軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74話 英雄

嵐のような一夜が過ぎて……

朝になり、街に平穏が訪れた。

突如、街を襲った災厄。

たくさんの人が傷ついた。

たくさんの人が家をなくした。

それでも、人々の心は折れていない。

いなくなった人のことを悲しみながらも、前に進む。

立ち止まることは、誰も望んでいないから。

そして……

三日後。

まだ災厄の爪痕は残っているものの、ようやく、街は落ち着きを取り戻した。

そのタイミングで騎士団に呼ばれ、ホライズン支部に向かう。

「こんにちは」

「こんにちにゃー!」

「おおっ、よく来てくれたな、二人共」

支部に足を踏み入れると、ステラが笑顔で迎えてくれた。

他の騎士達も笑顔を向けて、歓迎してくれる。

いや?

笑顔というよりは……憧れの目?

なんだか、目がキラキラと輝いている。

「な、なんだ……? 俺、何かしたか?」

「しただろう? 領主の悪行を暴いた立役者であり、突如、街に現れた魔族を討伐した。英雄と呼ぶにふさわしい。皆、レインに憧れているのだ」

「そんなことを言われると、むずがゆいんだが……」

「ここにいる者は、皆、現場にいたからな。レインの活躍を目にしていた。憧れるな、という方が難しいだろう」

「おー、レイン、人気者?」

「カナデまで」

「レインが人気あると、私もうれしいな。にゃは♪」

「やめてくれ。英雄とか、そういう柄じゃないんだから」

俺は、ただのビーストテイマーだ。

英雄なんてものじゃない。

それに、領主の悪行を暴いたのは騎士団の力によるものが大きい。

魔族を撃退したのは、仲間達がいたからこそだ。

俺一人だったら、何もできず、右往左往するだけだっただろう。

そんなことを伝えるが、

「時に、過ぎた謙遜は嫌味になるぞ?」

「レインは、もっともっと褒められるべきだと思うなー」

二人は笑って俺の訴えを聞き流した。

ホントに、みんながいたからこその結果なのだけど……

これ以上、この二人に言っても無駄っぽいので、ひとまず次の話に移ることにした。

「ところで、今日はどうしたんだ?」

「うむ。領主達の処遇や、街の今後について、ある程度方針が固まったので伝えておこうと思ってな。気になるだろう?」

「それは確かに」

「その話をしようと思ったのだが……レイン達は、二人だけなのか?」

「他のみんなは色々とあって。今日は、カナデだけだ」

タニアは、ニーナの面倒を見てもらっている。

最強種とはいえ、ニーナはまだ子供。

しかも、領主に捕まっていたこともあり、経過観察が必要だ。

なので、その辺りのことをタニアに頼んだ。

ソラとルナは、魔法を使い、街の復興の手助けをしている。

街中で魔族と立ち回ったことで、ソラとルナが精霊族の羽を広げながら戦うところを見ていた人がいたらしい。

二人が精霊族だということがバレてしまったけれど……

驚かれたくらいで、忌避されることはなく、逆に街を救ってもらったと感謝された。

二人の人柄もあり、街の人々と仲良くなり……

街の人々のために何かしたいと言い出して、魔法で復興の手助けをしているというわけだ。

「さて、どこから話したものか……そうだな。まずは私達、騎士団についてだろうな。領主と繋がっていた騎士は、全員、逮捕した。改めて調査すると、腐敗の証拠がたくさん出てきてな。王都の本部の指示もあり、隊長を始め、腐敗していた騎士は全て解任、捕縛された。後々で、正式な処分、裁きを受けることになるだろう。そして……次に、領主達の処遇について話すとするか」

「頼むよ」

「まず、領主についてだが……当たり前であるが、投獄されることになった。あれから、改めて館を捜査してみると、不正の証拠が山程出てきてな。それに加えて、私達騎士団の監査を拒み、実力行使に出た。もはや、言い逃れはできない。後に王都に移送されて、裁判にかけられるだろう」

「かくして、悪は滅びたのにゃ!」

別に死んだわけじゃないからな?

「あのいやーな男……そうそう、領主の息子はどうなったの?」

「エドガーは、今は治癒院で治療を受けている」

カナデの質問に、ステラは頭が痛いというような顔をした。

悪運が強いというべきか。

エドガーは、魔族と一緒に共倒れすることなく、生き残った。

ただ、魔族化した反動のせいか、体はぼろぼろで、一人ではまともに歩けないほどだった。

治療を受けているという話だけど、完治は難しいらしい。

とはいえ、同情の余地なんて欠片もない。

全て自業自得だ。

正直なところ、ざまあみろ、という感想しか思い浮かばない。

「ざまあみろ、だね!」

カナデも同じようなことを思っていたらしい。

直接的な被害は受けていないものの、囚われていたニーナを見て、憤るものがあったようだ。

「カナデは優しいな」

「にゃ? どうしたの、突然」

「誰かのために怒ることができるのは、カナデの良いところだな……って、改めて思ったんだよ」

「んー……よくわからないけど、褒められちゃった♪ えへへっ」

カナデがうれしそうに、喉をゴロゴロと鳴らした。

……どうやって音を出しているんだろう?

