作品タイトル不明
782話 ダメですわ
「あんた達が本当にやるべきことは、力ない人を守ることだろう!? そのために剣を持っているんだろう!? それなのに、守るはずの人を戦いに巻き込んでどうするんだよ!!!」
ファーストフォームに戻したクサナギで騎士の剣を弾いて、返す刃でもう一人の騎士の足を斬る。
それから最初の騎士を蹴り飛ばした。
ただ、敵は止まらない。
多少の動揺はあるみたいだけど、戦いを止めることはなくて、剣を手に突撃を続ける。
「うー……にゃん!」
「ブラッドサイズ」
カナデが騎士を殴り、リファの血の鎌が武器を破壊する。
当たり前だけど彼女達は強い。
ただの騎士では太刀打ちできない。
でも、敵はそれをきちんと理解していた。
質で叶わないのなら数で挑む。
次から次に騎士が投入されて、物量差で攻めてくる。
「くそっ」
思わず舌打ちしてしまう。
ここを突破されてしまうと、教会の結界が破壊されてしまう。
そうなると魔物の脅威に晒されることになって……
それだけはダメだ。
今以上に状況が悪化してしまう。
たくさんの血が流れてしまう。
全力を出せば、たぶん、阻止できると思う。
手加減をせず、騎士の命を気にしない。
それは……正しいことなのだろう。
アクスが言ったように、刃を向けたのなら斬られる覚悟もしないといけない。
従わされているのだとしても、だ。
「それなら、俺は……」
「おい、レイン!」
「アクス?」
アクスは敵と刃を交わしつつ、こちらを見ないで言う。
「なんか変なこと考えてねえか?」
「え、いや……」
「ったく、めんどくさいヤツだな」
アクスの顔は見えない。
ただ、苦笑しているような気がした。
「こうする、って決めたんだろ? で、俺らもそれに乗った。やると決めた。なら、とことん突き進めよ」
「でも……!」
「俺らがサポートしてやるよ。だから、迷うな。お前はお前らしくあれよ」
「……アクス……」
「甘い甘いとか言っているけど、彼はレインのことが大好きなのよ。手伝いたくてたまらないの。だから、大丈夫。なんとかしてみせる。そう信じて?」
「……セル……」
セルも、そんな言葉をかけてくれた。
二人の想いが伝わってくるようだ。
「……ああ、わかった!」
迷いは消えた。
俺は、俺が正しいと思うことをやる。
「よっしゃ、それでこそレインだ!」
「アクスっ、油断しないで!?」
「あ?」
アクスはちらりとこちらを見て笑みを送り……
しかし、それが隙となった。
絶妙なタイミングで騎士が前に飛び出す。
その刃はアクスの胸に……
「来たれ、嘆きの氷弾」
直後、どこからともなく飛来した氷の飛礫が騎士を吹き飛ばした。
派手に飛んで木箱の上に落ちる。
骨の一本や二本は折れているかもしれないが、うめき声をあげているところを見ると致命傷ではないだろう。
「あらあら、とても危ないところでしたわね」
「てめえは!?」
「イリス!」
無数の翼を広げて、イリスが宙に浮いていた。
「来たれ、嘆きの氷弾」
その手を騎士達に向けて、再び魔法を解き放つ。
氷の嵐が吹き荒れた。
それは騎士を傷つけるものではない。
その体を凍らせて動きを封じていく。
成果を確認したイリスは満足そうに微笑み、静かに地面に着地した。
それからアクスに問いかける。
「大丈夫ですか?」
「くそっ、まさかてめえに助けられるとは……」
「あら、ご不満ですの?」
「当たり前だろうが! 殺そうと思っていたヤツに助けられるとか、色々な意味で最悪だろうが」
「なるほど」
イリスがにっこりと笑う。
あ、これはまずい。
「確かに、かつてわたくしとあなたは敵対していました。そして、そのような相手に命を救われた。なるほど、なるほど。これはとんでもない『恥』ですわね」
「うぐ」
「よかったら、今後の参考に教えていただけませんか? 今、どのような気持ちなのかを。わたくしに助けられたこと、どのように考えているのかを。もしかして、助けられなければよかった、とか子供じみた考えを?」
「がはっ」
「まあ、わたくしに助けられた事実は覆りませんけどね。とことん恩に着せてさしあげますわ。わたくしはあなたの命の恩人。ふふ、良かったですわね、助かって」
「ぐはぁっ!?」
精神的なダメージを受けて、アクスが倒れてしまう。
やってしまった……
ああいう風に笑うイリスは、とことん意地悪になる。
小悪魔モードに移行する。
徹底的にからかわれたアクスは撃沈してしまったみたいだ。
「まあ、それはそうと……助かったよ、イリス。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして。わたくしだけですが、援軍にまいりましたわ」
「他のみんなは? シフォンは?」
「各地で奮戦していますわ。もちろん、手加減はしています。ただ、新しい勇者についてはよくわかりません」
「なるほど……」
至るところで武装蜂起が起きているみたいだ。
みんなはその対処に当たり……
しかし、シフォンの居場所はわからない。
彼女は今、どこにいるのだろう?
どちらにしても……
「さあ、レインさま。敵はまだ残っています。一緒に踊りましょう?」
「ああ!」
まだまだ、がんばることができる。