作品タイトル不明
800話 絆の力
「……」
アリオスは地面に大の字になって転がっていた。
魔剣は半ばから折れていた。
その身にまとう防具もボロボロだ。
彼の前に立ち、クサナギの刃を突きつける。
「終わりだ」
「……僕は負けたのか」
「ああ、そうだ。俺の勝ちだ」
アリオスがまだ切り札を隠し持っている……ということは、さすがにないだろう。
全力を出して、ありったけを出し尽くして……
限界を超えたことで、もう喋るだけで精一杯な様子だった。
「そうか、僕は負けたのか……また負けたのか」
アリオスは悔しそうに唇を噛む。
「結局、君には一度も勝てなかったね。勇者にあるまじき行為を重ねて、魔族になって、これだけの事件を起こして……はは、それでも勝てないなんて滑稽だ」
「……アリオス……」
乾いた笑みを浮かべるアリオスを見ていたら、なんともいえない感情を抱いた。
一緒にパーティーを組んでいて。
追放されて。
その後、何度となく敵対して。
アリオスは敵だ。
その認識が変わることはない。
でも……どうしてだろう?
どうして、こんなにもどかしい気持ちになってしまうのだろう?
敵を倒した。
なら、喜べばいい。
そんな単純なことができない。
「ここまで勝てないと、いっそのこと清々しいね……全力の全力を出し尽くした後だから、なおさらそう思うのかもしれない」
そう語るアリオスは、手足の先が塵になり始めた。
ゆっくりと消滅していく。
「……レイン、一つ聞いてもいいかい?」
「なんでも」
「僕は、どうして君に勝てなかったんだい?」
「それは……」
「堕ちたとはいえ、元勇者だ。魔族になった。最高の魔剣を用意した。他者の力も借りた。今になって白状するけれど、君の真似をしたのさ。これなら君に勝てるはずだ、とね。それなのに、どうして……」
「……真似だからだろう」
「え?」
「アリオスがやるべきことは、本当の仲間を作ることだったんだよ」
アリオスがまだ勇者だった頃。
アッガス達とパーティーを組んでいたものの、打算的な関係だったと思う。
現に、勇者でなくなった後は崩壊した。
モニカとリースに協力してもらったという。
でも、やはりそれも打算的な関係だ。
そこに信頼はない。
絆はない。
「打算しかない関係なんて寂しいだけじゃないか」
「寂しい? そんなことは関係ないだろう? 現に、僕はこうして強くなれた」
「そして俺に負けた」
「……」
「アリオス、お前がするべきことは、誰かを『信じる』ことだったんだよ」
「それは……」
「力を借りただけで、心は預けられていない。結局、それは空っぽじゃないか。なにも残らない……そんな力は意味なんてないと思う」
アリオスに心を許せる相手がいれば。
100パーセントの信頼を託すことができて、無条件で背中を預けられる相手がいれば。
あるいは、この戦いの結末は違っていたのかもしれない。
「アリオス……お前は、結局のところ一人なんだよ」
「……」
「でも、俺は違う。みんながいる、仲間がいる」
みんなと紡いだ絆の力が俺を助けてくれた。
だから、アリオスに勝つことができた。
俺とアリオスの差は、その一点だ。
「……なるほど」
アリオスが苦笑した。
「君に勝つために必要なものを、僕は自分から手放していたのか。そんなものは必要ないと、切り捨てていたのか。ああ、そうか……僕はなんて愚か者なんだろう。納得したよ。そして、この身で思い知らされたよ。君の語る『絆の力』とやらを」
「……アリオス……」
「なんて顔をしているんだ。敵が消えるんだから、もっと喜んでみせたらどうだい?」
アリオスは敵だ。
敵だけど……
「喜べるわけないだろう。お前のことは許せないけど、でも……」
「やれやれ。本当に甘いヤツだな、君は。でも、それでいいのかもしれないね……そんな君だからこそ、僕は……負けた」
もう一度、アリオスが苦笑した。
その笑みは、さきほどよりも柔らかい。
「僕が間違っていたよ……すまない」
その言葉を最後に、アリオスは塵となって消えた。