラインハルトは不老不死に近い体を得ていたのだ。
ラインハルトはそれをよしとした。
これで時間を気にすることなく、全てを救う方法を探すことができる。
喜びこそすれ、悲しむことなんてない。
意気揚々と旅を続ける。
ただ……
新しい旅の中で、ラインハルトは人間達の欲と業を知る。
人間は独善的で、他種族のことを考えられず、自分達のためなら平気で他者を踏みつけることができた。
人間同士で争い、いくつかの国が消えた。
強者が弱者を踏みつけていた。
それだけではなくて、最強種に矛先を向けることもあった。
当時、一番の被害者は猫霊族だ。
人間に寄り添うように暮らしていた猫霊族だけど、しかし、その人間に迫害されてしまう。
お前達も魔族のようになるんじゃないか?
その力で人間を滅ぼすつもりだろう?
内心、笑っているのだろう?
被害妄想を超えた、バカバカしい考えだ。
でも、当時はまだ戦争の傷跡が癒えておらず、人間は疑心暗鬼になっていた。
猫霊族は人間のよき友であろうとしたものの、受け入れてもらえず、その数を大きく減らした。
そして絶滅しそうになり、そこで人間から離れることになった。
そんな話はたくさん聞いた。
その目で何度も何度も見た。
ラインハルトも、その身で人間の欲と業を体験することになった。
欲深い人間達に捕まり、その力と不老不死を解明したいと人体実験をされたことがある。
それでも。
それでもなお、ラインハルトは人間を信じた。
これが全てではない。
人間そのものが悪ではないはずだ、と。
信じられたのは、自分の子供が関係している。
そう。
ラインハルトとゼロの間には、文字通り、本当の子供がいた。
過酷な旅に付き合わせてはいけないと、信頼できる者に預けたものの……
年に数回、故郷へ戻り、子供の成長を見守っていた。
愛するゼロとの子供。
それこそが人間を信頼できる証だ。
こんなにも愛らしく優しく。
希望にあふれて、明るい笑顔を見せてくれる。
だから、信じることができる。
がんばることができる。
……でも。
ある日、希望は奪われた。
時の権力者は子供の存在を突き止めて、奪い、そして……
ラインハルトは事件に関わった者、全てを皆殺しにした。
そして、それが転換点となった。
ゼロは人間を愛していた。
我が子のように思っていた。
でも、そこまでの価値があるとは思えない。
ゼロに祝福される価値なんてない。
最愛の人に愛される資格なんてない。
あってたまるものか。
認めてたまるものか。
それを認めてしまえば、ゼロを貶めているような気がした。
彼女の純粋な想いを汚してしまうような気がした。
だから。
ラインハルトは人間を認めない。
ゼロに愛されるような存在ではない、と。
救われる価値なんてない、と。
そう判断したのだ。
そう結論を出したのだ。
故に。
「僕は……いや。俺は、全ての諸悪の根源である人間を滅ぼす。それこそが、愛する者との約束を果たすことになるはずだ」
人間の未来を託された。
なればこそ、その未来を摘む責任もあるはずだ……と。
「彼女じゃなくて、子供じゃなくて……人間の方が滅べばいいのに」