どうでもいいことだけど、すごく気になった。

「エドガーについては、魔族化の件もある。話ができるようになり次第、そちらの調査も進めるつもりだ。最も、本人は何も覚えていない様子だったから、難しいかもしれないが……」

「なるほど。それで……領主達のことは大体理解したけど、この街についてはどうなるんだ?」

領主とその息子が揃って逮捕されてるという、とんでもない事件に発展した。

これから、この街はどうなってしまうのか?

誰もが気になるところだろう。

「すぐにというわけにはいかないが……王都の方で、新しい領主が任命されることになるだろう。それから、実際に任を拝命するまでは、さらに時間がかかるだろうな。その間は、他の街の領主が兼任するらしいが……しばらくは、混乱が続くかもしれない」

「そうか……」

これから先、ホライズンの街は大きな混乱に襲われるかもしれない。

俺が、その引き金を引いた。

そう考えると、これで正しかったのかどうか、よくわからなくなってしまう。

「レイン、レイン」

「うん?」

「えいやっ」

ぺこん、とカナデに軽く叩かれた。

「な、なんだ?」

「今、変なこと考えてたでしょ? これでよかったのかな、とか、そんな感じの」

なんでわかるんだ?

思わず、驚きに目を丸くしてしまうと、カナデが得意げに胸を張る。

「ふふーん、レインのことならなんでもわかるんだよ。私、レインの使い魔だからね♪」

普通、逆じゃないか?

主の方が使い魔を把握しているんじゃないか?

「レインは優しいから、色々と考えちゃうんだよね。でもでも、そこは気にしないで。気にしたら負けだよ」

「負け、って……」

「にゃー……つまり、私が言いたいことは、レインは悪くないっていうこと! むしろ、すごく良いことをしたと思うよ。あのまま領主達を放っておいたら、たくさんの人が泣いていたと思うの。レインは、涙を止めることができたんだよ。それは、誇っていいことだと思うんだ」

「……カナデ……」

「だから、元気だして。悪いことは考えないで。ね?」

「……そうだな」

カナデが励ましてくれているのに、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。

やれるだけのことはやった。

完璧を求めることは難しい。

なんとか、そういう風に気持ちを切り替えることにしよう。

「私も同意見だぞ」

カナデに続いて、ステラもそう言う。

「レインは、他の人にできないことを成し遂げた。それは誇ることであって、気に病むことではない。レインがいなければ、この街はどうなっていたか……さきほども言ったが、レインはこの街の英雄だ」

「英雄はやめてくれ」

「いいや、やめないぞ。事実だからな」

ステラは意地の悪い笑みを浮かべる。

俺が戸惑っているのを理解した上で、言っているのだろう。

真面目な騎士かと思いきや、案外、意地悪な性格をしている。

「改めて、礼を言わせてほしい。ありがとう、レイン」

ステラが手を差し出してきて……

俺は、その手をしっかりと握り返した。

「もしかしたら、レインは、他のところでも英雄と呼ばれるかもしれないな」

「どうしたんだ、突然?」

「うむ。それだけのことを、レインなら成し遂げそうな気がしたのだ」

そんなことを言われてもな……

過大評価が過ぎる。

「私は、君のことを高く評価している。騎士団に入隊してみないか?」

「え? 騎士団に?」

「うむ。レインならば、きっと素晴らしい騎士になることができる。私が保証しよう。それに、今は人手が足りなくてな。どうだ? 一緒にこの街の平和と秩序を守らないか?」

「ダメダメダメー!」

なぜかカナデが拒否した。

「レインは私達と一緒に冒険をするんだからね! 騎士なんてやってられないの! ダメだからねっ」

「む、そうなのか?」

「そうなの!」

「俺の代わりに答えないでくれよ」

「だって、レインがいなくなるんじゃないか、って……」

「そんなことはないさ」

カナデの頭を撫でる。

「俺が、カナデ達と別れるわけがないだろう? 大事な仲間なんだから」

「にゃあ♪」

うれしそうにするカナデ。

その顔を見ていると、なんだか、優しい気持ちになれる。

「そうか、残念だ。振られてしまったようだな」

「悪い。俺は、冒険者の方が似合っていると思うから」

「気が変わったら、いつでも言ってほしい。歓迎するぞ」

「その時は、よろしく頼むよ」

これで話は終わりだろう。

そう判断して、出口に向かう。

「何かあれば、その時は力になるよ。遠慮なく言ってくれ」

「うむ。頼りにさせてもらう。では……またな」

「ああ、また」

ステラと挨拶を交わして、俺達は騎士団支部を後にした。