軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

694話 大丈夫だから

「ウゥゥゥ……」

迷うような唸り声。

こちらを睨みつつ、でも、牙を突き立てようとはしない。

「そのまま……そのままだ」

テイムする感覚でサクラに呼びかける。

ビーストテイマーとしての力。

それと、絆の力。

その二つを頼りに、サクラを取り戻してみせる。

一歩。

また一歩と距離を詰めていく。

サクラは威嚇するように唸り声を響かせるものの、飛びかかってくることはない。

今のところ、俺の命令が効いているみたいだ。

そして……

「よし、いい子だ」

サクラに触れることができる距離まで近づくことができた。

でも……ここが限界かな?

下手に触れたりすれば、一気に敵意が膨れ上がり、攻撃されてしまうような気がした。

まずは落ち着かせることを考えよう。

「サクラ、俺だ。レインだ」

「ウゥゥゥ……」

「ほら。向こうにフィーニアもいる。イリスとティナもいて、みんな、サクラのことを心配しているぞ」

「グルゥ……」

迷うようなうなり声。

本当に敵なのか? と迷っているようだ。

良い傾向だ。

最初は俺達全員を敵とみなして暴れていたけど、今は迷いが生まれている。

このまま落ち着かせて、理性を取り戻してくれるといいんだけど……

「みんな、サクラのことを心配しているよ」

「ウゥ……」

「それに、サクラの両親のことなら心配しなくていい。眠っているだけで、命に別状はない。元に戻ることもできるはずだ」

俺達だけだと心もとないかもしれないけど……

いざとなればスズさんやアルさん。

ミルアさんにレゾナさん、エルフィンさんに相談しよう。

きっと良い知恵を貸してくれるはずだ。

「だから、戻っておいで」

「……」

サクラは大きな顔を近づけてきて、すんすんと俺の匂いを嗅いだ。

迷い。

唸り。

そしてまた迷う。

だいぶ落ち着いてきているみたいだけど、まだ、闇落ち状態から脱することができていない。

あとひと押しだと思うんだけど、どうすれば……?

「……やっぱり、リスクなしに、っていうわけにはいかないか」

俺は覚悟を決めて、そっと手を伸ばした。

「れ、レインさん、危ないです!」

「ダメですわ!」

フィーニアとイリスが止めてくるが、今は気にしない。

構うことなく手を伸ばして……静かにサクラに触れた。

「ガァッ!!!」

触るな! とばかりにサクラが激高した。

でも、これは必要なことだ。

触れることでこちらの温もりを伝えることができる。

想いを伝えることができる。

最後のひと押しをするために、どうしてもサクラに触れる必要があった。

「ぐっ!?」

怒りを瞳に燃やして、サクラは俺の肩に噛みついてきた。

牙が思い切り食い込んで、激痛と共に血があふれる。

でも、悲鳴は飲み込んだ。

下手なことをすればサクラを刺激するだけだ。

「……大丈夫だ」

「ウゥ……?」

「ほら、俺は敵じゃない。サクラにひどいことなんてしない。だから……大丈夫、大丈夫だよ」

「……ウゥ……」

「大丈夫、大丈夫……一緒に家に帰ろうな、サクラ」

噛まれつつ、なんとか体を動かしてサクラを抱きしめた。

俺の想いと熱。

それと、みんなの祈りと願い。

全部まとめて伝われと、そっとサクラを撫でる。

「ウゥ……アァ……」

そっとサクラが離れた。

恐れるように、怯えるように。

ふらふらと後退する。

でも、そのまま逃げるなんてダメだ。

「ほら、サクラ」

肩がやたら痛くて熱いけど、無視。

両手を広げて、サクラに笑顔を向ける。

「おいで」

「っ……!!!」

瞬間、サクラが光に包まれた。

それまでの闇を払うように、温かくて優しい光だ。

その中でサクラの影が形を変えていく。

巨大な体は小さくなり。

獣から人型へ。

そして……

「レイン! レイン!」

足元まで届きそうな、長い銀色の髪。

星の光を束ねたような輝きで……一房、赤が混じっている。

体は小さくて、ソラとルナと同じくらいだ。

ちょっと日焼けした感じの肌。

頭からは大きな犬耳。

お尻の辺りから、やはり大きな犬の尻尾。

それは、サクラの人型の姿だった。

「レイン、レイン! ごめん、ごめんなさい! 僕、僕……!!!」

泣きながら抱きついてくるサクラ。

そんな彼女を抱き返しつつ、頭を撫でる。

「気にすることないさ。言っただろう? 大丈夫だ、って」

「うん、うん……あううう、ぐしゅる……うんっ!!!」

サクラは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしつつも、無理矢理笑顔を浮かべて見せるのだった。