作品タイトル不明
690話 サクラの……
それは狼に似ているけれど、狼じゃない。
体長は軽く五メートルを超えている。
尻尾を含めたら十メートルオーバーだろうか?
毛並みはサクラのそれと似ていて……
そして、額には角。
ただサクラと違い、大きく鋭く、まるで巨人が扱う槍のようだ。
間違いない。
この二頭の狼がサクラの両親だろう。
人型ではなくて、サクラと同じ獣の形態だけど……
任意で変身できるのかな?
あるいは、そうさせられているのか。
「どちらにしても、だいぶまずい状況みたいだな」
二頭の呀狼族の瞳に理性はない。
あるのは殺意のみ。
ひたすらに暴れ回り、研究施設の破壊を繰り返している。
正気を失っているみたいだけど、元に戻せるかどうか。
「まずは無力化できないか、試してみるか」
魔法で治療するにしろ、サクラに呼びかけてもらうにしろ、この状態ではどうすることもできない。
少々乱暴だけど、おとなしくしてもらおう。
「グル……?」
「ガルルルゥ!」
クサナギを構えると、二頭がこちらを向いた。
武器を持ったことで敵と認識されたのだろう。
強く吠えられて、鋭い敵意を向けられる。
でも、それでいい。
「よし、こい!」
「「ガァッ!!!」」
二頭が一斉に飛びかかってきた。
ただ突撃するだけじゃなくて、わずかに時間を置いている。
その上で、左右から挟み込むかのような一撃。
理性は失っているみたいだけど、戦術、連携はしっかりと残っているようだ。
厄介だな。
「アイギス!」
最初の突撃をアイギスで受け止めた。
牙が届くことはないが、衝撃を消すことはできない。
吹き飛ばされてしまうけど、でも、それは計算通り。
そもそも、自分から床を蹴り、わざと吹き飛ばされてみせた。
そうすることでダメージを最小限に抑えた。
「グルァ!」
二頭目が追いかけてきた。
サイのように突進して、その角で俺を刺そうとする。
速い。
風のような動きで、一瞬で目の前に迫っていた。
ただ……
「ほっ」
突撃してきた二頭目の頭に手を置いて、くるっと回転。
背中の上を飛んでやり過ごす。
「ファイアーボール!」
二頭目の目の前に火球を着弾させた。
直撃はしていないものの、すぐ目の前で起きた爆発に、二頭目は悲鳴をあげてよろめいた。
ダメージは大してないだろう。
しかし、爆風と衝撃に襲われて動きを止めざるをえない。
そうして怯んだところでワイヤーを射出して、脚に絡める。
二頭目は混乱した様子を見せつつ、動きを封じられて横に倒れた。
細いけれど、強靭なワイヤーだ。
横に倒れ、力の入らない体勢なら、そうそう断ち切られることはないだろう。
「ガァッ!」
一頭目が突撃してきた。
よくもやったな、という感じで、さきほどよりも戦意が高い気がする。
理性を失っていても、パートナーを大事に想う気持ちは消えていないみたいだ。
心の奥底に残り、体を突き動かしているのだろう。
とても理想的な関係だ。
戦闘中なのだけど、二頭の絆を感じて温かい気持ちになった。
「とはいえ……」
一頭目が空を駆ける。
シグレさんがやっていたように、闘気を利用して空を走っているのだろう。
平面的な動きから立体的な動きへ。
俺の死角に回り込もうと、縦横無尽に空間を駆けてみせた。
でも、そうそう思い通りにはならないぞ?
「重力操作!」
「ガウ!?」
周囲の重力を操作してやると、一頭目が困惑した様子で地面に落ちた。
広範囲の操作は難しく、重力の変化はほんのすこしだ。
ただ、それで十分。
空を駆けるという器用なことをしている中、重力がいきなり変わったりしたら?
大きな違和感を受けて、自由に動けなくなってしまうだろう。
そして、墜落してしまう。
理性が残っていれば、冷静に対処できたかもしれないが……
今の状態では無理だろう。
「お前もおとなしくしててくれ」
二頭目と同じように、ワイヤーで四つの足を繋いでしまう。
ごろんと転がり、ジタバタと暴れるのだけど……
でも、拘束を解くことはできない。
その上で……
「止まれ!」
「「っ!?」」
俺の命令に反応して、二頭は動きを止めた。
力を見せつけた後なら、うまく命令できると思ったけど、正解だったみたいだ。
暴れるのを止めて、服従するように頭を垂れる。
「よし」
ミッション完了だ。