作品タイトル不明
827話 少年と神の……
「……以上が、過去に起きた出来事の一部です」
長い話が終わる。
想像を絶する、とんでもない話だった。
頭の整理がつかない。
それでも、どうにかこうにか感想を口にする。
「神様は……とても優しいんだな」
「はい。母は全てを愛していました。とても優しくて……そして、孤独でした」
「孤独?」
「ずっと一人でしたから。だから、世界に降り立ち、初めて人間と接することになり……ラインハルトに大きく惹かれたのでしょう」
ずっと一人だった。
ゼロの気持ちは俺にはわからない。
ただの想像だけど、すごく辛かったのだろうな……としか、そんな月並みの感想しか出てこない。
ラインハルトも、もしかしたら一人だったのかもしれない。
だから、彼もゼロに惹かれていたのかも。
「その後、二人は旅をしました。概念となった魔王を滅ぼす方法を見つける旅。長く険しい旅になりました。その中で、二人は互いを想うようになりました」
「人と神様の恋……か」
たぶん、だけど。
物語に出てくるような壮大な恋物語、っていうわけじゃなかったと思う。
どこにでもあるような普通の恋愛。
でも、二人にとってはこれ以上ないほど大切な想いを紡いだ物語。
ラインハルトとゼロは、そんな恋をしたんだと、そう感じた。
その理由は、コハネがとても優しい顔をしていたからだ。
二人のことを想い、心を満たしているのだろう。
だから、俺も同じような気持ちになる。
「素敵だな」
「はい、素敵でございます」
俺とコハネは微笑む。
ただ……
コハネの笑みは消えて、暗い顔に。
「結果から申し上げますと……二人の旅は、目的を達することなく終わってしまいました」
「……それは、どうして?」
「母は人間のために死にました」
世界規模の戦争の後なので、当時、世界は荒れ果てていたという。
大地は枯れて、海は濁り、空からは灰が降る。
当然、まともに作物は取れない。
獲物を狩ることもできず、肉は手に入らない。
世界中の人々が飢えた。
衛生環境も悪化して、病が流行る。
資源がないため薬を作ることはできない。
まともにものを食べることができないため、魔力も足りず、治療もできない。
悪循環ばかりが続く。
その状況を憂いたゼロは、自分にできることをしたという。
力を使い、荒廃した世界を再生する。
人々の病を癒していく。
魔族にも同じようなことをしようとしたが……
人間に味方をしたことで、ゼロは敵認定されて、手は払いのけられたらしい。
ラインハルトも復興に尽力した。
目的はひとまず置いておいて、ゼロと協力して多くの人を助けた。
ただ……
その時、ゼロはもう限界に達していた。
世界を創造して、人間を作り、最強種を生み出して……
人間と魔族の戦いに力を貸した。
彼女は力を使いすぎたのだ。
万能であっても全能ではない。
本来ならば数百年単位の休息が必要だ。
それでも。
子供を見捨てることはできないと、ゼロは力を使い続けた。
一人でも多くの涙を止めようとがんばり続けた。
そして……ある日、ついに限界を迎えて倒れてしまう。
最後は、愛するラインハルトに看取られつつ、息を引き取ったという。
「やっぱり……そういうことか」
神様はすでに死んでいた。
だから、俺達や最強種の前に姿を見せることはなかった。
「母は優しい人でした。優しすぎたのです。もう少し……ほんの少しでもいいから、自分のことを労ってくれれば、あるいは……」
コハネは悲しそうに言う。
母に等しい存在を失い、その心は、今もなお悲しみで満たされているようだった。
「……一つ、聞いてもいいか?」
「はい、なんなりと」
「ラインハルトは……それから、どうしたんだ?」