作品タイトル不明
798話 どうしても譲れない
振り返るとカナデがいた。
いや、彼女だけじゃない。
他のみんなも揃っていた。
「どうしてここに……」
「大丈夫、街のことは心配しないで。魔物とか魔族とか、だいたい倒したから」
「いざっていう時、人間って強くなるわよね。最初は追い込まれていたけど、すぐに盛り返していたわ」
「もう問題はないと思い、わたくし達はレインさまを探していたのですが……あらあら。とても素敵な殿方と一緒みたいですわね」
みんなの視線がアリオスに向けられた。
「ちっ……まさか、ここまで早く計画が破綻するなんて」
「その口ぶりだと、遅かれ早かれ計画は破綻するように捉えていたのか?」
「そうだね。モニカとリースには悪いけど、彼女達の計画は失敗すると思っていたよ。もちろん、そうならないように努力はしたけど……難しいね。人間だったからこそわかる。危機を目の前にした人間は利害関係を超えて手を取り合い、協力して、目の前の敵を排除するんだ。その力は決して侮れない。モニカとリースの敗因は、それを読みきれなかったことかな」
「ずいぶんと冷静なんだな」
「僕の目的は、最初から君だけだ。それを叶えられるのなら、正直、他はどうでもいいのさ」
そこまで……か。
これほどまでに、アリオスの負の感情は大きく育っていたのか。
ある意味で俺が蒔いたようなものだ。
しっかりと決着をつけておかなかった俺の責任でもある。
だから……
「みんな」
「うんうん。すぐにその元勇者をとっちめて……」
「わがままを言って悪いんだけど、ここは俺に任せてくれないかな?」
「そうそう。レインに任せて……って、にゃんで!?」
カナデを始め、みんなが驚いた顔になる。
それもそうだ。
ここで一対一を続ける理由なんてない。
みんなで総攻撃というのは、卑怯といえば卑怯なのだけど……
でも、これは試合じゃない。
戦いだ。
情けをかける必要はない。
容赦せずに一斉攻撃を仕掛けるべきだろう。
「レイン、どうしてそんなことを言うんですか?」
「そうなのだ。妙な気を回して勝てる相手では……」
「違う、違うんだ」
やはり、これは俺のわがままになるのだろう。
それにみんなを付き合わせてしまうことが申し訳ない。
でも……
このままだと、俺は前に進むことができない。
「これは、俺とアリオスの問題なんだ」
「そんにゃの……!」
「うん、わかっているよ。俺の問題はみんなの問題って、そう言いたいんだよな? みんなは優しいから」
「わかっているなら、どうして……?」
「……俺は、アリオスにパーティーを追放された。そこから全てが始まったんだ」
あの時のことは、今でも鮮明に思い返すことができる。
アリオスにパーティーを追放されて、その後にカナデと出会って……
始まりはそこだ。
そして、アリオスの始まりもそこだ。
俺をパーティーから追放したことで、色々なものに歪みが生じた。
「ここで逃げるわけにはいかないんだ。ちゃんとアリオスと向き合わないといけないんだ。だからこそ、ここは俺に任せてほしい。この戦いは……俺の戦いだ」
他の誰にも譲ることはできない。
任せることはできない。
俺だけで、俺が決着をつけないといけないんだ。
「俺は、過去に決着をつける。アリオスも、過去に決着をつける……そうだろう? アリオス」
「……まさか、ここに来て君に理解されるなんてね」
アリオスは笑っていた。
敵意や悪意はなくて。
ただただ嬉しそうに笑っていた。
「理解してくれて嬉しいよ。本当に嬉しいよ。そう、そうなんだ。過去に決着をつける必要があるんだ。そうしなければ、僕は……僕達は前に進むことができない。進んではいけない」
「そうだな。そうしないといけない。ずっと続いてきた因縁をここで断ち切らないといけない。そのために必要な戦いなんだ、これは」
言い換えれば、意地だ。
くだらない話とも言える。
でも、時にはくだらないものが必要になる。
一番大事になることだってあると思う。
「……しゃーないな。レインの旦那がそこまで言うのなら、ウチらはなんも言えんやんか」
最初にティナがそう言った。
みんなも続く。
「気をつけて、ね?」
「レインに任せる。でも、負けたら承知しない」
「が、ががが、がんばってくらひゃい!」
「レイン、勝つ!」
そして、最後にカナデが……
「レイン」
「ああ」
「ぶちかましちゃえ!」
「ああ!」
改めてアリオスと対峙する。
「感謝するよ、レイン」
「いいさ。俺も、俺のためにやったことだ」
「じゃあ……」
「今度こそ、決着をつけよう!」