作品タイトル不明
822話 一人だけずるい
「消えた……?」
前に進む、進む。
しかし、一向に押し返されるような感触がやってくることはない。
そうこうしているうちに、みんなとそこそこの距離ができてしまった。
「あれ? レイン、どうやって前に進んだの?」
「とんでもテイマーの力でなんとかしたのかもしれないわね」
「久しぶりに聞きましたわね、それ」
「で、でも、レインしゃんはおかしいと思い、ます……あああっ、て、テイマーとして、という意味でしゅ!?」
フィーニアにまでそう思われていたのか、俺。
「ちょっとまってくれ」
たまたま前に進むことができただけかもしれない。
あるいは……
それを確かめるために、俺はさらに前へ進んだ。
抵抗はない。
壁らしきものもない。
押し戻されることなく、なにも問題なく。
ほどなくして周囲が霧に包まれてきた。
こんなに急に霧が湧くなんてことはない。
「これも、なにかしら問題が……?」
警戒するものの……
でも、なにもない。
視界が多少悪くなっただけで、やはり、問題なく前に進むことができる。
「みんなはついてきていないから……やっぱり、俺だけなのか?」
ひとまずみんなのところへ戻る。
来た道を逆に進むと、すぐにみんなと合流することができた。
「レイン! 大丈夫? なんか、途中から姿が見えなくなっちゃったけど……」
「そんなことになっていたのか……うん、俺は大丈夫だ」
「あたし達は、やっぱり先に進めないわね」
「そ、空から行こうとしましたけど、ダメでしちゃ……あぅ、噛んだ」
「この様子やと、地面もダメっぽいなー」
一見すると、なにもない。
でも、確かな壁があって押し返されてしまう。
さらに、その先にも不思議な霧があって……
「ここが結界なんだろうな」
「なら、この先に十番目の最強種がいるんでしょうか?」
「我らと同じく引きこもっているな」
「恥ずかしがり屋なのかもしれませんわね、ふふ」
まだなんとも言えない。
ここはダミーで、本命は他の場所とか……そういう可能性もある。
ただ、手がかりがあることは間違いないだろう。
ここを徹底的に調べるべきだ。
「でも、なんでアニキだけ先に進めるっすか?」
「それ、ボクも気になってた」
「レイン、ずるい!」
「ずるい、と言われても……」
みんなが言うように、なぜか俺だけ結界の影響を受けていない。
人間だから?
いや、だとしたらティナが弾かれるのはおかしいか。
そもそも、同胞である最強種も弾くというのは納得できない。
最強種を弾いて人間を受け入れるとか、普通はありえないだろう。
「いったい、どういう仕組みになっているんだ……?」
「にゃー……」
俺は手を伸ばす。
なにも起きない。
カナデが手を伸ばす。
ぽわん、という感じで押し戻されていた。
「……俺、中を調べてくるよ」
「えっ!? でも、それは……」
カナデが驚いて、みんなも驚く。
「危ない、よ?」
「せや。なにが起きるかわからんのに、レインの旦那だけに任せるわけにはいかんで」
「ボクも行く」
みんなに心配をかけてしまうことは申しわけない。
でも、ここで時間をかけるわけにはいかない。
それに……
「たぶん、大丈夫」
「大丈夫、って言われても……なんでそう言い切れるのよ?」
「悪意とか敵意とか、そういうものは感じないんだ」
結界の中を少し見てきたけど、嫌な感じはしなかった。
むしろ温かい雰囲気で、優しい気持ちになれるような……
そんな落ち着いた場所だった。
「だから、たぶん大丈夫」
「アニキがそう言うのなら……いやでも、あううう……」
「ぼく、レインを信じる!」
「「「えっ」」」
サクラが考えを変えたことで、みんなが驚いた。
「確かに、嫌な感じしない。大丈夫かも?」
「さ、サクラちゃんがそう言うのなら……だ、だだだ、大丈夫かもしれません」
「そう、ですわね……人一倍、嗅覚と勘が鋭いでしょうから」
「でも、無理はダメだからね? 絶対にダメだからね?」
「そうよ。レインはすぐに無理と無茶と無謀をするんだから」
「酷い言われようだなあ……」
苦笑した。
「わかった、無理はしない。慎重に調べて、まずいと思ったらすぐに引き返すよ」
「約束ですよ?」
「破ったら姉の料理飲ますのだ」
「ルナ? それはどういう意味ですか?」
「約束するよ」
みんなを安心させるように笑い……
そして、俺は再び結界を乗り越えていった。