作品タイトル不明
667話 罰
「……ここは?」
気がつけば、ミナは見知らぬ場所にいた。
黒い大地と黒い空。
あちらこちらで炎が吹き上がり、そのおかげで視界が確保されていた。
言うなれば、世界の終末を体現したかのような場所。
しかし、このようなところに見覚えはない。
「私は、どうしてこんなところに……? えっと……」
ここに来る前はなにをしていたか?
ぼんやりとした頭で考えて……
「……あ……」
思い出した。
「そう、私は死者蘇生魔法を使って……」
命の等価交換。
それは絶対。
魔法が正常に発動したのなら、ミナの命は失われたことになる。
「それなのに、どうして……?」
ミナは自分の手を見た。
それから体を見て、どこも怪我をしていないことを確認する。
自由に動くことも確認した。
「私は確かに死んだはずなのに……あ。もしかして、ここは……」
「あら」
一つの仮説にたどり着いた時、ふと、声がした。
聞き覚えのある声。
聞き慣れた声。
忘れるはずのない、大事な仲間の声。
「リーン!?」
「やっほー」
振り返るとリーンがいた。
リースの屋敷で別れた時の姿のまま、小さな笑みを浮かべている。
「リーン!」
「うわっと!?」
ミナは感情に突き動かされるまま、リーンに抱きついた。
そのまま泣きじゃくる。
「よかった、よかった……! 本当に……!!」
「ちょっとちょっと、なんでいきなり泣くのよ?」
「だって……」
「なんか、変わったわねー。ミナって、そういうキャラじゃなかったでしょ」
「それは……」
レインやエリスの影響を受けているのだろう。
「ですが、それを言うのならば、リーンも変わっているように見えますが……」
「そう?」
「はい。なんだか……穏やかになっているように見えます」
以前のリーンは刺々しく、いつも不機嫌そうにしていた。
しかし、今は違う。
穏やかな表情をしていて……
なにか憑き物が落ちたかのように、とても落ち着いていた。
「まあ……そう見えるとしたら、アイツに負けたせいかしら」
「アイツ?」
「聞いていないの? レインよ」
「……あ……」
「魔族に堕ちてまでレインに勝とうとして、でも、ダメで……なーんか、そうなった時に色々とどうでもよくなったのよね。富とか名声とか、なんでそんなものを追い求めていたんだか。ま、今更の話だけどね」
「その言い方は、やはり……」
「そ。ここは死後の世界よ」
リーンは、わりとあっさりと衝撃的な事実を告げた。
ただ、そのことを予想していたミナは落ち着いていた。
「そうですか……やはり、私達は死んだのですね」
「そゆこと。けっこう落ち着いているわね。アッガスなんて、めっちゃ動揺してたのに」
「アッガスもいるのですか?」
「いるわよ。ただ、今は罰を受けている時間だからいないけど」
「罰?」
「ここ、地獄なのよねー」
ああ、なるほど。
二度目の衝撃的な事実に対しても、ミナは、やはり落ち着いていた。
今まで色々なことをやらかしてきたのだ。
天国に行けるわけがない。
地獄に堕ちて当然だった。
「それにしても……リーンは自由に行動できるのですか?」
「あたしの罰の時間は、もうちょい後だからねー。それ以外は、わりと自由にできるのよ」
「なんていうか……意外ですね」
「そうでもないわよ。こうして自由にできるのは、消耗した魂を回復させるため、っていうだけ。で、回復したらまた罰を受けて……そんなサイクルを繰り返しているの。ちなみに罰っていうのは、単純に殺されること。ありとあらゆる方法で、毎日、何回も殺されるの」
「……」
凄絶な話に、ミナは息を飲む。
「ま……仕方ないわね。それだけのことをしたわけだし」
「そう……ですね。私も、おとなしく罰を受けようと思います」
「……」
リーンが目を丸くした。
「どうしたのですか?」
「あんた、本当にミナ? なんか、めっちゃらしくないんですけど」
「……色々と影響を受けたのかもしれませんね」
「アイツの?」
「はい」
二人は互いに視線を交わして、
「「ふふっ」」
笑う。
ここが地獄ということも忘れて、楽しそうに笑う。
「最低最悪の場所へようこそ」
「正直言うと、これからのことを考えると怖いですが……リーンやアッガスがいるのなら、なんとかがんばれそうです」
「そんな呑気なこと、いつまで言ってられるかしら? 大抵は発狂して、そのまま消滅するのよ?」
「そうなりそうな時は、リーンが慰めてください」
「やれやれ……ま、こっちでは仲良くやっていきましょ」
「はい」
ミナはリーンと手を取り……
そして、そんな二人を、どこからともなく現れた炎が取り囲む。
罰の時間だ。
超高熱の炎が二人を焼き、文字通り地獄の苦しみを与える。
それでも、二人は手を握っていた。
ずっと。