軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

614話 大司教と聖騎士

教会というのは、神に祈りを捧げる場だ。

また、罪を告白する場でもあり、咎人が訪れることもある。

そして、祝福を受ける場でもある。

教会の神官達により、婚儀などの際に祝福を受けて、未来を約束される。

そのような儀式が行われることもある。

他、子供達に勉強を教えたり、歌で神を讃えたり、ボランティア活動に励んだり……色々な活動が行われている。

それらは、国からの助成金と信者からの寄付で賄われている。

国の直属の組織ではないものの、その権力はとても大きい。

歴代の勇者パーティーに神官を派遣するなど、数々の功績を打ち立ててきた。

その影響で大きく繁栄してきた。

しかし……

今、教会の地位は大きく傾いていた。

「……」

王都にある大教会で、一人の男性が祈りを捧げていた。

初老の男性で、白髪が多い。

体は病的なまでに痩せていて、頬もこけている。

目の下にくまができていて、最近、眠れていないことが推察された。

「あぁ……神よ」

その声は細く、弱い。

今すぐにでも消えてしまいそうだ。

勇者アリオスが私利私欲のために殺人を犯して、その称号を剥奪されて、投獄された。

大事に育ててきた、教会史上最大の力を持つと言われていた神官ミナも、同じく投獄された。

その後、脱獄をして……

勇者から一転して、指名手配犯に。

なんていう醜態。

なんていう恥晒し。

大司教アルトリウス・グレイゴムは、その知らせを聞いた時、怒りのあまり失神したものだ。

その日から、教会の権力、求心力は大きく低下した。

なにしろ、教会の顔というべきミナが反逆者となったのだ。

信頼が揺らぐのは当たり前のことで……

教会はどんどん衰退していくことに。

ミナを蔑む者はいても、神を否定する者はいない。

信者の全てがなくなったわけではない。

それでも、かつての力はなく……

そのことを嘆き、アルトリウスは寝食を削り、毎日祈りを捧げていた。

そうすることで未来が改善されると信じて。

ただ、祈るだけで全てが改善されるとは、さすがに思っていない。

そこまで楽観的ではないし、現実は見ているつもりだ。

だから、手を打つことにした。

「……大司教さま」

ややあって、祈りの場に一人の女性が現れた。

白銀の鎧に身を包み、腰に綺麗な剣を下げている。

「おお。来てくれたか、聖騎士エリスよ」

聖騎士、エリス・ランドール。

教会が持つ独自戦力で、かつ、最大戦力だ。

剣と魔法の両方に優れ、一騎当千の力を持つ。

成長限界があるため、人類最強となることはできないが……

現時点では、アリオスを上回る力を持つと言われていた。

最初は、エリスを勇者パーティーに派遣するべきでは? という話があった。

しかし、アルトリウスがその意見を消した。

最大戦力を派遣したら、教会が力を失ってしまう。

そう考えたからだ。

しかし、もう出し惜しみはしていられない。

ここで起死回生の策を成功させなければ、教会は権力の頂きから転げ落ちてしまう。

「お呼びでしょうか、大司教アルトリウスさま」

「エリス、お前に頼みたいことがある。ミナのことだ」

「……ミナ、ですか」

エリスはひざまづいて頭を下げているため、その表情は見えない。

ただ、ミナの名前が出ると、わずかに雰囲気が変わった。

「知っての通り、勇者アリオスは……いや、反逆者アリオスは現在も逃亡中だ。そして、彼に付き従うミナも行方不明だ」

「はい」

「うまく隠れているようだが、国から逃げられるとは思えない。いずれ、アリオスは捕まるだろう……ミナも捕まるだろう」

「……はい」

その時を想像したのか、エリスはわずかに声のトーンを小さくした。

「それはまずい。すごくまずい。我が教会から派遣した神官が反逆者として捕まるなんて、前代未聞だ。長い教会の歴史の中で、初めてのことだ。それだけは、絶対に避けなければならない」

「はい」

「ただ……ミナはとても優秀な子だ。その力をあっさりと捨ててしまうのは惜しい。それに、反逆者となったアリオスに、なぜ今も付き従っているのか、そこがわからない」

「同感です」

「聖騎士エリスよ、そなたに特命を与える。ミナを探し出せ。そして、その真意を確かめるのだ」

「それは、私一人でしょうか?」

「うむ。現状、教会は国から睨まれている状態だ。大きく動くことはできない。ただ、エリス一人ならばなんとかなるだろう」

「なるほど」

教会が監視されることになったのは、ミナがきっかけだ。

勇者パーティーのメンバーを育てるためとはいえ、ミナは、幼い頃から洗脳に近い教育を受けてきた。

アリオス投獄の際に、そのことが表沙汰となり……

以来、アルガスに危険視されるようになり、監視されることになった。

自業自得なのだけど、アルトリウスは己の非を認めない。

ミナの教育は必要なことだったのだと、誰に認められなくても、自己弁護を続けていた。

「可能ならば、ミナを説得して、連れ戻せ。彼女は天才だ。死者すら蘇生できる、その力……こんなことで失うのは、あまりにも惜しい」

「それは、ミナにチャンスを与えていただけるのですね?」

「うむ。多少、強引にでも連れ帰ってもいい。また、再教育すればいいからな」

アルトリウスは、簡単に再教育と口にした。

それは、とてもおぞましい内容なのだけど……

迷いを抱いている様子はないし、後悔している気配もない。

その姿は、アルトリウスという人間の本質を描いているようだった。

「どうしても、連れ帰ることが難しい場合は?」

「……消せ」

アルトリウスは冷たく言い放つ。

「はい」

エリスは表情を変えず、静かに頷いた。