軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

698話 魔族の少女

空き部屋に移動すると、扉の前にカナデとタニア、イリスが立っていた。

この扉の向こうに魔族の少女がいる。

その見張りを三人に頼んでおいたんだ。

「様子は?」

「んー、特になにもないかな?」

「物音も声も聞こえないし、まだ寝ているっぽいわね。見ていく?」

「そのつもりだ」

「では、わたくしが一緒に……」

「「それはダメ」」

カナデとタニアがぴたりと声を合わせて、イリスを睨む。

そんな二人の視線を受けて、イリスはたじたじに。

「最近、わたくしに対して当たりが強くありません……?」

「イリスは油断ならにゃいからね」

「自分の胸に手を当てて、よーく考えてみなさい」

「しくしく……わたくしは、ただみなさんと仲良くなりたいだけなのに」

「うっ、そう言われると……」

「カナデ、こんなうそなきに騙されないでよ」

「あら、わかりまして?」

「わかるわよ!」

「えっと……俺は行くからな?」

なんだかんだ、三人は仲良くしているようでなによりだ。

少し微笑ましい気持ちになりつつ、扉の向こうへ。

「む?」

部屋に入ると、魔族の女の子と目が合う。

ちょうど起きたところらしく、ベッドの上で体を起こしていた。

「んー、よく寝ました!」

「えっと……」

「って……あれ? あれ? ここはどこでしょう? 自分は、どうしてこんなところで寝ているのでしょう? むむむ、謎であります」

魔族と身構えていたのだけど……

でも、嫌な感じはしない。

敵意も感じない。

「ここは俺の家……って言われてもわからないか。えっと……人間の街にある家だよ。街の名前はホライズンっていうんだけど、知っているか?」

「……むー、知らないであります」

答えるまで多少のタイムラグがあったのは、考えていたからだろう。

「中央大陸の南の方にある街だよ」

「ふむふむ、中央大陸でありますか……なぜ自分はそのようなところに?」

「捕まっている君を見つけて、放っておけないから連れ帰ったんだ」

「……自分を助けたのでありますか?」

「そうだな」

「……」

魔族の女の子は目を丸くした。

ややあって、ベッドの上で膝をついて、両手を揃える。

そして、静かに頭を下げた。

「ありがとうございます! とても助かりました!」

「え? あ、いや……」

「くっ、自分は、人間だからという理由で、危うく攻撃してしまいそうになりました。そんな自分が恥ずかしいであります。せめてもの詫びとして、この体、好きにしてください! さあ、さあ!」

「いやいやいや。なんでそういう話になるんだ?」

悪い子じゃなさそうだけど、とても極端な子だ。

「とりあえず、まずは自己紹介をしないか? 俺は、レイン・シュラウド。仲間達と一緒に冒険者をやっていて、このホライズンをホームにしているんだ」

「自分は、ライハであります。見ての通り、魔族です」

魔族の女の子……ライハはそう名乗り、背中の羽をぴこぴこと動かしてみせた。

「やっぱり魔族か……どうしてあんなところに?」

「それは……よくわからないであります」

「わからないのか?」

「どこかで誰かに襲われて……以来、記憶がぱったりと」

捕まり、実験を受けていたせいだろう。

タルタロスはリースが稼働させたらしいが……

同胞も利用するなんて。

「うー、なにやら記憶が曖昧で、それ以上のことは……」

「ストップ。やっぱり、今の質問はなし」

「え?」

「無理に話す必要はないよ。こちらも、無理に聞くつもりはない」

「でも……」

「自己紹介は終わったから、今はそれだけでいいよ。とりあえず、体のことを考えた方がいい。まだ本調子じゃないだろ?」

「そ、そうです」

「なら、ゆっくり休んでくれ。俺達は数日後に出かけないといけないんだけど、信頼できる人に話をして、様子を見に来てもらうようにするから」

「……」

ライハは目を丸くして、ぽかーんとした。

ややあって、眉を潜めつつ怪訝そうな目をこちらに向ける。

「あの……どうしてそこまでしてくれるのであります?」

「どうして、って……困っている人がいて、なんとかできる環境がある。なら、手を差し伸べるくらいするだろう?」

「そうじゃなくて」

ライハはとてももどかしそうだ。

「自分は魔族ですよ? 人間の敵ですよ? それなのに、なんで……」

「うーん」

色々と考えはある。

この子が抱えている事情が気になるとか。

あの研究所について、さらに追加の情報が欲しいとか。

でも一番は……

「魔族でも、困っているのなら見過ごしたくない」

「……」

再びライハは目を大きくして驚いた。

次いで、ぽろりと一筋の涙をこぼす。

「ら、ライハ……?」

「あ、自分……くうっ!」

ライハは慌てた様子で涙を手の甲で拭う。

ぐっと奥歯を噛んで、あふれる気持ちを押さえて……

「あの、あんたは冒険者なのですね?」

「そうだけど……え、どうしたんだ? どこか痛いのか?」

「いや、その……今のは気にしないでください。それよりも、頼みがあります」

「頼み?」

ライハは姿勢を正して、ひたすらに真面目な顔をして言う。

「レインさん……あなた、自分のアニキになってくれませんか!?」